滴定曲線、溶解度などーエクセルを用いて

酸塩基反応、沈殿反応、錯生成反応などの溶液内イオン平衡についてエクセル(EXCEL)を用いて理論的に解析し、滴定曲線の作成や溶解度の計算などをしていきたいと思います。

2021年06月

前回(2021/06/20)に引き続き、今回は全アンモニア濃度を一定にしてpHを変化させたときの塩基性銅塩の溶解度を求めます。   

高校の教科書等では、銅(II)溶液に少量のアンモニア水を加えると水酸化銅(II)が生成すると記されていますが、実際に沈殿するのは塩基性塩で、その組成は生成条件によって異なります。 硝酸銅や硫酸銅の水溶液にアンモニアを添加した場合、もっとも安定的に生成する沈殿は、Cu(NO3)23Cu(OH)2CuSO43Cu(OH)2です(*1)
4Cu(NO3)2
6NH36H2O Cu(NO3)23Cu(OH)26NH4NO3
4CuSO4
6NH36H2O CuSO43Cu(OH)26NH4NO3
(*1) 生成した沈殿を熱分解するとNO2あるいはSO3ガスを発生することや、滴定法・X線回折法などで確認できる。   

<アンモニア溶液に対する塩基性硝酸銅の溶解度>
塩基性硝酸銅 Cu(NO3)23Cu(OH)2の溶解度積は、Ksp = [Cu][OH]^1.5[NO3]^0.5, pKsp = 16.316.9程度です。ここでは、pKsp = 16.3の値を用いて溶解度を計算します。   

全濃度Cn mol/Lのアンモニアを含みpHを様々に変化させた溶液に対する塩基性硝酸銅(Cu(NO3)23Cu(OH)2)の溶解度(S)をエクセルで求めます。pHの調整は強酸(HX)または強塩基(NaOH)の添加によって行い、添加による溶液の体積の変化はないものとします。活量係数は考慮しません。   

(II)-アンモニア系の平衡は、次のようになります。
(
反応式)
Cu2+
NO3- CuNO3+
Cu2+
NH3 CuNH32+
Cu2+
2NH3 Cu(NH3)22+
Cu2+
3NH3 Cu(NH3)32+
Cu2+
4NH3 Cu(NH3)42+
Cu2+
OH- CuOH+
Cu2+
2OH- Cu(OH)2(aq)
Cu2+
3OH- Cu(OH)3-
Cu2+
4OH- Cu(OH)42-
NH4+
NH3 H+
H2O
H+ OH- 
Cu(NO3)2
3Cu(OH)2(s)  4Cu2+ 2NO3- 6OH-   

(平衡定数式)
βs= [CuNO3]/([Cu][NO3])
βn1= [CuNH3]/([Cu][NH3])
βn2= [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2)
βn3= [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3)
βn4= [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4)
βo1= [CuOH]/([Cu][OH])
βo2= [Cu(OH)2]/([Cu][OH]^2)
βo3= [Cu(OH)3]/([Cu][OH]^3)
βo4= [Cu(OH)4]/([Cu][OH]^4)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Ksp = [Cu][OH]^1.5[NO3]^0.5
平衡定数値は-中に示します。   

(物質収支式)
Ca = [X]
Cn = [NH3]
[NH4]+Σj*[Cu(NH3)j]
溶液中の全銅濃度を[Cu]とすると、
[Cu
]
= [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]
 + [CuNO3]
沈殿平衡成立時は[Cu]が溶解度(S) (mol/L)ということになります。
またNO3-は溶解した塩基性硝酸銅に由来するので、溶液中の全硝酸濃度を[NO3]とすると、
[NO3
] = [CuNO3][NO3] = [Cu]/2
となります。   

(電荷収支式)
Q = [H]
[OH] +2([Cu]+Σ[Cu(NH3)j])[CuOH][Cu(OH)3]2[Cu(OH)4][NH4][X] [CuNO3][NO3]= 0 

溶解平衡が成立している場合、Ksp = [Cu][OH]^1.5[NO3]^0.5が成立するのでこの式から[Cu]を求めることが可能です。したがって、溶解平衡が成立している場合の各化学種の濃度は、次のようになります。
[Cu] =Ksp/([OH]^1.5[NO3]^0.5)
[CuNO3] =
βs[Cu][NO3]
[CuNH3] =
βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2] =
βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3] =
βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4] =
βn4[Cu][NH3]^4
[CuOH] =
βoi[Cu][OH]
[Cu(OH)2] =
βoi[Cu][OH]^2
[Cu(OH)3] =
βoi[Cu][OH]^3
[Cu(OH)4] =
βoi[Cu][OH]^4
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[X] = Ca
[NH3
] =Σ(j*[Cu(NH3)j])[NH3][NH4]
[Cu
] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]
[CuNO3] = S

[NO3] = [Cu]/2   

これらの関係式からエクセルのソルバーを用いてSを求めます。
目的セル:Q (目標値:"0")
変数セル:Ca, pNH3, pNO3 (Caは強酸(HX)濃度。Caの値が負の場合は負号を外した値がNaOH濃度を表す。)
制約条件:R1 = Cn[NH3’],  R2 = [Cu’]/2[NO3’],

Cn = 0, 0.01, 0.1, 1 mol/Lの場合についてpH314まで変化させて求めた塩基性硝酸銅の溶解度Sについて計算結果(抜粋)-pHlog S図を-に示します。-2中には比較のためCu(OH)2の溶解度(破線)(2021/06/20)も示します。   

-
2021-06-27-fig1

-
2021-06-27-fig2

-から明らかなように、Cn=01 mol/LにおいてCu(NO3)23Cu(OH)2Cu(OH)2の溶解度を比べると、pH56より小さい場合はCu(NO3)23Cu(OH)2のほうが小さく、pH56より大きい場合はCu(OH)2のほうが小さいことがわかります。このことは、硝酸銅溶液に少量のアンモニアを加えてpHを上げた場合、最初Cu(OH)2ではなく塩基性硝酸銅の方が優先的に沈殿することを示唆しています。   

<アンモニア溶液に対する塩基性硫酸銅の溶解度>
塩基性硫酸銅CuSO43Cu(OH)2の溶解度積は、Ksp = [Cu][OH]^1.5[SO4]^0.25, pKsp = 17.117.3程度です。ここでは、pKsp = 17.2の値を用いて溶解度を計算します。
CuSO4
3Cu(OH)2(s)  4Cu2+ SO42- 6OH-   

全濃度Cn mol/Lのアンモニアを含みpHを様々に変化させた溶液に対する塩基性硫酸銅(CuSO43Cu(OH)2)の溶解度(S)をエクセルで求めます。pHの調整は強酸(HX)または強塩基(NaOH)の添加によって行い、添加による溶液の体積の変化はないものとします。活量係数は考慮しません。   

塩基性硫酸銅の溶解度(S)の求め方は前述の塩基性硝酸銅の場合と同様です。
Cn = 0.1 mol/L
の場合の計算結果を-3示し、pHlog S図を-に示します。   

-
2021-06-27-fig3

-
2021-06-27-fig4

-から明らかなように、アンモニア濃度がCn=0.1 mol/Lの場合、pHがおよそ7より小さい場合はCuSO43Cu(OH)2の溶解度のほうがCu(OH)2の溶解度より小さいことがわかります。このことは、硫酸銅溶液に少量のアンモニアを加えた場合は、最初Cu(OH)2ではなく塩基性硫酸銅が優先的に沈殿することを示唆しています。   

 

Cu2+イオンにアンモニアを少量加えると青白色の沈殿を生じ、さらに多量加えると沈殿が消えて深青色の錯イオン溶液となります。以前、硝酸銅溶液にNH3を徐々に加えていったときの沈殿生成と化学種濃度分布の様子について調べましたが、このときは水酸化銅(Cu(OH)2)の沈殿が生成するものとして計算しました(2019/05/05)(*1)
(*1)実際には、少量のアンモニアを加えるとできる沈殿は塩基性塩である。 
ここで改めて、水酸化銅、塩基性塩の沈殿生成と銅-アンミン錯体生成の平衡関係について調べたいと思います。今回は全アンモニア濃度を一定にしてpHを変化させたときの水酸化銅の溶解度についてです。

<銅(II)-アンモニア系の錯生成平衡>
水酸化銅、塩基性塩の沈殿生成を考える前に、銅(II)-アンモニア系の最も単純なモデルとして、銅の全濃度がCcu mol/L, アンモニアの平衡濃度が[NH3] mol/Lのときの銅に関する化学種の濃度について考えます。このとき銅のヒドロキソ錯体および沈殿は生成しないものと仮定します。
(
反応式)
Cu2+
NH3 CuNH32+
Cu2+
2NH3 Cu(NH3)22+
Cu2+
3NH3 Cu(NH3)32+
Cu2+
4NH3 Cu(NH3)42+
(
平衡定数式)
βn1= [CuNH3]/([Cu][NH3])
βn2= [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2)
βn3= [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3)
βn4= [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4)
(
物質収支式)
Ccu = [Cu]
[CuNH3][Cu(NH3)2][Cu(NH3)3][Cu(NH3)4]   

この条件のもと、物質収支式および平衡定数から、各化学種の濃度を求めます。
物質収支式および平衡定数式から、
Ccu = [Cu]
+βn1[Cu][NH3]+βn2[Cu][NH3]^2+βn3[Cu][NH3]^3+βn4[Cu][NH3]^4
 = [Cu](1
+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2+βn3[NH3]^3+βn4[NH3]^4) =[Cu]α
(
ここで、α= 1+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2+βn3[NH3]^3+βn4[NH3]^4)
したがって、各化学種濃度は、
[Cu] = Ccu/
α
[CuNH3] =
βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2] =
βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3] =
βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4] =
βn4[Cu][NH3]^4
となり、Ccuおよび[NH3]の値を与えれば、各化学種の濃度(C)を求めることができます。   

エクセルを用いて作成した、Ccu = 0.01 mol/Lにおけるlog[NH3]C分布図、log[NH3]log C分布図を-1、図-2に示します。NH3の平衡濃度[NH3}が増加すると、途中中間錯体(CuNH32+, Cu(NH3)22+ , Cu(NH3)32+)が優勢となりますが、やがて最終的にCu(NH3)42+が優勢な錯体となることがわかります。   

-
2021-06-20-fig1

図-2

2021-06-20-fig2

<アンモニア溶液に対する水酸化銅の溶解度>
全濃度Cn mol/Lのアンモニアを含みpHを様々に変化させた溶液に対する水酸化銅(Cu(OH)2)の溶解度(S)をエクセルで計算します。pHの調整は強酸(HX)または強塩基(NaOH)の添加によって行い、添加による溶液の体積の変化はないものとします。   

(II)-アンモニア系の平衡は、次ぎのようになります。
(
反応式)
Cu2+
NH3 CuNH32+
Cu2+
2NH3 Cu(NH3)22+
Cu2+
3NH3 Cu(NH3)32+
Cu2+
4NH3 Cu(NH3)42+
Cu2+
OH- CuOH+
Cu2+
2OH- Cu(OH)2(aq)
Cu2+
3OH- Cu(OH)3-
Cu2+
4OH- Cu(OH)42-
NH4+
NH3 H+
H2O
H+ OH- 
Cu(OH)2(s)
⇄  Cu2+ 2OH-   

(平衡定数式)
βn1= [CuNH3]/([Cu][NH3])
βn2= [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2)
βn3= [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3)
βn4= [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4)
βo1= [CuOH]/([Cu][OH])
βo2= [Cu(OH)2]/([Cu][OH]^2)
βo3= [Cu(OH)3]/([Cu][OH]^3)
βo4= [Cu(OH)4]/([Cu][OH]^4)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Ksp = [Cu][OH]^2
平衡定数値は-中に示します。   

(物質収支式)
Ca = [X]
Cn = [NH3]
[NH4]+Σj*[Cu(NH3)j]
溶液中の全銅濃度を[Cu]とすると、
[Cu
]
= [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]
沈殿平衡成立時は[Cu]が溶解度(S) (mol/L)ということになります。   

(電荷収支式)
Q = [H]
[OH]2([Cu]+Σ[Cu(NH3)j])[CuOH][Cu(OH)3]2[Cu(OH)4][NH4][X]= 0 

溶解平衡が成立している場合、Ksp = [Cu][OH]^2が成立するのでこの式から[Cu]を求めることが可能です。したがって、溶解平衡が成立している場合の各化学種の濃度は、次のようになります。
[Cu] =Ksp/[OH]^2
[CuNH3] =
βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2] =
βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3] =
βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4] =
βn4[Cu][NH3]^4
[CuOH] =
βoi[Cu][OH]
[Cu(OH)2] =
βoi[Cu][OH]^2
[Cu(OH)3] =
βoi[Cu][OH]^3
[Cu(OH)4] =
βoi[Cu][OH]^4
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[X] = Ca
[NH3
] =Σ(j*[Cu(NH3)j])[NH3][NH4]
[Cu
] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]++Σ[Cu(NH3)j] = S   

エクセルのソルバーを用いてSを求めます。
目的セル:Q (目標値:"0")

変数セル:Ca, pNH3 (Caは強酸(HX)濃度。Caの値が負の場合はNaOH濃度を表す。)
制約条件:R = Cn[NH3]
Cn = 0, 0.01, 0.1, 1 mol/L
の場合についてpH415まで変化させて求めたCu(OH)2の溶解度Sについて計算結果(抜粋)-pHlog S図を-に示します。   

-
2021-06-20-fig3

-
2021-06-20-fig4

また、Cn = 1 mol/Lのときの化学種の濃度分布(pHlog C)-に示します。   

-
2021-06-20-fig5

滴定剤用のNaOH溶液を調製するにあたっては、できる限り炭酸塩を含まないような調製法をとる必要があります。また滴定剤の保存および使用においても大気中のCO2との接触をできるだけ避ける工夫が必要です*1)。今回は、CO2で汚染したNaOHを滴定剤として用いた場合の滴定曲線と滴定誤差について調べます。   

*1) NaOHは固体・溶液に限らず大気中のCO2を吸収して炭酸塩で汚染される危険性を持っている。JIS等に記載されている滴定剤用のNaOH溶液の調製・標定方法は次の通り:
「使用する水は、煮沸して溶存気体及び二酸化炭素を除去した後、ソーダ石灰を詰めた二酸化炭素吸収管を接続して保存する。CO2を含まないNaOH溶液を作るためには、市販のNaOH試薬に含まれるNa2CO3(試薬の保管中に空気中のCO2を吸収する場合もある)を除くため、まずNaOH濃度約50%の濃厚水溶液を作り数日放置してNa2CO3を沈降させる(NaOHの濃厚水溶液にNa2CO3は不溶)。目的濃度のNaOH溶液を作るには、放置した濃厚水溶液の上澄み液を取り、二酸化炭素を除去した水で適宜希釈する。作ったNaOH溶液はソーダ石灰を詰めた二酸化炭素吸収管を接続して保存する。標準物質としてアミド硫酸を用いブロモチモールブルー溶液を指示薬として標定する。」   

<滴定曲線>
標定後空気中のCO2を吸収したNaOH溶液を滴定剤として用いて塩酸を滴定した場合の滴定曲線を求めます。   

エクセルで滴定曲線を描く場合、「二分法」(2019/03/08)、「レビ法」(2019/03/12)などいくつかのやり方があります。二分法は滴下量を与えてpHを求める方法、レビ法はpHを与えて滴下量を求める方法です。レビ法を用いる場合は、pHの関数として滴下量の式(滴定曲線の式)を求める必要があります。   

Cco mol/LCO2を含んだCbo mol/LNaOHを滴定剤として用い、Cao mol/LHCl, Va mLを滴定する場合の滴定曲線の式(滴下量: Vb mL)は次式で与えられます(2021/04/18)

Vb = Va(CaoΔ)/(Cbo(2f0f1)CcoΔ)
ここで、Δ=[H][OH]
f0 = [CO3]/Cc = 1/(1[H]/K2[H]^2/(K2K1))
f1 = [HCO3]/Cc = f0[H]/K2   

Va/Vb(横軸)に対するpH(縦軸)の滴定曲線を描く場合は、
Vb/Va = (CaoΔ)/(Cbo-(2f0+f1)CcoΔ)
となります。   

例題1  (1) 0 , (2) 1×10^-5 , (3) 3×10^-5 , (4) 1×10^-4 , (5) 3×10^-4 mol/LCO2を含む0.01 mol/L NaOH溶液を滴定剤として用いて、0.01 mol/LHClを滴定したときの滴定曲線と当量点のpH
エクセルを用いてレビ法Va/Vb(横軸)に対するpH(縦軸)の滴定曲線を描くこととする。
① あるCO2濃度(Cco mol/L)およびpHについて、次式をもちいてVb/Vaを計算する(-1C)
Vb
/Va = (CaoΔ)/(Cbo-(2f0+f1)CcoΔ)
② What-If分析のデータテーブル機能によってCcoおよびpHを変化させたときの複入力データテーブルを作成し、Vb/Vaを求める(-1FK)
③ データテーブルにおいてソルバー機能を用いて各CcoにおいてVb/Va=1となるようなpHを求める。このpHが当量点となる。
④ データテーブルを変形してVb/Vaに対するpHの値の表を作る(-1MR)
⑤ ④の表(MR)から範囲を指定して散布図を作り、滴定曲線を描く。

計算結果および滴定曲線を-1-(拡大図)に示す。

図-1
2021-06-13-fig1

-
2021-06-13-fig2

-1~2から明らかなように、滴定剤(NaOH)CO2が微量でも混入すると、当量点のpHが7から56くらいまで低下することがわかる。

<滴定誤差>
Cco mol/LCO2を含むCbo mol/LNaOHを滴定剤として用い、Cao mol/LHCl, Va mLを滴定する場合の滴定率をφ = CboVb/(CaoVa)とすると、滴定誤差(E=φend1)
E =
φend1= (Cbo/Cao)(Cao
Δend)/(Cbo(2f0f1)CcoΔend)1
となります(2021/05/02)。   

例題2 例1におけるpH滴定誤差との関係は? また、例1(2) (Cco = 1×10^-5 mol/L)において指示薬としてブロモチモールブルー(pHend=6.5とする)またはフェノールフタレイン(pHend=8.5とする)を用いた場合の滴定誤差は?
エクセルを用いてpHに対する滴定誤差E%を求める。
① あるCO2濃度(Cco mol/L)およびpHについて、
E =
φend1= (Cbo/Cao)(Cao
Δend)/(Cbo(2f0f1)CcoΔend)1
をもちいてE%を計算する(-3C)
② 
What-If分析のデータテーブル機能によってCcoおよびpHを変化させたときの複入力データテーブルを作成し、E%を求める(-3FK)

③ データテーブルにおいてソルバー機能を用いて各CcoにおいてE%=0となるようなpHを求める。このpHが当量点となる。
④ ③のデータテーブルから範囲を指定して散布図を作り、滴定曲線を描く。

計算結果およびpHと滴定誤差E%の関係を-3に示す。

-
2021-06-13-fig3

-から指示薬としてブロモチモールブルー(pHend=6.5)を用いたときの滴定誤差は、+0.053%、フェノールフタレイン(pHend=8.5)を用いたときの滴定誤差は、+0.16%となる。
二酸化炭素による滴定誤差を小さくするためには、指示薬としてフェノールフタレインよりもブロモチモールブルーを用いた方がよい。   

<滴定曲線と二酸化炭素化学種の分布>
例題3 2×10^-3 mol/LCO2を含む0.01 mol/L NaOH溶液を滴定剤として用いて、0.01 mol/LHCl, 10 mLを滴定したときの滴定曲線とCO2の化学種分布は
ここでは二分法を用いた。滴下量Vb mLに対応するpH[CO3], [HCO3], [CO2]を求め、滴定曲線およびCO2の全濃度と化学種分布図を描く。結果を-4、-図5に示す。   

-
2021-06-13-fig4

-
2021-06-13-fig5

当然のことであるが、滴下量Vbの増加とともにCO2の全濃度は増加し、またpHの変化とともにCO2の化学種分布は変化する。   

位子がブレンステッド塩基の場合、金属イオンとともにプロトンとも反応するので錯生成平衡はpHの影響を受けます。ブレンステッド塩基の配位子としては、NH3, CN-, F-, EDTAなどがあります。またpHが高くなると金属イオンは水酸化物イオンとヒドロキソ錯体を作りますこのように錯生成平衡は多かれ少なかれpHの影響を受けます

<錯生成平衡に対するpHの影響>
ここでは、Ag(I)NH3系およびZn(II)NH3系を例として、「平衡の系統的解析法」(2020/09/27)およびエクセルのソルバー機能を用いて錯生成平衡に対するpHの影響を調べます。   

例題1 Cag = 10^-4 mol/Lの硝酸銀、Cn = 0.1 mol/Lのアンモニアを含む溶液にHNO3(またはNaOH)を加えてpHを調整した溶液中の化学種の平衡濃度は? ただし、銀-アンミン錯体の全生成定数:logβn1=3.31, logβn2=7.23、銀-ヒドロキソ錯体の全生成定数:logβo1=2.0, logβo2=4.0、アンモニウムイオンの酸解離定数:pKn=9.24、水のイオン積:pKw=14とする。また硝酸(またはNaOH)の添加による溶液の体積変化はないものとする。活量係数による補正はしない。
HNO3の濃度をCa mol/Lとし、「平衡の系統的解析法」(2020/09/27)に従って計算を実施する。
ステップ1 関係する反応式は、
Ag+
NH3 Ag(NH3)+
Ag+
2NH3 Ag(NH3)2+
Ag+
OH- AgOH
Ag+
2OH- Ag(OH)2-
NH4+
NH3 H+
H2O
H+ OH-   

ステップ2 平衡定数式は、
βn1= [Ag(NH3)]/([Ag][NH3])
βn2= [Ag(NH3)2]/([Ag][NH3]^2)
βo1= [AgOH]/([Ag][OH])
βo2= [Ag(OH)2]/([Ag][OH]^2)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
Kw = [H][OH]
   

ステップ3 物質収支式は、
Cag = [Ag]
[Ag(NH3)][Ag(NH3)2]
Cag+Ca = [NO3]
Cn = [NH3]
[NH4][Ag(NH3)]2[Ag(NH3)]

ステップ4: 電荷収支式は、
[H]
[OH][Ag][Ag(NH3)][Ag(NH3)2][Ag(OH)2][NH4][NO3] = 0   

ステップ5, 6: 未知数10([H], [OH], [Ag], [Ag(NH3)], [Ag(NH3)2], [AgOH], [Ag(OH)2], [NH3], [NH4], [NO3])、方程式10個なのでこの式は解くことができる。   

ステップ7: エクセルのソルバー機能を用いて、化学種濃度を求める。
・目的セル: Q = [H][OH][Ag][Ag(NH3)][Ag(NH3)2][Ag(OH)2][NH4][NO3] 
・目標値: "0"
・変数セル: Ca, pNH3
・制約条件: Cn[NH3] = 0
化学種濃度は、
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
αag = 1+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2+βo1[OH]+βo2[OH]^2
[Ag] = Cag/
αag
[Ag(NH3)] =
βn1[Ag][NH3]
[Ag(NH3)2] =
βn2[Ag][NH3]^2
[AgOH] =
βo1[Ag][OH]
[Ag(OH)2] =
βo2[Ag][OH]^2
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[NO3] = Cag+Ca
[NH3
] = [NH3][NH4][Ag(NH3)]2[Ag(NH3)2]
となる。   

pH113を与えて得られた結果を-1に示す(*1)
(*1) 硝酸濃度Caが負の値になった場合はNaOHを添加したと考える。   

-
2021-06-06-fig1

また、pHに対する化学種濃度の対数値の分布図を-に示す。   

-

2021-06-06-fig2
 

例題2 Czn = 10^-4 mol/Lの硝酸亜鉛、Cn = 0.2 mol/Lのアンモニアを含む溶液にHNO3(またはNaOH)を加えてpHを調整した溶液中の化学種の平衡濃度は? ただし、亜鉛-アンミン錯体の全生成定数:logβn1=2.2, logβn2=4.4, logβn3=6.7, logβn4=8.7、亜鉛-ヒドロキソ錯体の全生成定数:logβo1=5.0, logβo2=10.2 logβo3=13.9, logβo4=15.5、アンモニウムイオンの酸解離定数:pKn=9.25、水のイオン積:pKw=14とする。また硝酸(またはNaOH)の添加による溶液の体積変化はないものとする。活量係数による補正はしない。
HNO3の濃度をCa mol/Lとし、「平衡の系統的解析法」に従って計算を実施する。
ステップ1 関係する反応式は、
Zn2+
NH3 ZnNH32+
Zn2+
2NH3 Zn(NH3)22+
Zn2+
3NH3 Zn(NH3)32+
Zn2+
4NH3 Zn(NH3)42+
Zn2+
OH- ZnOH+
Zn2+
2OH- Zn(OH)2
Zn2+
3OH- Zn(OH)3-
Zn2+
4OH- Zn(OH)42-
NH4+
NH3 H+
H2O
H+ OH-   

ステップ2 平衡定数式は、
βn1= [Zn(NH3)]/([Zn][NH3])
βn2= [Zn(NH3)2]/([Zn][NH3]^2)
βn3= [Zn(NH3)3]/([Zn][NH3]^3)
βn4= [Zn(NH3)4]/([Zn][NH3]^4)
βo1= [ZnOH]/([Zn][OH])
βo2= [Zn(OH)2]/([Zn][OH]^2)
βo3= [Zn(OH)3]/([Zn][OH]^3)
βo4= [Zn(OH)4]/([Zn][OH]^4)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
Kw = [H][OH]
   

ステップ3 物質収支式は、
Czn = [Zn]
+Σ[Zn(OH)i]+Σ[Zn(NH3)j]
2Czn+Ca = [NO3]
Cn = [NH3]
[NH4]+Σ(j*[Zn(NH3)j])

ステップ4: 電荷収支式は、
Q = [H]
[OH]2([Zn]+Σ[Zn(NH3)j])[ZnOH][Zn(OH)3]2[Zn(OH)4][NH4][NO3] = 0
ステップ5, 6: 未知数14個、方程式14個なのでこの式は解くことができる。   

ステップ7: エクセルのソルバー機能を用いて、化学種濃度を求める。
・目的セル: Q 
・目標値: "0"
・変数セル: Ca, pNH3
・制約条件: Cn[NH3] = 0
化学種濃度は、
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
αZn = 1+Σβoi[OH]^i++Σβnj[NH3]^j
[Zn] = Czn/
αZn
[Zn(OH)i] =
βoi[Zn][OH]^i
[Zn(NH3)j] =
βnj[Zn][NH3]^j
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[NO3] = Czn+Ca
[NH3
] =Σ(j*[Zn(NH3)j])[NH3][NH4]
となる。   

pHに1~ 13を与えて得られた結果を図-3に示す(*1)

-
2021-06-06-fig3

また、pHに対する化学種濃度の対数値の分布図を-に示す。   

-

2021-06-06-fig4
 

多核錯体など
以上の計算では、アンモニアの酸塩基平衡および単核のヒドロキソ錯体の生成を考慮しました。しかし、場合によっては多核錯体などの複雑な形の錯体を考慮に入れる必要があります。   

たとえば、Fe(III)OH系では、
2Fe3+
2OH- Fe2(OH)24+
3Fe3+
4OH- Fe3(OH)45+
などの多核錯体を生成することが知られています。
また、Fe(III)EDTA系では、FeHEDTA, Fe(OH)EDTAといった錯体も生成します。   

たとえこのような複雑な錯体が生成しても、その錯生成定数が既知ならば「平衡の系統的解析法」を用いて化学種濃度を計算することが可能です。

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