前回(2021/07/18)は、CO2分圧が一定で、酸・塩基を加えてpHを調整したときのCaCO3飽和溶液の平衡について調べましたが、今回は酸・塩基を加えない場合について、CaCO3飽和溶液のpHおよび溶解度について調べます。これはCO2分圧一定下の水溶液(炭酸水)に対するCaCO3の溶解度およびそのpHと考えることができます。

関係式と平衡定数
前回述べた通り、一定CO2分圧下でのCaCO3飽和溶液の平衡に関する反応式および平衡定数(25, µ=0)は、次の通りです。
CO2(gas) CO2(aq) 
KH = [CO2(aq)]/PCO2 = 10^-1.46
 …①
CO2(aq) H2O H+ HCO3- 
K1 = [H][HCO3]/[CO2(aq)] = 10^-6.36
 …②
HCO3- H+ CO32- 
K2 = [H][CO3]/[HCO3] = 10^-10.33
 …③
H2O H+ OH- 
Kw = [H][OH] = 10^-14.00
 …④
CaCO3(s) Ca2+ CO32-
Ksp = [Ca][CO3] = 10^-8.48 (方解石の溶解度積) …⑤
Ca2+ HCO3- CaHCO3+
βh = [CaHCO3]/([Ca][HCO3]) = 10^1.26 …⑥
Ca2+ CO32- CaCO3(aq)
βc = [CaCO3(aq)]/([Ca][CO3]) = 10^3.15 …⑦
Ca2+ OH- CaOH+
βo = [CaOH]/([Ca][OH]) = 10^1.3 …⑧   

化学種濃度および溶解度の式
気相のCO2分圧がPCO2 atmのとき、
[CO2]=KHPCO2
[HCO3]=K1[CO2]/]H]
[CO3]=K2[HCO3]/[H]
[Ca]=Ksp/[CO3]
[CaHCO3]=
βh[Ca][HCO3]
[CaCO3(aq)]=
βc[Ca][CO3]
[CaOH]=
βo[Ca][OH]

したがって、水溶液中に存在する化学種濃度(H+, OH-, CO2(aq), HCO3-, CO32-, Ca2+, CaHCO3+, CaCO3(aq), CaOH+)はすべてPCO2 and/or [H]の関数または一定値となります。
また、CaCO3の溶解度S(mol/L)は、
S = [Ca’] = [Ca]
[CaHCO3][CaCO3(aq)][CaOH]   

炭酸水に対するCaCO3の溶解度とpH
水にCO2を飽和させPCO2を一定した溶液(炭酸水)に酸・塩基を加えずにCaCO3を飽和させた場合、この溶液の電荷バランスは、
[H]
2[Ca][CaHCO3][CaOH] = [HCO3]2[CO3][OH]
 …⑨
ここで、Q = [H]2[Ca][CaHCO3][CaOH]([HCO3]2[CO3][OH])と置くと、Q = 0
となります。
①~⑨の条件が成立する場合、pHと溶解度は一義的に決まります(方程式9個、未知数9個なので)。   

pHlog C図による解析
PCO21 atmの場合について、pHlog C(-) (前回, 2021/07/18)を用いて⑨の条件下におけるpHと溶解度の近似値を推定します。
-1から、[Ca][CaHCO3][H][CaOH]よりはるかに大きいので、⑨式の左辺は、
[H]
2[Ca][CaHCO3][CaOH]2[Ca][CaHCO3]
と近似できます。
同様に、[HCO3][CO3][OH]よりはるかに大きいので、⑨式の右辺は、
[HCO3]2[CO3][OH][HCO3]
と近似できます。

したがって、求めるpH2[Ca][CaHCO3](青実線)[HCO3](黄点線)の交点で与えられます(-)。交点のpHはおよそ6.0です。またこのpHにおけるlogSはおよそ-2.1 (S=7.4×10^-3 mol/L)となります。     

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2021-07-25-fig1

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2021-07-25-fig2-a

ソルバーによる解析
PCO24×10^-4, 1, 10, 100 atmの場合についてpHと溶解度の値をエクセルのソルバーを用いて求めます。
ソルバーのパラメータ設定:
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH

結果を-に示します。PCO2が増加するにつれて求めるpHは低下し、溶解度Sは大きくなることが分かります。PCO21 atmにおけるpH5.95、溶解度はS=7.43×10^-3 mol/Lとなりました。   

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2021-07-25-fig3

活量係数による補正
-3のソルバー計算では、活量係数を考慮していません。しかし、例えばPCO2100 atmでは、イオン強度µはおおよそ0.1に達し、厳密には活量係数による補正が必要です。したがって、PCO24×10^-4, 1, 10, 100 atmの場合について活量係数を考慮したソルバー計算を行います(2019/10/27)。活量係数補正式には拡張デバイ-ヒュッケル式を用いました(*1)
Logγi =
0.51(zi^2)√μ/(1(ai/305)√μ)
(*1) イオン直径aiが不明な化学種については推定値を使用した。

ソルバーのパラメータ設定:
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH, μo
 ・制約条件:R = μcal-μo = 0
結果を-に示します。 活量係数補正を行うと、例えば
PCO2100 atmでは、活量係数補正をしないときに比べてpH4.67から4.75になり、溶解度は、4.9×10^-2 mol/Lから7.2×10^-2 mol/Lに変化します。

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