平衡問題を厳密に取り扱うときは、活量係数による補正が必要です。エクセル-ソルバーを用いると、活量係数による補正が簡単にできます。
<活量と活量係数>
たとえば、AgClだけが溶けている水溶液にNaNO3を添加すると、AgClの溶解度が増加します。これは、溶解しているAg+イオンの周りにはNO3-イオンが引き付けられ、またCl-イオンの周りにはNa+イオンが引き付けられて、Ag+…Cl-のイオン対間の親和力が減少するためです(図-1)。
図-1
NaNO3が多量になり過ぎると、逆にAg+…Cl-のイオン対間の親和力が増加することもあります。このように、反応と無関係な共存イオンの存在の有無あるいは多少によって、Ag+…Cl-イオン対間の親和力が変化し、反応の平衡状態が変わってきます。
次のような平衡を考えます。
AB ⇄ A+ + B-
Kc = [A+][B-]/[AB]
しかし、濃度([A+], [B-], [AB])を用いる限り、平衡とは無関係に共存するイオンの影響で平衡定数Kcは変動して真の定数ではなります。このため、共存イオンがどのようであっても平衡定数が一定となるよう、「濃度」の代わりに「活量」という考えを導入します。
A+イオン, B-イオン, AB(分子種)の活量をaA, aB, aABとすると、
K°= aA×aB/aAB
aA = [A+]γA
aB = [B-]γB
aAB = [AB]γAB
K°は共存イオンがどのようであっても温度が同一であれば一定となる定数です。この平衡定数K°は熱力学的平衡定数と呼ばれます。一方、濃度を用いたKcは濃度平衡定数と呼ばれます。
γA, γB, γABは活量係数と呼ばれ、イオン間の引力を補正する係数です。
一般に、化学種Xiのモル濃度を[Xi], その活量係数をγi,とすると、活量aiは、
ai = [Xi]γi …①
となります。
したがって、熱力学的平衡定数K°は濃度平衡定数Kcと活量係数γを用いて次のように表されます。
K°= Kc(γAγB/γAB)
データ集などの平衡定数の値は一般にこの熱力学的平衡定数K°の値が記載されています。したがって実際の平衡を考える場合は、γを知ってK°からKcを求めることが必要となります。
<活量係数とイオン強度の関係>
ここで、γを具体的に知るために、イオン強度という考えを導入します。イオン強度(μ)は次式で与えられます。
μ= (Σzi^2[Xi])/2 …②
[Xi]:個々のイオンの濃度
zi:個々のイオンの電荷
イオン強度(μ)は全電解質濃度の尺度です。
活量係数とイオン強度の比較的正確な関係式として、デバイ-ヒュッケル式、拡張デバイ-ヒュッケル式、デービス式等があります。ここでは主に、次に示す拡張デバイ-ヒュッケル式を用います。
logγi = -0.51zi^2√μ/(1+(ai/305)√μ) …③
ここで、γiは活量係数、μはイオン強度、ziは電荷、aiは水和イオン直径(pm)を表します。
主なイオンのai, ai/305の値および代表的活量係数の例を表-1に示します。
表-1
③式はμがおおよそ0.2~0.3より小さいときに成立します。また電荷を持たない化学種については、γ≒1となります。
溶液のイオン濃度が低くなり、イオン強度が小さくなると、γiは1に近づきます。熱力学的平衡定数はつまりイオン強度μ=0における平衡定数ということができます。
代表的なイオンに対するイオン強度と活量係数の関係を図-2に示します(拡張デバイ-ヒュッケル式による)。
図-2
なお、デービス式は次式で与えられます。0.3µの項の代わりに0.2µが用いられることもあります。この式はµ=0.5 mol/Lくらいまで使えます。
logγi = -0.51zi^2{√μ/(1+√μ)-0.3μ}
<pHについて>
pHの厳密な定義は、活量を用いて、次式で与えられます。
pH = -log aH = -log [H+]γH
以下、活量基準のpHをpH°で表し、濃度基準のpHをpHcで表します。
<エクセル-ソルバーの利用>
以上述べたように、K°, Kc, γi, μ, [Xi]は相互に関連しあっています。このような平衡問題をシステマティックに解析する場合、エクセル-ソルバーを用いることが非常に有効です。次回、エクセル-ソルバーで平衡問題の計算をするときの活量補正の方法について実例をあげて説明します。



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