滴定曲線、溶解度などーエクセルを用いて

酸塩基反応、沈殿反応、錯生成反応などの溶液内イオン平衡についてエクセル(EXCEL)を用いて理論的に解析し、滴定曲線の作成や溶解度の計算などをしていきたいと思います。

2019年09月

今回は、酢酸-酢酸アンモニウム緩衝液を含む酢酸バリウム((CH3COO)2Ba)溶液にK2CrO4を加えることを考えます。なお、(CH3COO)2BaBaAc2と略します。

BaAc2, HAc, NH4Ac, K2CrO4の添加濃度をそれぞれ、Cba, Ca, Cn, Ccr (mol/L)とします。

平衡定数は、

Ksp = [Ba][CrO4],  pKsp = 9.67

K1 = [H][HCrO4]/[H2CrO4],  pK1 = 0.2

K2 = [H][CrO4]/[HCrO4],  pK2 = 6.51

Ka = [H][Ac]/[HAc],  pKa = 4.76

Kn = [H][NH3]/[NH4],  pKn = 9.25

とします。また、活量係数はすべて1とします。

 

<関係式>

●物質バランス

[CrO4’] = [CrO4][HCrO4][H2CO4]

Cba[Ba] = Ccr[CrO4’]

 

●電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ba][HCrO4]2[CrO4][NH4][Ac][K] = 0

 

各化学種の濃度

[H] = 10^-pH

[OH] =10^-14/[H]

[Ba] = Ksp/[CrO4]  (沈殿のあるとき)

または、[Ba] = Cba  (沈殿のないとき)

[CrO4] = 10^-pCrO4

[HCrO4] = [CrO4][H]/K2

[H2CrO4] = [HCrO4][H]/K1

[NH3] = Cn/(1+[H]/Kn)

[NH4] = [H][NH3]/Kn

[Ac] = (2CbaCaCn)/(1+[H]/Ka)

[HAc] = [H][Ac]/Ka

[K] = 2Ccr

 

<エクセルの取り扱い>

エクセルでのソルバーのパラメータ

・目的セル:電荷バランス、Q = 0

・変数セル:pH, pCrO4

・制約条件:R = CbaCcr([Ba][CrO4’]) = 0

 

沈殿の生成・消滅の境界におけるパラメータ

・目的セル:電荷バランスQ = 0

・変数セル:pH, pCrO4 およびCcr

・制約条件:R = 0 および [Ba][CrO4]/Ksp = 1

[Ba]の計算式:[Ba] = Cba

 

<結果>

結果は次の通りです。

BaAc2, HAc, NH4Acの濃度がそれぞれ、Cba = 0.01mol/L, Ca =0.8 mol/L Cn =0.4 mol/Lの溶液にK2CrO4を添加したときの溶解度を-1に示します。

K2CrO4の添加濃度がおよそ3×10^-5 mol/L以上で沈殿の生成が始まります。

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 2019-09-29-fig1


また、K
2CrO4を添加の添加濃度と沈殿率の関係を-2に示します。比較のため、同様にして計算したSrAc2(pKsp=4.65)の沈殿率についても同図に示します。

BaCrO4は、当量よりやや過剰にK2CrO4を添加すれば定量的に沈殿が生成します。一方、SrCrO4は、K2CrO4を大過剰に加えない限り、沈殿は生成しません。したがってK2CrO4を適切に添加すればBa2+Sr2+の分離が可能であることが分かります。

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2019-09-29-fig2

計算例を-3に示します。

-3

2019-09-29-fig3

 

(2019/08/11)は「CaCl2溶液にNa2CO3を加える」ことを考えましたが、今回はCaCl2溶液に(NH4)2CO3を添加することを考えます。またNH3の添加の効果について調べます。

 

CaCl2, (NH4)2CO3, NH3の添加濃度をそれぞれ、Cca, Cx, Cn (mol/L)とします。

用いた平衡定数(25)(2019/08/11)の通りです。

アンモニウムイオンの酸解離定数は、pKn = 9.37 とします。

(NH4)2CO3, NH3の添加による溶液の体積変化は無視します。また、活量係数はすべて1とし、CO2の気相との平衡は考えないこととします。

 

<関係式>

●物質バランス

[Ca’] = [Ca][CaOH][CaCO3][CaHCO3]

= [Ca](1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3]) = [Ca]α

[CO3’] = [CO2][HCO3][CO3][CaCO3][CaHCO3]

[NH3’] = [NH3][NH4]

Cca[Ca’] = Cx[CO3’]

 

●電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3][HCO3]2[CO3][NH4][Cl] = 0

 

各化学種の濃度

[H] = 10^-pH

[OH] =10^-14/[H]

[Ca] = Ksp/[CO3]  (沈殿のあるとき)

または、[Ca] = Cca/α  (沈殿のないとき)

[CaOH] =βo[Ca][OH]

[CaCO3] = βc[Ca][CO3]

[CaHCO3] = βh[Ca][HCO3]

[CO3] = 10^-pCO3

[HCO3] = [CO3][H]/K2

[CO2] = [HCO3][H]/K1

[Cl] =2Cca

[NH3] = (2CxCn)/(1+[H]/Kn)

[NH4] = [H][NH3]/Kn

 

<エクセルの取り扱い>

エクセルでのソルバーのパラメータ

・目的セル:電荷バランス、Q = 0

・変数セル:pH, pCO3

・制約条件:R = CcaCx([Ca’][CO3’]) = 0

 

沈殿の生成・消滅の境界におけるパラメータ

・目的セル:電荷バランスQ = 0

・変数セル:pH, pCO3 およびCx

・制約条件:R = 0, および [Ca][CO3]/Ksp = 1

[Ca]の計算式:[Ca] = Cca/α

 

<結果>

結果は次の通りです。

CaCl2およびNH3の濃度がそれぞれ、Cca = 0.01mol/L, Cn =0, 0.2, 1 mol/L の溶液に(NH4)2CO3を添加したときの溶解度を-1に示します。また、比較のため(NH4)2CO3の代わりにNa2CO3を添加したときの溶解度を-2に示します。

図から分かるように、(NH4)2CO3を過剰に加えると溶解度は減少し、沈殿は完全になっていくことが分かります。しかし、(NH4)2CO3Na2CO3を比べると、(NH4)2CO3の方が溶解度の減少が緩やかです。これはおなじ濃度でもpHの違いでNa2CO3より(NH4)2CO3の方がCO32-の生成率が悪いためです。(NH4)2CO3NH3を共存させると、この欠点を解消することができます。

 

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 2019-09-22-fig1

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 2019-09-22-fig2

計算例を-3に示します。

 

-3

 2019-09-22-fig3

Na2CO3HClで滴定する二段階滴定法において、第2中和点のpH変化はあまり鋭敏ではありません。これは第1中和点を過ぎるとHCO3-/CO2の緩衝作用によりpHの変化が緩慢になるためです。pH変化を鋭敏にするためには溶液を煮沸してCO2を除去する手段が有効です。今回はこのことについて考察します。

 

<基礎的事項>

炭酸(H2CO3)は炭酸水素イオン(HCO3-)や炭酸イオン(CO32-)と酸塩基平衡を保つとともに、溶液中のCO2(aq)や大気中のCO2(gas)とも平衡関係にあります。

気液平衡:

溶液に溶けている二酸化炭素CO2(aq)は、大気中の二酸化炭素CO2(gas)と平衡関係にあり、これはヘンリーの法則に従います。

CO2(gas) CO2(aq) …①

この平衡定数をK0とすると、

K0 = [CO2(aq)]/PCO2 = 3.4×10^-2  (at 25)

ここで、PCO2は大気中のCO2分圧です。

たとえば、大気中のCO2分圧はおよそ400 ppmですが、この場合は

[CO2(aq)] =400/10^6×3.4×10^-2 = 1.4×10^-5 (mol/L)

となります。

 

CO2(aq)の水和:

溶液内の化学種CO2H2CO3の間には溶液のpHには関係なく常に次の関係が成立ます。

CO2 H2O H2CO3 …②

Kh = [H2CO3]/[CO2] = 1.0×10^-3  (at 25)

この値から分かるように、溶液中ではほとんどCO2のかたちで存在してH2CO3のかたちで存在するのは極わずかです

 

●1段目の酸解離:

H2CO3 H+ HCO3- …③

K1’ = [H+][HCO3-]/[H2CO3] = 4.2×10^-4  (at 25)

一般に、②と③はまとめて、

CO2(aq) H2O H+ HCO3- …④

Ka1 = K1’×Kh = [H+][HCO3-]/[CO2(aq)] = 4.3×10^-7  (at 25)

と表されます。

 

●2段目の酸解離:
HCO3-H+ CO32- …⑤

Ka2 = [H+][CO32-]/[HCO3-] = 4.6×10^-11  (at  25)

 

<滴定における大気のCO2との平衡>

Na2CO3HClで滴定する二段階滴定において、常温で迅速に滴定を行えば、生成したCO2は溶液中に留まり、大気のCO2との平衡はほとんど考える必要がありません。

 

しかし、第2中和点間近で煮沸をして滴定すると、煮沸により溶液中のCO2が大気に放出されるので、大気中のCO2との平衡を考える必要が生じてきます。


たとえば、「Cno mol/LNaOHおよびCco mol/LNa2CO3含む混合溶液V1 mLに水V2 mLを加え、指示薬としてフェノールフタレイン(変色域pH10.08.3)を加えてCyo mol/LHClで滴定する(滴下量:T mL)。フェノールフタレインで第1中和点を検出した後、メチルレッド(変色域pH6.34.2)を加えて滴定を続け、溶液が黄色から赤色に変色したら溶液をゆっくりと煮沸してCO2を追い出して冷却する(溶液の色はもとの黄色に戻る)。さらに滴定を続けて赤色になるまで滴定する(第2中和点)」という滴定について考えます。

 

煮沸する前は、通常のジプロトン酸の滴定曲線です。これについてはこのブログを参照してくだい。

 

煮沸した後は、CO2が大気中に散逸して、CO2(aq)は大気中のCO2(gas)と平衡が成立すると仮定すると、大気中のCO2(gas)400 ppmのとき、

[CO2(aq)] = 1.4×10^-5 (mol/L)

となります。したがって、

[HCO3-] = Ka1[CO2(aq)]/[H+]

[CO32-] = Ka2[HCO3-]/[H+] = Ka2Ka1[CO2(aq)]/[H+]^2

という関係式が得らえます。大気との平衡がある場合は大気と溶液の間で二酸化炭素の出入りがあるので、平衡濃度はNa2CO3の初濃度Ccoとは無関係になります。

 

また、電荷バランスは、

Q = [H+][OH-][HCO3-]2[CO32-][Na+][Cl-]= 0

Na+およびCl-の物質バランスは、

[Na+] = (2CcoCno)V1/(V1V2T)

[Cl-] = CyoV2/(V1V2T)

 

<二分法による滴定曲線の作成>

これらの関係式から、二分法を用いてTpHの関係を求めます。

Cco=0.05 mol/L,Cno=0.1 mol/L, V1=10 mL, V2=40 mL, Cyo=0.1 mol/Lとし、T=19.3 mLにおいて煮沸した場合について、結果を-1に示します。

T=19.3 mLまでは通常の滴定曲線(青い線)ですが、T=19.3 mLにおいて煮沸すると、CO2は大気中に放出され、pH5.6から8.2へと上昇します。さらに滴定を続けると当量点(pH=5.6)の前後で急激なpH変化が見られます(赤い線)。したがって非常に精度の良い滴定が可能となります(*1)

(*1) 煮沸して終点を鋭敏にする方法はJIS  K 86252017  炭酸ナトリウム(試薬)」で採用されている。この方法では、指示薬としてブロモフェノールブルー(変色pH域:34.6)を用いて、青紫から青みの緑になる点を終点としている。また薬局方ではブロモクレゾールグリーン(変色pH域:3.85.4)が用いられている。

 

-1
2019-09-15-figa



二分法の計算例を-2に示します。

 

-2

2019-09-15-fig2



ウインクラー法の滴定曲線を求め、ワルダー法と比較します。

 

以前、Na2CO3NaOHの混合物をHClで滴定する二段階滴定法について述べました(2019/03/24)。この方法はワルダー法と呼ばれ、「第1中和点は、NaOH全量とNa2CO3NaHCO3にまで中和されたときに対応し、第2中和点は、NaOH全量とNa2CO3CO2にまで中和されたときに対応するので、「第1中和点から第2中和点までに要したHClの物質量」の2倍が「Na2CO3の物質量」になり、また「第1中和点までに要したHClの物質量」と「第1中和点から第2中和点までに要したHClの物質量」の差が「NaOHの物質量」になります。

 

ワルダー法に代わる方法としてウインクラー法 (*1)と呼ばれる方法があります。この方法は、試料にBaCl2を加えNa2CO3BaCO3として沈殿させ、溶液に残ったNaOHHClで滴定する方法です。今回は、このウインクラー法の滴定曲線を描いてみます。

(*1) 溶存酸素の定量に用いられるウインクラー法とは別。

 

ウインクラー法では、酸塩基反応と沈殿反応が競合するので、滴定曲線を描く場合、ワル

ダー法で用いた「二分法」のテクニックを用いることができません。したがって、少しめんどうですが、滴定剤の添加量ごとにエクセルのソルバー機能を用いてpHの解を求めます。

 

たとえば、Cno=0.1 mol/LNaOHおよび Cco=0.02mol/LNa2CO3を含む試料溶液V1=10 mLCbo=0.05 mol/LBaCl2溶液V2=10 mL、水V3=30 mLおよびフェノールフタレイン(指示薬)を加えることを考えます。BaCl2を加えると沈殿が生成しますが、この沈殿生成や指示薬の添加による体積変化は無視します。溶液の混合においては、体積の加成性が成立するものとします。

この懸濁溶液をCyo=0.1 mol/LHClで滴定します(滴下量:T mL)。フェノールフタレインの変色点を第1終点とします。さらに、メチルオレンジ(指示薬)を加えて滴定を続け、メチルオレンジの変色点を第2終点とします。

 

この条件で理論的滴定曲線を求めます。用いた平衡定数は、前々回(2019/08/25)と同じです。大気中のCO2との平衡は考えません。

 

 

各滴定段階(滴下量:T mL)におけるNaOH, Na2CO3, BaCl2およびHClの濃度(式量濃度)をそれぞれCn , Cc , Cb , Cy とすると、各濃度は次式で与えられます。

Cn = CnoV1/(V1+V2+V3+T)

Cc = CcoV1/(V1+V2+V3+T)

Cb = CboV2/(V1+V2+V3+T)

Cy = CyoT/(V1+V2+V3+T)

この濃度を基に、それぞれの滴定段階(滴下量:T mL)ごとにソルバー操作を行います。

 

<関係式>

●物質バランス

[Ba’] = [Ba][BaOH][BaCO3]

[CO3’] = [CO3][HCO3][CO2][BaCO3]

= [CO3](1[H]/K2[H]^2/(K2K1)+βc[Ba]) = [CO3]α 

 

BaCO3の沈殿量は、(Cb[Ba’])および(Cc[CO3’]) に相当するので、

Cb[Ba’] = Cc[CO3’]

の関係が成立します。

この関係式は沈殿生成の有無にかかわらず常に成立します。

 

●電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ba][BaOH][HCO3]2[CO3][Cl][Na] = 0

 

各化学種の濃度

[H] = 10^-pH

[OH] =10^-14/[H]

[Ba] =10^-pBa

[BaOH] =βo[Ba][OH]

[BaCO3] = βc[Ba][CO3]

[CO3] = Ksp/[Ba]  (沈殿のあるとき)

または、[CO3] = Cba/α (沈殿のないとき)

[HCO3] = [CO3][H]/K2

[CO2] = [HCO3][H]/K1

[Cl] = 2CbCy

[Na] = 2CcCn

 

<エクセルの取り扱い>

エクセルでのソルバーのパラメータ

・目的セル:電荷バランスQ = 0

・変数セル:pH, pBa

・制約条件:R = CbCc([Ba’][CO3’]) = 0

 

●特に、沈殿の生成・消滅の境界においては、

・目的セル:電荷バランスQ = 0

・変数セル:pH, pBa およびT

・制約条件:R = 0, および [Ba][CO3]/Ksp = 1

[CO3]=Cb/α

 

<結果>

●ウインクラー法の滴定曲線

滴定曲線を-1に示します。試料溶液にBaCl2を加えるとNa2CO3BaCO3沈殿として取り除かれ、溶液中にはNaOHだけが残ります。ここにHClを滴下すると最初、BaCO3沈殿は溶解せず、NaOHだけが中和され、NaOHが過不足なく中和された時点(1中和点)においてpHが大きく変化します。このとき沈殿はほとんど溶解していません。しかし、さらにHClの滴下を続けると、沈殿はしだいに溶解してやがて消滅します。これ以降はNaOHNa2CO3が中和されるようになり、これらが過不足なく中和された時点(2中和点)においてさらにpHが大きく変化します。なおBaCO3の沈殿がHClに溶解する様子は前回(2019/09/01)述べています。

 

-1

2019-09-08-fig1
 

●ウインクラー法とワルダー法の比較

ウインクラー法とワルダー法の比較を-2に示します。ワルダー法では第1中和点(NaOHNa2CO3NaHCO3中和)pH変化がやや緩慢であるのに対し、ウインクラー法では第1中和点(NaOHの中和)ではpH変化が急激で、NaOHの精度良い定量が可能です(*2)
(*2) この方法は「JIS  K 85762019  水酸化ナトリウム(試薬)」で採用されている。この方法では、指示薬としてフェノールフタレイン溶液(変色pH域:8.310.0)およびブロモフェノールブルー溶液(変色pH域:3.04.6)を用いている。

なお、第2中和点のpH変化はウインクラー法、ワルダー法とも同じです(*3)

(*3) 第2中和点の検出は、ここで用いた逐次的方法でなく、別試料を採取してワルダー法で実施することも可能である。 2中和点のpH変化を鋭敏にする方策としては、第1中和点以降、溶液を煮沸してCO2を除去する方法が有効である。このとき指示薬としてはメチルオレンジよりもメチルレッドを用いるとよい。これら考察については、別途報告する。

  

-2

 2019-09-08-fig2

●データ(抜粋)

-3


 2019-09-08-fig3


改訂版はこちら

前回(2019/08/25)BaCl2溶液にNa2CO3を加えてBaCO3が沈殿する様子を調べましたが、今回はBaCO3に塩酸を加えてBaCO3が溶解する様子を調べます。

 

BaCO3 (Cba=0.01 mol)に水を加えて1 Lにした懸濁液に塩酸を加えることを考えます。塩酸の添加濃度をCy mol/Lとします。塩酸の添加や沈殿物の減少・消滅による溶液の体積変化はないものとします。また活量補正はしません。

 

用いた平衡定数は前回(2019/08/25)の通りです。

 

<関係式>

●物質バランス

[Ba’] = [Ba][BaOH][BaCO3] = [Ba](1+βo[OH]+βc[CO3]) =[Ba]α

[CO3’] = [CO3][HCO3][CO2][BaCO3]

 

溶液中には固体のBaCO3から溶解した化学種のみしか存在しないので、

[Ba’] = [CO3’]

の関係が成立します。

この関係式は沈殿の有無にかかわらず常に成立します。

 

●電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ba][BaOH][HCO3]2[CO3][Cl] = 0

 

各化学種の濃度

[H] = 10^-14/[OH]

[OH] =10^-pOH

[Ba] = Ksp/[OH]^2  …(沈殿ありの場合)

[Ba] = Cba/α   …(沈殿なしの場合)

[BaOH] =βo[Ba][OH]

[BaCO3] = βc[Ba][CO3]

[CO3] = 10^-pCO3

[HCO3] = [CO3][H]/K2

[CO2] = [HCO3][H]/K1

[Cl] = Cy

 

<エクセルの取り扱い>

ソルバーのパラメータ

・目的セル:電荷バランス、Q = 0

・変数セル:pOH, pCO3

・制約条件:R =[Ba’][CO3’] = 0

[Ba]= Ksp/[CO3]  …(沈殿ありの場合)

[Ba]= Cba/α   …(沈殿なしの場合)

 

沈殿の生成・消滅の境界におけるパラメータ

・目的セル:電荷バランスQ = 0

・変数セル:pOH, pCO3 およびCy

・制約条件:R = 0, および [Ba’] = 0.01

[Ba]の計算式:[Ba]=Ksp/[CO3]

 

<結果>

●化学種の分布

HClの添加とともにBaCO3の沈殿が溶解して溶液中のBa2+濃度が増加することがわかります。


-1(化学種分布)

2019-09-01-fig1
 

 

●沈殿率

HClの添加濃度が0.015 mol/L付近でBaCO3の沈殿は消滅します。


-2BaCO3の沈殿率)
2019-09-01-fig2
  

pH

HClの添加の初期に急激なpHの下降があり、やがてなだらかになるが、沈殿消滅後、当量点(HClの添加濃度0.02 mol/L)でふたたび急激なpHの下降がみられます。

-3pH

2019-09-01-fig3
 

 

●データ(抜粋)

-4(データ(抜粋)

 2019-09-01-fig4

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