(1) pM→Tの関係式から
Cmo=0.002 mol/LのCa2+イオンを含む溶液Vm=50 mLにpH緩衝液(KOH)を加えてV=60 mLにして、Cyo =0.01 mol/LのEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線を求めます。 pHは 13.0とします。
用いた平衡定数は次の通り(イオン強度μ=0.1のときの値)。
・EDTA(H4Y)の酸解離定数:
K1= [H][H3Y]/[H4Y] pK1 = 2.00
K2= [H][H2Y]/[H3Y] pK2 = 2.69
K3= [H][HY]/[H2Y] pK3 = 6.13
K4= [H][Y]/[HY] pK4 = 10.37
・Ca-EDTAキレートの生成定数:
Kf = [CaY]/([Ca][Y]) logKf = 10.7
これらの値から、pH = 13.0におけるf0および条件生成定数は、
f0 = [Y]/[Y’] =1/(1+[H]/K4+[H]2/(K4K3)+[H]3/(K4K3K2)+[H]4/(K4K3K2K1))= 0.998
Kf’ = [CaY]/([Ca][Y’]) = Kff0 logK f’ = 10.65
となります。
「EDTA滴定の基礎」(2020/05/03)の関係式⑩(次式)およびpM=-log[M]から、pMに2.8~11.0の値を与えて、Tを求めました。
T = {(CmoVm-[M]V)(1+Kf’[M])}/{[M](1+Kf’[M]+Kf’Cyo)}
結果を図-1に示します(なお、T=0, 10のときのpMの値はソルバーを用いて求めました)。
図-1
(2) ソルバーによる厳密解
Ccao=0.002 mol/LのCaCl2を含む溶液Vm =50 mLにpH緩衝液(KOH:Cko=6.0 mol/L, Vk=2mL)を加えてV=60 mLにしたあと、Cyo=0.01 mol/LのEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線を求めます。CaOH+, CaHY-イオンが生成すること、および場合によってCa(OH)2の沈殿が生成することを考慮します。
用いた平衡定数は上記(1)の値に加えて、
Ca2+ + OH-⇄ CaOH+
βo = [CaOH]/([Ca][OH]), logβo = 1.1
CaY 2- + H+ ⇄ CaHY-
Kh =[CaHY]/([CaY][H]), logKh = 3.1
Ca(OH)2(s) ⇄ Ca2++2OH-
Ksp =[Ca][OH]2, pKsp = 4.9
および
Kw =[H][OH], pKsp = 13.8
とします(イオン強度μ=0.1のときの値)(*1)。
(*1) 実際の滴定時のイオン強度は0.1ではないが、イオン強度による補正はしない。
<関係式>
試料V mLに滴定剤T mLを加えた被滴定溶液(滴定途中の溶液)に関して、次のような関係が成立します。
・被滴定溶液中の全濃度:
CaCl2:Cca= CcaoVm/(V+T)
KOH:Ck = CkoVk/(V+T)
EDTA(Na2H2Y):Cy = CyoT/(V+T)
・カルシウムの物質バランス:
[Ca*] = [Ca]+[CaOH]+[CaY]+[CaHY]
・EDTAの物質バランス:
[Y*] = [Y]+[HY]+[H2Y]+[H3Y]+[H4Y]+[CaY]+[CaHY]
・電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+2[Ca]+[CaOH]-2[CaY]-[CaHY]-4[Y]-3[HY]-2[H2Y]-[HY]-[Cl]+[Na]+[K]=0
・化学種濃度:
[H] = 10-pH
[OH] = Kw/[H]
[Ca] = 10-pCa (沈殿が生成しないとき)
[Ca] = Ksp/[OH]2 (沈殿が生成するとき)
[CaOH] = βo[Ca][OH]
[CaY] = Kf[Ca][Y]
[CaHY] = Kh[CaY][H]
[Y] = 10-pY
[HY] = [H][Y]/K4
[H2Y] = [H][HY]/K3
[H3Y] = [H][HY]/K2
[H4Y] = [H][HY]/K1
[Cl] = 2Cm
[Na] = 2Cy
[K] = Ck
<エクセルシートの作成>
次の3ケースに分けてソルバー計算をします。
・沈殿が生成しないときのパラメータ設定:
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pH, pY, pCa
・制約条件:
・カルシウムの物質バランス、Rca = Cca-[Ca*] = 0
・EDTAの物質バランス、Ry= Cy-[Y*] = 0
・[Ca]の計算式:[Ca] = 10-pCa
・沈殿の生成境界におけるパラメータ設定:
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pH, pY, pCa, T
・制約条件:
・Rca = Cca-[Ca*] = 0
・Ry= Cy-[Y*] = 0
・A = [Ca][OH]2/Ksp = 1
・[Ca]の計算式:[Ca] = 10-pCa
・沈殿が生成するときのパラメータ設定:
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pH, pY
・制約条件:Ry = Cy-[Y*] = 0
・[Ca]の計算式:[Ca] = Ksp/[OH]2
<結 果>
計算結果を図-2に示します。この結果では、CaOH+の生成は滴定曲線に影響を与えますが、CaHY-はほとんど影響を与えません。また、滴定の最初(つまりKOHを添加始めるとき)にCa(OH)2の沈殿が生じることが分かります(*2)。
(*2) 2 mmol/LのカルシウムはおよそpH13で沈殿が始まる(2020-01-19)。実際の滴定では、Ca(OH)2の沈殿生成を避けるため、最初に当量点に達しない程度のEDTAを加えたあとKOHを加え、さらにEDTAで滴定することを行っている(JIS K 0102)。
図-2
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