銀イオンAg+に塩化物イオンCl-を加えると塩化銀AgClの沈殿が生成します(2019/04/08, 2019/04/09)。このAgCl沈殿に過剰にアンモニア水を加えると、塩化銀の沈殿は溶解します。この反応について、エクセルのソルバー機能を用いて定量的に解析します。

 

具体的には、濃度2Cag mol/Lの硝酸銀溶液に、同濃度・同体積の塩化ナトリウム溶液を加えてAgClを沈殿させます(溶液を混合し沈殿が生成する直前の硝酸銀、塩化ナトリウムの濃度はCag mol/Lです。沈殿生成による体積変化は無視します)。ここに濃度がCn mol/Lとなるようにアンモニアを添加することを考えます。計算の煩雑さを避けるためアンモニアの添加による体積の変化は無視します。

また、AgClの溶解度積を、pKsp = 9.5

アンモニウムイオンの酸解離定数を、pKn = 9.4

銀のクロロ錯体の生成定数を、logβc1=2.9, logβc2=4.7, logβc3=5.0, logβc4=5.9

ヒドロキソ錯体の生成定数を、logβo1=2.0, logβo2=4.0

アンミン錯体の生成定数を、logβn1=3.4, logβn2=7.4とし、

活量係数はすべて1とします(25)

 

<関係式>

AgおよびClの物質バランス

[Ag’] = [Ag] + [AgCl] + [AgCl2] + [AgCl3] + [AgCl4] + [AgNH3] + [Ag(NH3)2] + [AgOH] + [Ag(OH)2] = [Ag]α

ここで、

α= 1+βc1[Cl]+βc2[Cl]^2c3[Cl]^3c4[Cl]^4n1[NH3]+βn2[NH3]^2o1[OH]+βo2[OH]^2

[Cl’] = [Cl] + [AgCl] + 2[AgCl2] + 3[AgCl3] + 4[AgCl4]

 

沈殿が生成する直前の溶液中の硝酸銀、塩化ナトリウムの濃度は共にCag mol/Lなので、ここの溶液からAgClが沈殿した場合、残った溶液中のAg濃度とCl濃度の関係は次式となります。

[Ag’] = [Cl’]

 

沈殿が消えた場合は次の関係が成立します。

Cag = [Ag’] = [Cl’]

アンモニアの物質バランス

[NH3’] = [NH3] + [NH4] + [Ag(NH3)] + [Ag(NH3)2]

アンモニアは沈殿に関与しないので、常に次式が成立します。

Cn = [NH3’]

 

電荷バランス

Q = [H]-[OH]+[Ag]-[AgCl2]-2[AgCl3]-3[AgCl4]+[Ag(NH3)]+[Ag(NH3)2]-[Ag(OH)2]-[NO3]+[Na]+[NH4]-[Cl]

 

[Ag]の計算式

沈殿が生成しないとき、[Ag’] = [Ag]α, Cag = [Ag’] から、

[Ag] = Cag/α

 

沈殿が生成するとき、AgClの溶解度積から、

[Ag]= Ksp/[Cl]

 

<エクセルの取り扱い>

エクセルでの取扱いはこれまでと同じです。AgNO3およびNaClの初濃度(沈殿が生成する直前)Cag = Ccl = 0.01 mol/Lとし、アンモニア濃度Cn510^-5 mol/Lと変化せます。

ソルバーのパラメータ設定は次の通りです。

・目的セル:電荷バランス、Q = 0

・変数セル:pOHpNH3およびpCl

・制約条件:物質バランス、[Ag’][Cl’] = 0,Cn[NH3’] = 0

 

沈殿の生成消滅境界におけるパラメータ設定は、

・目的セル:電荷バランスQ = 0

・変数セル:pOH, pNH3, pCl およびCn

・制約条件:[Ag’][Cl’] = 0, Cn[NH3’] = 0 および [Ag][Cl]/Ksp = 1

 

[Ag]の計算式

・沈殿のないとき:[Ag] = Cag/α

・沈殿のあるとき:[Ag] = Ksp/[Cl]

 

結果は次の通りです。

-1

2019-05-12-fig1
 

-2

 2019-05-12-fig2

-3(計算結果(抜粋)

 2019-05-12-fig3

0.02 mol/LAgNO3溶液に同体積の0.02 mol/LNaCl溶液を加えてAgClを沈殿させ、ここにNH3を加えると、Ag(NH3)2^+イオンが生成し、添加したNH3の全濃度が0.13 mol/L付近で沈殿が完全に溶解することが分かります。