ウインクラー法の滴定曲線を求め、ワルダー法と比較します。
以前、Na2CO3とNaOHの混合物をHClで滴定する二段階滴定法について述べました(2019/03/24)。この方法はワルダー法と呼ばれ、「第1中和点は、NaOH全量とNa2CO3がNaHCO3にまで中和されたときに対応し、第2中和点は、NaOH全量とNa2CO3がCO2にまで中和されたときに対応するので、「第1中和点から第2中和点までに要したHClの物質量」の2倍が「Na2CO3の物質量」になり、また「第1中和点までに要したHClの物質量」と「第1中和点から第2中和点までに要したHClの物質量」の差が「NaOHの物質量」になります。
ワルダー法に代わる方法としてウインクラー法 (*1)と呼ばれる方法があります。この方法は、試料にBaCl2を加えNa2CO3をBaCO3として沈殿させ、溶液に残ったNaOHをHClで滴定する方法です。今回は、このウインクラー法の滴定曲線を描いてみます。
(*1) 溶存酸素の定量に用いられるウインクラー法とは別。
ウインクラー法では、酸塩基反応と沈殿反応が競合するので、滴定曲線を描く場合、ワル
ダー法で用いた「二分法」のテクニックを用いることができません。したがって、少しめんどうですが、滴定剤の添加量ごとにエクセルのソルバー機能を用いてpHの解を求めます。
たとえば、Cno=0.1 mol/LのNaOHおよび Cco=0.02mol/LのNa2CO3を含む試料溶液V1=10 mLにCbo=0.05 mol/LのBaCl2溶液V2=10 mL、水V3=30 mLおよびフェノールフタレイン(指示薬)を加えることを考えます。BaCl2を加えると沈殿が生成しますが、この沈殿生成や指示薬の添加による体積変化は無視します。溶液の混合においては、体積の加成性が成立するものとします。
この懸濁溶液をCyo=0.1 mol/LのHClで滴定します(滴下量:T mL)。フェノールフタレインの変色点を第1終点とします。さらに、メチルオレンジ(指示薬)を加えて滴定を続け、メチルオレンジの変色点を第2終点とします。
この条件で理論的滴定曲線を求めます。用いた平衡定数は、前々回(2019/08/25)と同じです。大気中のCO2との平衡は考えません。
各滴定段階(滴下量:T mL)におけるNaOH, Na2CO3, BaCl2およびHClの濃度(式量濃度)をそれぞれCn , Cc , Cb , Cy とすると、各濃度は次式で与えられます。
Cn = CnoV1/(V1+V2+V3+T)
Cc = CcoV1/(V1+V2+V3+T)
Cb = CboV2/(V1+V2+V3+T)
Cy = CyoT/(V1+V2+V3+T)
この濃度を基に、それぞれの滴定段階(滴下量:T mL)ごとにソルバー操作を行います。
<関係式>
●物質バランス
[Ba’] = [Ba]+[BaOH]+[BaCO3]
[CO3’] = [CO3]+[HCO3]+[CO2]+[BaCO3]
= [CO3](1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)+βc[Ba]) = [CO3]α
BaCO3の沈殿量は、(Cb-[Ba’])および(Cc-[CO3’]) に相当するので、
Cb-[Ba’] = Cc-[CO3’]
の関係が成立します。
この関係式は沈殿生成の有無にかかわらず常に成立します。
●電荷バランス
Q = [H]-[OH]+2[Ba]+[BaOH]-[HCO3]-2[CO3]-[Cl]+[Na] = 0
●各化学種の濃度
[H] = 10^-pH
[OH] =10^-14/[H]
[Ba] =10^-pBa
[BaOH] =βo[Ba][OH]
[BaCO3] = βc[Ba][CO3]
[CO3] = Ksp/[Ba] (沈殿のあるとき)
または、[CO3] = Cba/α (沈殿のないとき)
[HCO3] = [CO3][H]/K2
[CO2] = [HCO3][H]/K1
[Cl] = 2Cb+Cy
[Na] = 2Cc+Cn
<エクセルの取り扱い>
●エクセルでのソルバーのパラメータ
・目的セル:電荷バランスQ = 0
・変数セル:pH, pBa
・制約条件:R = Cb-Cc-([Ba’]-[CO3’]) = 0
●特に、沈殿の生成・消滅の境界においては、
・目的セル:電荷バランスQ = 0
・変数セル:pH, pBa およびT
・制約条件:R = 0, および [Ba][CO3]/Ksp = 1
・[CO3]=Cb/α
<結果>
●ウインクラー法の滴定曲線
滴定曲線を図-1に示します。試料溶液にBaCl2を加えるとNa2CO3はBaCO3沈殿として取り除かれ、溶液中にはNaOHだけが残ります。ここにHClを滴下すると最初、BaCO3沈殿は溶解せず、NaOHだけが中和され、NaOHが過不足なく中和された時点(第1中和点)においてpHが大きく変化します。このとき沈殿はほとんど溶解していません。しかし、さらにHClの滴下を続けると、沈殿はしだいに溶解してやがて消滅します。これ以降はNaOHとNa2CO3が中和されるようになり、これらが過不足なく中和された時点(第2中和点)においてさらにpHが大きく変化します。なおBaCO3の沈殿がHClに溶解する様子は前回(2019/09/01)述べています。
図-1
●ウインクラー法とワルダー法の比較
ウインクラー法とワルダー法の比較を図-2に示します。ワルダー法では第1中和点(NaOHとNa2CO3→NaHCO3中和)のpH変化がやや緩慢であるのに対し、ウインクラー法では第1中和点(NaOHの中和)ではpH変化が急激で、NaOHの精度良い定量が可能です(*2)。
(*2) この方法は「JIS K 8576:2019 水酸化ナトリウム(試薬)」で採用されている。この方法では、指示薬としてフェノールフタレイン溶液(変色pH域:8.3~10.0)およびブロモフェノールブルー溶液(変色pH域:3.0~4.6)を用いている。
なお、第2中和点のpH変化はウインクラー法、ワルダー法とも同じです(*3)。
(*3) 第2中和点の検出は、ここで用いた逐次的方法でなく、別試料を採取してワルダー法で実施することも可能である。 第2中和点のpH変化を鋭敏にする方策としては、第1中和点以降、溶液を煮沸してCO2を除去する方法が有効である。このとき指示薬としてはメチルオレンジよりもメチルレッドを用いるとよい。これら考察については、別途報告する。
図-2
●データ(抜粋)
図-3

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