前回(2022-05-01)は弱酸の分配平衡について調べましたが、今回は塩基および両性化合物について調べます。

<<塩基の分配平衡>>
塩基の分配平衡も、酸の場合と同様に取り扱うことができます。アルキルアミン(RNH2)を例にとって考えます。RNH2の分配定数をKdとし、酸解離定数をKaとします。有機相中でRNH2は解離せず、また二量体の生成などもないものとします。   

アルキルアミン(RNH2)Bとすると、分配平衡は、
Bw
Bo
Kd = [B]o/[B]w
  

水相でBwは、
HB+w
Bw H+
Ka = [H+][B]w/[HB+]w
  

このとき分配比は、
D = [B]o/([B]w
[HB+]w) …①
となります。
式の分子分母を[B]wで割ると、
D = ([B]o/[B]w)/(1
[HB+]w/[B]w) = Kd/(1[H+]/Ka) …①'
したがって、D[H+]の関数となることが分かります。
幾種類かのアルキルアミンのジエチルエーテルに対するKdKaを下表に示します。   

2022-05-08-fig0-1a
 

これらのアミンについて、pHlogDと関係を-に示します。   

-
2022-05-08-fig1

-からも明らかなように、
・pH
が低いとき(およそpH<9~10)は、[H+]/Ka>>1となり、
D = Kd[H+]/Ka
となり、logD傾き1の直線となります。
・pH
が高いとき(およそpH>10~11)は、[H+]/Ka<<1となり、
D = Kd
となります。
また、アルキル基の式量の増加とともにDは増加していることが分かります。   

<<両性化合物の分配平衡>>
両性化合物の例として、金属イオンの溶媒抽出によく用いられるオキシン(8-ヒドロキシキノリン)(HQ)を例にとって考えます。オキシンは分子内にヒドロキシ基とイミノ基を持ち、酸と塩基の性質を持っています。   

2022-05-08-fig0-2
 

HQ酸解離定数をKa1, Ka2とし、クロロホルム(*1)に対する分配定数をKdとします。有機相ではRNH2は解離せず、また二量体の生成などもないものとします。
(*1) クロロホルム、四塩化炭素などの塩素系溶剤は健康への影響(肝臓障害、発がん性など)や環境への影響(オゾン層の破壊)が問題となっており、その使用は極力さけるべきであろう。  

分配平衡は、
HQw
HQo
Kd = [HQ]o/[HQ]w
  

水相でHQwは、
H2Q+w
HQw H+
Ka1 = [H+][HQ]w/[H2Q+]w
HQw
Q-w H+
Ka2 = [H+][Q-]w/[HQ]w
  

このとき分配比は、
D = [HQ]o/([H2Q+]w
[HQ]w[Q-]w) …②
となります。
②式の式の分子分母を[HQ]wで割ると、
D = ([HQ]o/[HQ]w)/(
[H2Q+]w/[HQ]w1[Q-]w/[HQ]w)
D = Kd/([H+]/Ka1
1Ka2/[H+]) …②'
したがって、D[H+]の関数となることが分かります。
オキシンのクロロホルムに対する平衡定数をKd=10^2.7, Ka1=10^-4.92, Ka2=10^-9.23として、pHlogDと関係を-に示します。

-
2022-05-08-fig2

-からも明らかなように、
酸性が強いとき(pHpKa1)は、
D = Kd/([H+]/Ka1)
log D = pH
log KdpKa1 (傾き1の直線)
中間域(pKa1pHpKa2)では、
D = Kd
 (水平線)
塩基性が強いとき(pHpKa2)は、
D = Kd/(Ka2/[H+])
log D =pHlog KdpKa2 (傾きー1の直線)
となります。 

また、抽出率は次式で与えられますが、
E(%) = D/(D
Vw/Vo)×100
Vw=VoとしたときpHと抽出率(E%)の関係を図-3に示します。   

-
2022-05-08-fig3

オキシンはpH4.79.4の間でほぼ完全に(99.5%以上)クロロホルムに抽出されることがわかります。