EDTAによるカルシウムの滴定曲線を求めます。まず、①EDTA滴定の基礎」(2020/05/03)において導いた式を用いて、pH13における滴定曲線を描きます。ついで、②CaOH+, CaHY-の錯生成およびCa(OH)2の沈殿生成を考慮に入れ、ソルバーを用いてもう少し厳密な計算をして滴定曲線を求めます。

 

(1) pMTの関係式から

Cmo=0.002 mol/LCa2+イオンを含む溶液Vm=50 mLpH緩衝液(KOH)を加えてV=60 mLにして、Cyo =0.01 mol/LEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線を求めます。 pHは 13.0とします。

用いた平衡定数は次の通り(イオン強度μ=0.1のときの値)

EDTA(H4Y)の酸解離定数:

K1= [H][H3Y]/[H4Y]  pK1 = 2.00

K2= [H][H2Y]/[H3Y]  pK2 = 2.69

K3= [H][HY]/[H2Y]  pK3 = 6.13

K4= [H][Y]/[HY]  pK4 = 10.37

Ca-EDTAキレートの生成定数:

Kf = [CaY]/([Ca][Y])  logKf = 10.7

 

これらの値から、pH = 13.0におけるf0および条件生成定数は、

f0 = [Y]/[Y’] =1/(1+[H]/K4+[H]2/(K4K3)+[H]3/(K4K3K2)+[H]4/(K4K3K2K1))= 0.998

Kf’ = [CaY]/([Ca][Y’]) = Kff0  logK f’ = 10.65

となります。

 

EDTA滴定の基礎」(2020/05/03)の関係式⑩(次式)およびpM=log[M]から、pMに2.811.0の値を与えて、Tを求めました。

T = {(CmoVm[M]V)(1+Kf’[M])}/{[M](1+Kf’[M]+Kf’Cyo)}


結果を-1に示します(なお、T=0, 10のときのpMの値はソルバーを用いて求めました)

-1

 2020-05-10-fig1

(2) ソルバーによる厳密解

Ccao=0.002 mol/LCaCl2を含む溶液Vm =50 mLpH緩衝液(KOHCko=6.0 mol/L, Vk=2mL)を加えてV=60 mLにしたあと、Cyo=0.01 mol/LEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線を求めます。CaOH+, CaHY-イオンが生成すること、および場合によってCa(OH)2の沈殿が生成することを考慮します。

 

用いた平衡定数は上記(1)の値に加えて、

Ca2+ OH- CaOH+  
βo = [CaOH]/([Ca][OH]),  logβo = 1.1

CaY 2- H+ CaHY-  
Kh =[CaHY]/([CaY][H]),  logKh = 3.1

Ca(OH)2(s) Ca2+2OH-  
Ksp =[Ca][OH]2,  pKsp = 4.9

および 
Kw =[H][OH],  pKsp = 13.8

とします(イオン強度μ=0.1のときの値)(*1)

(*1) 実際の滴定時のイオン強度は0.1ではないが、イオン強度による補正はしない。

 

<関係式>

試料V mLに滴定剤T mLを加えた被滴定溶液(滴定途中の溶液)に関して、次のような関係が成立します。

・被滴定溶液中の全濃度:

CaCl2Cca= CcaoVm/(V+T)

KOHCk = CkoVk/(V+T)

EDTA(Na2H2Y)Cy = CyoT/(V+T)

・カルシウムの物質バランス:

[Ca*] = [Ca][CaOH][CaY][CaHY]

 

EDTAの物質バランス:

[Y*] = [Y][HY][H2Y][H3Y][H4Y][CaY][CaHY]

 

・電荷バランス

Q = [H][OH]2[Ca][CaOH]2[CaY][CaHY]4[Y]3[HY]2[H2Y][HY][Cl][Na][K]=0

 

・化学種濃度:

[H] = 10-pH

[OH] = Kw/[H]

[Ca] = 10-pCa    (沈殿が生成しないとき)

[Ca] = Ksp/[OH]2  (沈殿が生成するとき)

[CaOH] = βo[Ca][OH]

[CaY] = Kf[Ca][Y]

[CaHY] = Kh[CaY][H]

[Y] = 10-pY

[HY] = [H][Y]/K4

[H2Y] = [H][HY]/K3

[H3Y] = [H][HY]/K2

[H4Y] = [H][HY]/K1

[Cl] = 2Cm

[Na] = 2Cy

[K] = Ck

 

<エクセルシートの作成>

次の3ケースに分けてソルバー計算をします。

・沈殿が生成しないときのパラメータ設定:

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0

 ・変数セル:pH, pY, pCa

 ・制約条件:

  ・カルシウムの物質バランス、Rca = Cca[Ca*] = 0

  ・EDTAの物質バランス、Ry= Cy[Y*] = 0

 ・[Ca]の計算式:[Ca] = 10-pCa

 

・沈殿の生成境界におけるパラメータ設定:

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0

 ・変数セル:pH, pY, pCa, T

 ・制約条件:
  ・Rca = Cca[Ca*] = 0
  ・Ry= Cy[Y*] = 0
  A = [Ca][OH]2/Ksp = 1

 ・[Ca]の計算式:[Ca] = 10-pCa

 

・沈殿が生成するときのパラメータ設定:

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0

 ・変数セル:pH, pY

 ・制約条件:Ry = Cy[Y*] = 0

 ・[Ca]の計算式:[Ca] = Ksp/[OH]2

 

<結 果>

計算結果を-2に示します。この結果では、CaOH+の生成は滴定曲線に影響を与えますが、CaHY-はほとんど影響を与えません。また、滴定の最初(つまりKOHを添加始めるとき)Ca(OH)2の沈殿が生じることが分かります(*2)

(*2) 2 mmol/LのカルシウムはおよそpH13で沈殿が始まる(2020-01-19)実際の滴定では、Ca(OH)2の沈殿生成を避けるため、最初に当量点に達しない程度のEDTAを加えたあとKOHを加え、さらにEDTAで滴定することを行っている(JIS K 0102)


-2

 2020-05-10-fig2