リン酸塩など3価酸の塩溶液のpHを求めます。計算にはエクセル-ソルバーを用います。また理解の手助けとなるよう対数濃度図を示します。
リン酸などの3価酸(H3A)のpHの求め方はすでに述べました(2020/12/27)。全濃度がCa mol/LのH3Aを含む溶液の平衡は次のようになります。
H3A ⇄ H+ + H2A- K1
= [H][H2A]/[H3A]
H2A- ⇄ H+ + HA2- K2 = [H][HA]/[H2A]
HA2- ⇄ H+ + A3- K3 = [H][A]/[HA]
H2O ⇄ H+ + OH- Kw = [H][OH]
物質収支:Ca
= [A]+[HA]+[H2A]+[H3A]
電荷収支:[H]
= [OH]+[H2A]+2[HA]+3[A]
3価酸のナトリウム塩(NaH2A, Na2HA, Na3A)についても上記と同様の関係が成立します。ただし、いくつか異なる点があります。異なる点だけを列挙すると、
電荷収支:[H]+[Na] = [OH]+[H2A]+2[HA]+3[A]
ナトリウムイオンの物質収支:
NaH2PO4溶液(濃度Cs):Cs = [Na]
Na2HPO4溶液(濃度Cs):Cs = [Na]/2
Na3PO4溶液(濃度Cs):Cs = [Na]/3
<<NaH2PO4,
Na2HPO4, Na3PO4溶液のpH>>
ソルバーを実行するための関係式は、
[H]=10^-pH
[OH]=[H]/Kw
[A]=Cs/(1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
(*1)
[HA]=[H][A]/K3
[H2A]=[H][HA]/K2
[H3A]=[H][H2A]/K1
NaH2PO4:[Na]=Cs
Na2HPO4:[Na]=2Cs
Na3PO4:[Na]=3Cs
電荷収支:[H]+[Na] = [OH]+[H2A]+2[HA]+3[A]
(*1) 式の導入は次の通り。
酸解離定数式、K3 = [H][A]/[HA] , K2 = [H][HA]/[H2A]
, K1 = [H][H2A]/[H3A]から、
K3K2
= [H]^2[A]/[H2A]
K3K2K1
= [H]^3[A]/[H3A]
したがって、
[HA] = [H][A]/K3
[H2A] =
[H][A]/(K3K2)
[H3A] = [H]^3[A]/(K3K2K1)
これらを物質収支式、Cs = [A]+[HA]+[H2A]+[H3A]に代入して、
Cs = [A]+[H][A]/K3+[H][A]/(K3K2)+[H]^3[A]/(K3K2K1)
= [A](1+[H]/K3+[H]/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
∴ [A] = Cs/(1+[H]/K3+[H]/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
一般に、n価の酸(HnA)の場合、
[A] = Cs/(1+[H]/Kn+[H]^2/(KnKn-1)+[H]^3/(KnKn-1Kn-2)+…+[H]^n/(KnKn-1… K2K1))
となる。
これらの関係式を用いて、ソルバーを実行します。
目的セル:Q = [H]-[OH]-[H2A]-2[HA]-3[A]+[Na]
変数セル:pH
例題1:(1) H3PO4, (2) NaH2PO4, (3)
Na2HPO4, (4) Na3PO4の各0.01 mol/L溶液のpHは? リン酸の酸解離定数をpK1=2.15
, pK2=7.20 , pK3=12.38 また水のイオン積をpKw=14.00
とする。
ソルバーで求めた結果を図-1に示す(近似式による結果も併記する)。
(答え) (1) pH=2.25,
(2) pH=4.79,
(3) pH=9.52,
(4) pH=11.88,
<<リン酸塩の対数濃度図>>
0.01 mol/Lリン酸の対数濃度図を図-2(全pH域)、図-3(pH0~pH8)、図-3(pH6~pH14)に示します(作成方法は2020/11/15を参照!)。
図-2
図-3
この対数濃度図を用いて、H3PO4,
NaH2PO4, Na2HPO4, Na3PO4の各0.01 mol/L溶液についておよそのpHを推定します。
<H3PO4>
H3PO4の電荷均衡式は、
[H] = [H2PO4]+2[HPO4]+3[PO4]+[OH]
図-3から明らかなようにlog[H]の線とlog[H2PO4]の線の交点付近において、2[HPO4]+3[PO4]+[OH]は[H2PO4]に対して無視できます。したがって、近似的にlog[H]とlog[H2PO4]の交点(A)のpHが0.01 mol/L H3PO4のpHを与えます。図-3からpH≒2.3。
<NaH2PO4>
基準化学種としてH2PO4-を選び、プロトン条件式(2020/11/08)(*2)を作ると、
[H]+[H3PO4] = [HPO4]+2[PO4]+[OH]
(*2) 「基準化学種(参照プロトン凖位)にH+を与えることのできる化学種のプロトン濃度の合計は、基準化学種からH+を受け取ることのできる化学種のプロトン濃度の合計に等しい」というプロトンの収支に関する条件式。電荷収支式と同等である。
図-3から明らかなように、log[H3PO4]とlog[HPO4]の交点付近において、[H]と[H3PO4]は接近しており、また[HPO4]に対して2[PO4]+[OH]は無視できるので、近似的にlog([H]+[H3PO4])とlog[HPO4]の交点(B)のpHが0.01 mol/L NaH2PO4のpHとなります。
<Na2HPO4>
基準化学種としてHPO42-を選び、プロトン条件式を作ると、
[H]+2[H3PO4]+[H2PO4]
= [PO4]+[OH]
図-4から明らかなように、log[H2PO4]とlog[PO4]の交点付近において、[OH]と[PO4]は接近しており、また[H2PO4]に対して[H]+2[H3PO4]は無視できるので、近似的にlog[H2PO4]とlog([PO4]+[OH])の交点(C)のpHが0.01 mol/L
Na2HPO4のpHとなります。
<Na3PO4>
基準化学種としてPO43-を選び、プロトン条件式を作ると、
[H]+3[H3PO4]+2[H2PO4]+[HPO4] = [OH]
図-4から明らかなように、log[HPO4]とlog[OH]の交点付近において、[HPO4]に対して[H]+3[H3PO4]+2[H2PO4]は無視できるので、近似的にlog[HPO4]とlog[OH]の交点(D)のpHが0.01 mol/L Na3PO4のpHとなります。
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