リン酸カルシウムは様々な形の化合物が知られています。今回は、リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)およびリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)についてpHと溶解度の関係を求めます。
<関係式>(μ=0, 25℃)
・溶解度積:
CaHPO4・2H2O(s):Kch=[Ca][HPO4], pKch=6.58
Ca3(PO4)2(s):Kcp=[Ca]^3[PO4]^2, pKcp=28.82
Ca(OH)2(s):Kco=[Ca][OH]^2, pKco=5.19
・錯生成定数:
CaHPO4:βch=[CaHPO4]/([Ca][HPO4]), logβch=2.66
CaH2PO4:βc2=[CaH2PO4]/([Ca][H2PO4]), logβc2=1.41
CaOH:βco=[CaOH]/([Ca][OH]), logβco=1.3
・酸解離定数:
H2PO4/H3PO4:K1=[H][H2PO4]/[H3PO4], pK1=2.15
HPO4/H2PO4:K2=[H][HPO4]/[H2PO4], pK2=7.20
PO4/HPO4:K3=[H][PO4]/[HPO4], pK3=12.38
H2O:Kw=[H][OH], pKw=14.00
・化学種濃度(mol/L):
[H]=10^-pH
[OH]=Kw/[H]
[Ca]=Kch/[HPO4] …(CaHPO4・2H2Oの場合)
[Ca]=( Kcp/[PO4]^2)^(1/3) …(Ca3(PO4)2の場合)
[CaHPO4]=βch[Ca][HPO4]
[CaH2PO4]=βc2[Ca][H2PO4]
[CaOH]=βco[Ca][OH]
[H3PO4]=[H][H2PO4]/K1
[H2PO4]=[H][HPO4]/K2
[HPO4]=[H][PO4]/K3
[PO4]=10^-pPO4
[X]=Cx …(HXはCa2+と錯体を作らない1価の強酸。もし[X]が負の場合は1価の強塩基が加えられたと考える)
・全濃度(mol/L):
[PO4']=[PO4]+[HPO4]+[H2PO4]+[H3PO4]+[CaHPO4]+[CaH2PO4]
[Ca']=[Ca]+[CaOH]+[CaHPO4]+[CaH2PO4]
・電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+2[Ca]+[CaH2PO4]+[CaOH]-[H2PO4]-2[HPO4]-3[PO4]-[X] = 0
・物質バランス:
R = [Ca']-[PO4'] = 0 …(CaHPO4・2H2Oの場合)
R=2[Ca']-3[PO4'] = 0 …(Ca3(PO4)2の場合)
<ソルバー計算>
リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)およびリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)について、pHと溶解度の関係を、ソルバーを用いて求めます。[Ca]およびソルバーのパラメータは次の通りです。
・リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)の溶解度を求める場合
・[Ca]=Kch/[HPO4]
・目的セル:Q = 0
・変数セル:Cx, pPO4
・制約条件:R = [Ca']-[PO4'] = 0
・リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)の溶解度を求める場合
・[Ca]=(Kcp/[PO4]^2)^(1/3)
・目的セル:Q = 0
・変数セル:Cx, pPO4
・制約条件:R = 2[Ca']-3[PO4'] = 0
リン酸水素カルシウムに関する計算結果の例を図-1に示し、またリン酸三カルシウムの場合を図-2に示します。
pHと溶解度の関係を図-3に示します。図から明らかなように、pHがおよそ6より小さいときはリン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)の溶解度がリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)の溶解度よりも小さく、pHが6を超えると逆にリン酸三カルシウムの溶解度の方が小さくなりました。
ただし、以上の計算においてpHの変化等によって沈殿の形が変化することは想定していません。
<追補>(2023-03-11)
ヒドロキシアパタイト(HAp:Ca10(OH)2(PO4)6)(pKsp(HAp)
= 114)の溶解度も含め、pHと溶解度の関係を下図に示します。
Ca10(OH)2(PO4)6):Kha=[Ca]^10[OH]^2[HPO4]^6, pKha=114
[Ca]=( Kha/([OH]^2[PO4]^6)^(1/10)
…(HAp沈殿時)
<エクセル>
与件:pH
目的セル:Q = 0
変数セル:Cx, pPO4
制約条件:R = 3[Ca']-5[PO4'] = 0