前回(2023-05-28)は、近似法を用いて1価の弱酸-弱塩基の塩(たとえば酢酸アンモニウム)溶液のpHを求める方法を述べました。今回はエクセルを利用する方法について述べます。エクセルを用いると、どのような条件においても同一の操作で自動的に答を得ることができ、計算が非常に楽になります。   

<<エクセルの利用>>
弱酸(HA)-弱塩基(B)の塩(BHA)の平衡に対する関係式は次の通りです。
解離定数:
Ka = [H][A]/[HA]
Kn = [H][B]/[BH]
Kw = [H][OH]
物質バランス:
Cs = [A]
[HA]
Cs = [B]
[HB]
電荷バランス:
[H]
[BH] = [OH][A]   

<ソルバー法>(2023-04-23)
例題1 ソルバー法を用いて0.001 mol/L酢酸メチルアンモニウム(pKa=4.76, pKn=10.63)pHを求めよ
(1) pKa, pKn, pKw, Csの値を入力し(C3C6)Ka, Kn, Kwを計算する(C7C9)(Ka, Kn, Kwが与えられている場合は、C7C9セルに定数値を直接入力する)
C3=4.76 …(酸解離定数pKaの入力)
C4=10.63 …(酸解離定数pKaの入力)
C5=14 …(水のイオン積pKwの入力)
C6=0.001 …(塩濃度Csの入力)
C7=10^-C3 (Ka = 10^pKa)
C8=10^-C4 (Ka = 10^pKa)
C9=10^-C5 (Kw = 10^pKw)   

(2) pHの初期値をC10に入れる。たとえば、pH=7とする。
C10=7   

(3) C11C17[H], [OH], [A], [HA], [B], [HB], Qの計算式を入れる。
C11=10^-C10 ([H]=10^-pH)
C12=C9/C11 ([OH]=Kw/[H])
C13=C6*C7/(C7+C11) ([A]=CsKa/(Ka+[H]))
C14=C11*C13/C7 ([HA]=[H][A]/Ka)
C15=C6*C8/(C8+C11) ([B]=CsKn/(Kn+[H]))
C16=C11*C15/C8 ([BH]=[H][B]/Kn)
C17=C11-C12-C13+C16 (Q = [H][OH][A][BH])   

(4) ソルバーを開く。
[データ] [ソルバー] [ソルバーのパラメーター]   ダイアログボックスが開く   

(5) ソルバーのパラメーターを設定する。
[目的セルの設定]: $C$17
[目標値]: [指定値]にチェックを入れ、"0"を指定する。
[変数セルの変更]: $C$10
[制約条件の対象]: なにも入れない。
[制約のない変数を非負数にする]: チェックを入れない。
[解決方法の選択]: [GRG非線形]を選択する。
[オプション]の選択 ⇒ [オプション]ダイアログボックスが開く
[制約条件の精度]に"1e-10" ⇒ [OK] ⇒ (もとの画面へ)   

(6) ソルバーの解を求める。
もとの画面 [解決] [ソルバーの結果]ダイアログボックスが開く。
([ソルバーの結果
]ダイアログボックス) 「ソルバーによって解が見つかりました」 [OK] C10に求める答えが出る。   

ソルバー実施後のシートを-に示します。 答えはpH=7.62。   

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2023-06-04-fig1

<二分法>(2023-04-30)
例題2 二分法を用いて0.001 mol/Lプロピオン酸アニリニウム(pKa=4.87, pKn=4.60)pHを求めよ。
(1)
 pKa, pKn, pKw, Csの値を入力し(C3C6)Ka, Kn, Kwを計算する(C7C9)(Ka, Kn, Kwが与えられている場合は、C7C9セルに定数値を直接入力する)
C3 =4.87 …(酸解離定数pKaの入力)
C4 =4.60 …(酸解離定数pKnの入力)
C5 =14.00 …(水のイオン積pKwの入力)
C6 =0.001 …(塩濃度Csの入力)
C7 =10^-C3 (Ka = 10^pKa)
C8 =10^-C4 (Kn = 10^pKn)
C9 =10^-C5 (Kw = 10^pKw)   

(2) pHの初期値a0, b0B13, D13のセルに入れ、m0を計算する(C13)
B13 =-1 …(pH最小値の入力)
C13 =(B13+D13)/2 …(mo=(a0b0)/2)
D13 =15 …(pH最大値の入力)   

(3) 初期値に対して、濃度に関する計算式を入れる(E13K13)
E13 =F13-G13-H13+K13 …(Q=[H]-[OH]-[A]+[BH])
F13 =10^-C13 …([H]=10^-pHm)
G13 =$C$9/F13 …([OH]=Kw/[H])
H13 =$C$6*$C$7/($C$7+F13) …([A]=CsKa/(Ka+[H]))
I13 =F13*H13/$C$7 …([HA]=[H][A]/Ka)
J13 =$C$6*$C$8/($C$8+F13) …([B]=CsKn/(Kn+[H]))
K13 =F13*J13/$C$8 …([BH]=[H][B]/Kn)   

(4) 二分法の計算式をB14D14のセルに入れる。
B14 =IF(E13<0,B13,C13) 
C14 =(B14+D14)/2
D14 =IF(B14=C13,D13,C13)   

(5) 濃度に関する計算式(E13:K13)E14:K14にコピーする。   

(6) B14:K14B15:K15からB44:K44までコピーする。
B14:K14を選択し、選択した範囲の右下隅にあるポインターをにして、B44:K44までドラッグする。   

(7) pHの値をコピーする。
C10 =C44   

作成した二分法表を-に示します。 …答えはpH=4.75。  

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2023-06-04-fig2

<<MIN>>(2023-05-05)
例題3 MIN法を用いて0.001 mol/Lシアン化アンモニウム(pKa=9.21, pKn=9.25)pHを求めよ。
(1) pKa, pKn, pKw , Csの値をD3D6に入れ、Ka, Kn, Kwを計算する(D7D9)(Ka, Kn, Kwが与えられている場合は、D7D9セルに定数値を直接入力する)   

(2) pHの値を-115まで0.01きざみで連続してB列に入れる。(B15:B1615)   

(3) 濃度に関する計算式をいれる。(C15J15
C15 =10^(-B15) [H]=10^-pH
D15 =$D$9/C15 [OH]=Kw/[H]
E15 =$D$6*$D$7/($D$7+C15) [A]=CsKa/(Ka+[H])
F15 =C15*E15/$D$7 [HA]=[H][A]/Ka (F15pHの計算には不要)
G15 =$D$6*$D$8/($D$8+C15) [B]=CsKn/(Kn+[H]) (G15pHの計算には不要)
H15 =C15*G15/$D$8 [BH]=[H][B]/Kn
I15 =C15-D15-E15+H15 Q=[H]-[OH]-[A]+[BH]
J15 =ABS(I15) |Q|=ABS(Q)
(4) 濃度に関する計算式を連続してコピーする。
C15J15を選択し、C1615J1615までコピーする。
(5)
 ABS(Q)の最小値を与えるpHを求める
(*1)
D12 =INDEX(B15:B1615,MATCH(MIN(J15:J1615),J15:J1615,0))
(*1) MIN関数でABS(Q)の最小値を求め、MATCH関数でその最小値の相対的位置(上から何番目)を求め、INDEX関数でその位置のpHの値を求める。

結果を-に示します。 …答えはpH=9.22。   

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2023-06-04-fig3

<<弱酸弱塩基の塩濃度CspHの関係>>
電荷バランス式:[H][BH] = [OH][A]に、
[BH] = Cs[H]/(Kn+[H])
[A] = CsKa/(Ka+[H])
[OH] = Kw/[H]
を代入すると、
[H]
Cs[H]/(Kn+[H]) = Kw/[H]CsKa/(Ka+[H])
この式は[H]に関して4次式ですが、Csついては1次式です。
[H]からCsを求める式は下記の通りです。したがってあるpHを与えると、[H]=10^-pHからすぐにCsを求めることができます。

2023-06-04-fig4

この式から、pHCsの関係についてエクセルシートを作成し、Csを目的セルとしpHを変数としてソルバーを解くと、CsにおけるpHを求めることができます。   

たとえば、Cs=0.001 mol/Lの酢酸メチルアンモニウム(pKn=10.63, pKa=4.76)溶液のpH7.62となりました(-) 。また、pHに7.70以上の値を与えるとCsは負の値となり無意味となります。つまり酢酸メチルアンモニウム溶液はどのような濃度でもpHが7.70を越えないことが分かります。 

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2023-06-04-fig4b

酢酸メチルアンモニウムについて塩濃度log CspHの関係を図-5に示します。Csが非常に大きくなるとpH[H]=(KnKa)つまりpH=(pKapKn)/2=7.70に近づきます。またCsが非常に小さくなるとpH7.00に近づきます。pHの許容差を0.02としたときのCsはエクセルで計算すると0.004 mol/L (log Cs=-2.4)となります。つまりCs0.004 mol/L以上であれば近似式[H]=(KnKa)を用いることができると言えます。   

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2023-06-04-fig5