前回(2019/07/07)は、Al3+にアンモニア水を加えたときの反応について調べました。今回は、クロム(III)イオン(Cr3+)についてエクセルのソルバー機能を用いて定量的に解析します。
具体的には、濃度Ccr mol/Lの硝酸クロム(III)溶液に、濃度がCnh mol/Lとなるようにアンモニアを添加することを考えます。アンモニアの添加による溶液の体積変化は無視します。
また、Cr(OH)3の溶解度積をpKsp = 29.8
アンモニウムイオンの酸解離定数をpKn = 9.37
クロム(III)のヒドロキソ錯体の生成定数を、
logβo1=10.0, logβo2=18.3, logβo3=24.0, logβo4=28.6
とし、これ以外の平衡は無視します*。活量係数は1とします(25℃)。
*実際には、沈殿の生成始めは水酸化物と塩基性塩の混合物が生成する。また多核錯体やアンミン錯体の生成も知られているが、ここではこのような平衡は無視することとする。
Ccr = 0.1 mol/Lとし、Cnhの値を変化させたときのCr(OH)3の溶解度Sおよび化学種濃度をエクセルのソルバー機能を用いて求めます。
●ソルバーのパラメータ設定
・目的セル:電荷バランス、Q =0
・変数セル:pH およびpNH3
・制約条件:アンモニアの物質バランス、R = Cnh-[NH3’] = 0
●特に、沈殿の生成・消滅境界におけるパラメータ設定は、
・目的セル:電荷バランスQ =0
・変数セル:pH, pNH3 およびCnh
・制約条件:R = 0 および[Cr][OH]^3/Ksp = 1
●[Cr]の計算式
・沈殿のないとき:[Cr] =Ccr/α
・沈殿のあるとき:[Cr] =Ksp/[OH]^3
結果は次の通りです。
図-1(アンモニア濃度に対する溶解度・化学種濃度)
図-2(溶解度・化学種濃度のpH依存性)
図-3(溶解度および沈殿率)
図-4(エクセルシート(計算式の例))
0.1 mol/L硝酸クロム(III)溶液にアンモニアを加えると、添加したアンモニア濃度が0.09 mol/L(pH 4.7)付近でCr(OH)3の沈殿生成が始まり、アンモニア濃度0.4 mol/L (pH 9.0)付近で溶解度は最小(S=2.5×10^-6 mol/L)となります。さらにアンモニアを加えると、溶解度は増加に転じます。
クロム(III)の化学種について言うと、沈殿生成時はCrOH^2+が優勢ですが、当量点(Cnh=0.3 mol/L(pH6.3))付近ではCr(OH)2^+が優勢となり、当量点を過ぎて溶解度が最小となるときはCr(OH)3が主となります。さらにアンモニアを過剰に加えると、Cr(OH)4^-が優勢となります。
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