滴定曲線、溶解度などーエクセルを用いて

酸塩基反応、沈殿反応、錯生成反応などの溶液内イオン平衡についてエクセル(EXCEL)を用いて理論的に解析し、滴定曲線の作成や溶解度の計算などをしていきたいと思います。

2019年08月

前々回(2019/08/11)、前回(2019/08/18)CaCl2溶液にNa2CO3を加えることを考えましたが、今回はBaCl2溶液にNa2CO3を加えます。やり方は、CaCl2のときと同じです。

 

濃度Cba = 0.01 mol/LBaCl2溶液にNa2CO3を添加することを考えます。添加した全Na2CO3濃度をCxmol/Lとします。体積変化はなしです。

 

用いた平衡定数(25)は次の通りです。

BaCO3の溶解度積:

 Ksp = [Ba][CO3],  pKsp = 8.3

BaOH+の生成定数:

 βo = [BaOH]/([Ba][OH]),  logβo = 0.64

BaCO3の生成定数:

 βc = [BaCO3]/([Ba][CO3]),  logβc = 2.71

CO2の酸解離定数:

 K1 = [H][HCO3]/[CO2],  pK1 = 6.33
 K2 = [H][CO3]/[HCO3],  pK2 = 10.33

Na2CO3の添加による溶液の体積変化は無視します。また、活量係数はすべて1とし、CO2の気相との平衡は考えないこととします。

 

<関係式>

●物質バランス

[Ba’] = [Ba][BaOH][BaCO3]

[CO3’] = [CO3][HCO3][CO2][BaCO3]

= [CO3](1[H]/K2[H]^2/(K2K1)+βc[Ba]) = [CO3]α 

 

BaCO3の沈殿量は、Cba[Ba’]およびCx[CO3’] に対応するので、

Cba[Ba’] = Cx[CO3’]

の関係が成立します。

当然、この関係式は沈殿生成がない場合も成立します。

 

●電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ba][BaOH][HCO3]2[CO3][Na][Cl] = 0

 

各化学種の濃度

[H] = 10^-pH

[OH] = 10^-14/[H]

[Ba] = 10^-pBa 

[BaOH] = βo[Ba][OH]

[BaCO3] =βc[Ba][CO3]

[CO3] = Ksp/[Ba]   (沈殿のあるとき)

[CO3] = Cba/α    (沈殿のないとき)

[HCO3] = [CO3][H]/K2

[CO2] = [HCO3][H]/K1

[Cl] = 2Cba

[Na] = 2Cx

 

<エクセルの取り扱い>

前々回(2019/08/11)CaCl2の取り扱いと同様です。ただし、変数セルにはpHおよびpBaを選定しました(もちろん変数をpOH,pCO3としてもかまいません)

 

結果は次の通りです。

<化学種濃度>

添加したNa2CO3と溶液中の化学種の関係について調べました。

結果を-1に示します。当量点(Cx=0.01 mol/L)までは、Ba^2+イオンおよびHCO3^-イオンが主ですが、当量点を過ぎるとBaCO3(aq)およびCO3^2-イオンが主となることが分かります。

 

-1(化学種分布)

2019-08-25-fig1

 

<沈殿率>

0.01 mol/LBaCl2溶液にNa2CO3を添加したときの沈殿率を-2に示します。Na2CO3濃度が およそ10^-5 mol/Lを超えるとBaCO3の沈殿生成が始まり、Na2CO3濃度の増加とともに沈殿率は上昇し、当量点(Na2CO3濃度 0.01 mol/L)を少し超えると沈殿率はほぼ100%になります。

 

-2BaCO3の沈殿率)

2019-08-25-fig2
 

 

<溶解度>

Cba=0.01 mol/Lの溶液に濃度がCx mol/LとなるようにNa2CO3を添加したときの溶解度(S)を求めました。Na2CO3添加濃度またはCO3^2-イオン濃度と溶解度(S)の関係を-3、図-4に示します。BaCl2濃度(Cca)に対して当量以上の十分な量のNa2CO3が加えられ、[CO3]が大きくなると溶解度(S)は一定値(3×10^-6mol/L)になることが分かります(S=Kspβc)

 

-3

 2019-08-25-fig3

-4

2019-08-25-fig4
 

 

<エクセル表(抜粋)

 

-5
2019-08-25-fig5



前回(2019/08/11)の続きです。

 

<化学種濃度>

前回のデータを使って、添加したNa2CO3と溶液中の化学種の関係について調べました。

結果を-1に示します。

-1(化学種分布

2019-08-18-fig1
 

当量点(Cx=0.01 mol/L)までは、Ca^2+イオンおよびHCO3^-イオンが主ですが、当量点を過ぎるとCaCO3(aq)およびCO3^2-イオンが主となることが分かります。

 

<溶解度>

Cca=0.1, 0.01, 0.001 mol/Lの溶液について濃度がCx mol/LとなるようNa2CO3を添加したときの溶解度(S)を求めました。結果を-2に示します。

CaCl2濃度(Cca)に対して当量以上の十分な量のNa2CO3を加えると、溶解度(S)は一定値(10^-5 mol/L)になることが分かります。

-2

 2019-08-18-fig2

また、CO3^2-イオン濃度[CO3]と溶解度(S)の関係を-3に示します。

溶解度(S)[CO3]が大きくなると一定値(0^-5 mol/L)になることが分かります。

-3

2019-08-18-fig3

<Sの概略値計算>

[Ca’] = [Ca][CaOH][CaCO3][CaHCO3]

= [Ca](1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3])

沈殿平衡が成立するとき、Kspc = [Ca][CO3],  S= [Ca’]なので、

S = [Ca’]

= (Kspc/[CO3])(1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3])

= (Kspc/[CO3])(1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3]) …①

 

またCO3^2-の加水分解定数をKh1,Kh2とすると、

Kh1=Kw/K2 = 2.0×10^-4 >> Kh2=Kw/K1=2.2×10^-8なので、1段目の加水分解のみが進行する、と仮定する。

CO3^2+ H2O HCO3^- OH^-

Kh1 = [HCO3][OH]/[CO3]

ここでさらに、

[HCO3]=[OH]

[CO3]=Cx[HCO3]=Cx[OH]Cx

と仮定すると、

[OH]^2 = Kh1×Cx

[OH] = (Kh1×Cx)

[OH]/[CO3] = (Kh1/Cx)

 

したがって、①式は、

S = Kspc{1/Cx(βo+βh)(Kh1/Cx)+βc} …①

となる。

 

たとえば、Cx =0.1mol/Lのとき、βo=20, βh=18なので、①{  }において、

1/Cx(βo+βh)(Kh1/Cx) = 12

この値はβc(=1600)に対して無視できる(仮定は妥当)

また、たとえば、Cx =1mol/Lのとき、

1/Cx(βo+βh)(Kh1/Cx) = 1.5

この値はβc(=1600)に対して無視できる(仮定は妥当)

 

このように、Na2CO3が十分多量に添加されると、①式は、

= Kspcβc =9.5×10^-6 mol/L

となる。





濃度Cca= 0.01 mol/LCaCl2溶液にNa2CO3を添加することを考えます。添加した全Na2CO3濃度をCx mol/Lとします。


用いた平衡定数
(25)は次の通りです。

CaCO3の溶解度積:

 Kspc = [Ca][CO3],  pKspc= 8.22

CaOH^+の生成定数:

 βo= [CaOH]/([Ca][OH]),  logβo= 1.3

CaCO3の生成定数:

 βc= [CaCO3]/([Ca][CO3]),  logβc = 3.2

Ca(HCO3)^+の生成定数:

 βh= [CaHCO3]/([Ca][HCO3]),  logβh= 1.25

CO2の酸解離定数:

 K1 = [H][HCO3]/[CO2],  pK1= 6.35

 K2 = [H][CO3]/[HCO3],  pK2= 10.3

Na2CO3の添加による溶液の体積変化は無視します。また、活量係数はすべて1とし、気相CO2との平衡は考えないこととします。

 

<関係式>

物質バランス

[Ca’]= [Ca][CaOH][CaCO3][CaHCO3]

= [Ca](1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3])= [Ca]α

[CO3’]= [CO2][HCO3][CO3][CaCO3][CaHCO3]

CaCO3の沈殿量は、(Cca[Ca’])および(Cx[CO3’])に相当するので、

Cca[Ca’] = Cx[CO3’]

の関係が成立します。

この関係式は沈殿生成の有無にかかわらず常に成立します。

 

電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3][HCO3]2[CO3][Na][Cl] = 0

 

各化学種の濃度

[OH] = 10^-pOH

[H] = 10^-14/[OH]

[Ca] = Ksp/[CO3]  (沈殿のあるとき)

または、[Ca] = Cca/α  (沈殿のないとき)

[CaOH] = βo[Ca][OH]

[CaCO3] = βc[Ca][CO3]

[CaHCO3] = βh[Ca][HCO3]

[CO3] = 10^-pCO3

[HCO3] = [CO3][H]/K2

[CO2] = [HCO3][H]/K1

[Cl] = 2Cca

[Na] = 2Cx

 

<エクセルの取り扱い>

エクセルでのソルバーのパラメータ

・目的セル:電荷バランス、Q =0

・変数セル:pOH, pCO3

・制約条件:R = CcaCx([Ca’][CO3’])= 0

 

沈殿の生成・消滅の境界におけるパラメータ

・目的セル:電荷バランスQ =0

・変数セル:pOH, pCO3 およびCx

・制約条件:R = 0, および [Ca][CO3]/Ksp = 1

[Ca]の計算式:[Ca] = Cca/α

 

<結果>

結果は次の通りです。

-1CaCO3の沈殿率)

 2019-08-11-fig1

-2(計算結果(抜粋)

 2019-08-11-fig2

0.01 mol/LCaCl2溶液にNa2CO3を添加するとき、Na2CO3濃度が 10^-5 mol/Lを超えるとCaCO3の沈殿生成が始まり、Na2CO3濃度の増加とともに沈殿率は上昇し、当量点(Na2CO3

濃度 0.01 mol/L)を少し超えたところで沈殿率はほぼ100%になります。

Ca(OH)2については、どの段階においても[Ca][OH]^2の値が溶解度積(Kspo=6.5×10^-6)を越えないのでCa(OH)2の沈殿は生成しません。


Ca(OH)2溶液にCO2ガスを吹き込むとCaCO3が生成して溶液が白く濁る現象はよく知られています。この反応について、エクセルのソルバー機能を用いて定量的に解析します。

 

濃度Cca = 0.005 mol/LCa(OH)2溶液にCO2ガスを吹き込むことを考えます。溶解した全CO2濃度をCx mol/Lとします。

用いた平衡定数(25)は次の通りです。

CaCO3の溶解度積: Ksp = [Ca][CO3],  pKsp= 8.22

CaOH^+の生成定数:βo= [CaOH]/([Ca][OH]),  logβo= 1.3

CaCO3の生成定数:βc= [CaCO3]/([Ca][CO3]),  logβc = 3.2

Ca(HCO3)^+の生成定数:βh= [CaHCO3]/([Ca][HCO3]),  logβh= 1.25

CO2の酸解離定数:K1 = [H][HCO3]/[CO2],  pK1= 6.35

         K2 = [H][CO3]/[HCO3],  pK2= 10.3

活量係数はすべて1とします。また、気相中のCO2との平衡は考えないこととします。

 

<関係式>

物質バランス

[Ca’]= [Ca][CaOH][CaCO3][CaHCO3]

 = [Ca](1+βo[OH]c[CO3]+βh[HCO3]) = [Ca]α

[CO3’]= [CO2][HCO3][CO3][CaCO3][CaHCO3]

 

Cca, Cxおよび[Ca’], [CO3’]の間には、沈殿生成の有無にかかわらず常に次の関係が成立します。

CcaCx = [Ca’][CO3’]

 

電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3][HCO3]2[CO3]= 0

 

<エクセルの取り扱い>

エクセルでのソルバーのパラメータは次の通り。

・目的セル:電荷バランス、Q =0

・変数セル:pOH, pCO3

・制約条件:R = CcaCx([Ca’][CO3’])= 0

[Ca]の計算式

 ・沈殿がないとき:[Ca] = Cca/α

 ・沈殿があるとき:[Ca] =Ksp/[CO3]

 

特に、沈殿の生成・消滅の境界におけるパラメータ設定は、

・目的セル:電荷バランスQ =0

・変数セル:pOH, pCO3 およびCx

・制約条件:R = 0 および [Ca][CO3]/Ksp = 1

[Ca]の計算式:[Ca] = Cca/α

 


結果は次の通りです。

-1(化学種分布)

 2019-08-04-fig1

-2CaCO3の溶解度)

 2019-08-04-fig2

-3CaCO3の沈殿率)

 2019-08-04-fig3

-4(計算結果(抜粋)

 2019-08-04-fig4


0.005 mol/LCa(OH)2溶液にCO2ガスを吹込むと、CO2濃度 10^-5mol/L付近で CaCO3の沈殿生成が始まり、CO2の吹込み量の増加とともに沈殿量は増加し、当量点(CO2濃度 0.005 mol/L, pH=10.0)で沈殿生成量は最大となります。さらに過剰に吹込むと今度は沈殿量が減少に転じ、CO2濃度 0.017 mol/L(pH=6.5)付近で沈殿は完全に消滅します。

 

遊離の炭酸の化学種についていうと、CO2の吹込み量の増加とともに当然、遊離の炭酸の化学種は増加しますが、当量点付近まではCO3^2-濃度が優勢ですが、当量点を超えるとしだいにHCO3^-が優勢になっていくことが分かります。

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