エクセルを用いて、活量係数を考慮した平衡問題を計算する方法を説明します。
活量に関する関係式は、次式で与えられます(2019/10/13)。
ai = [Xi]γi …①
μ= (Σzi^2[Xi])/2 …②
logγi = -0.51zi^2√μ/(1+(ai/305)√μ) …③
これらの式と平衡式、電荷均衡式、物質均衡式を組み合わせて、エクセル-ソルバーでシステマティックに解析を行います。エクセル-ソルバーは、エクセル上で、制約セルの条件に従がって、目的セルの値が最適になるように変数セルの値を変化さる操作のことです(2019/04/07)。
<活量係数を考慮した計算方法>
エクセルの表を作る前にまず、関係式、熱力学的平衡定数K°, 与えられた濃度(式量濃度)Cおよび化学種Xi等を明確にすることが重要なポイントです。
K°およびCを与えて[Xi]を求めるときの手順は次の通りです。
(1) 熱力学的平衡定数K°の値を与える。
(2) 式量濃度Cの値を与える。
(3) イオン強度の変数パラメーターμoに適切な初期値を与える。
(4) μoにおける活量係数γiを求める。
(4-1) 拡張デバイ-ヒュッケル式③を用いて、√μo, zi, aiからlogγiを求める。
(4-2) logγiからγiを求める。
(5) K°およびγiから、μoにおけるKcを求める。
(6) 化学種Xiに関する濃度[Xi]を求める。
(6-1) 主要なイオンのいくつかを変数パラメーター(p[X]o)とし、初期値を与える。
(6-2) Kc, C, p[X]oを用いてすべての化学種の濃度[Xi]を求める。
(7) 電荷均衡式、物質均衡式、イオン強度の計算式μcalを作る。
(8) ソルバーを実行する。ソルバーのパラメーターは、
・目的セル:電荷均衡式Q=0
・変数セル: p[X]oおよびμo
・制約条件:μcal-μo=0および物質均衡式=0
(注意事項)
*(変数セルの個数)=(制約条件の個数)+1 となる必要がある。
*物質均衡式、電荷均衡式およびイオン強度の式は活量ではなく濃度を用いることに注意!
*変数パラメーターを代えることにより、例えばp[X]oを与えてCを求めることなども可能である(実例2参照)。
<実例1:酢酸(HA)-酢酸ナトリウム(NaA)緩衝液のpHを求める>
Ca = 0.1 mol/LのHAおよびCs = 0.1 mol/LのNaAを含む緩衝液のpH°を求めます。酢酸の酸解離定数をpKa°= 4.756, 水のイオン積をpKw°= 14.000とします( at 25℃)。
<関係式>
関係式は次の通りです(電荷は省略)。
Ka°= 10^-pKa°
Kw°= 10^-pKw°
Ca = [A]+[HA]
Cs = [Na]
電荷バランス:Q = [H]-[OH]-[A]+[Na]
イオン強度:μ= ([H]+[OH]+[A]+[Na])/2
logγH = -0.51√μ/(1+2.95√μ)
logγOH = -0.51√μ/(1+1.15√μ)
logγA = -0.51√μ/(1+1.48√μ)
logγHA = 0
γH = 10^(logγH)
γOH =10^(logγOH)
γA = 10^(logγA)
γHA = 10^(logγHA)
Ka = [H][A]/[HA] = Ka°/(γHγA/γAH)
Kw = [H][OH] = Kw°/(γHγOH)
pHc = pH°+logγH
<エクセルシートの作成>(図-1参照)
1) pKa°, pKw°の値から、Ka°, Kw°を求める。(D5, D6)
2) Ca, Csの値を与える。 (D7, D8)
3) pH°,μoを変数パラメーターとして、変数セルに初期値を与える。 (D10, D11)
・例えば、pH°= 5, μo= 0.1とする。
4) √μo, logγH, logγOH logγA, γH, γOH, γA,γHAを求める。 (D12~D19)
・logγi = -0.51zi^2√μo/(1+(ai/305)√μo)
・γi = 10^logγi
5) Ka, Kw, pHcを求める。 (D21~D23)
・Ka = Ka°/(γHγA/γHA)
・Kw = Kw°/(γHγOH)
・pHc = pH°+logγH
6) [H], [OH], [A],[HA], [Na]を求める。 (D24~D28)
・[H] = 10^-pHc
・[OH] = Kw/[H]
・[A] = (Ca+Cs)/(1+[H]/Ka)
・[HA] =[A][H]/ Ka
・[Na] = Cs
7) Q, μcalを求める。(D29~D31)
・電荷バランス:Q = [H]-[OH]-[A]+[Na]
・イオン強度:μcal = ([H]+[OH]+[A]+[Na])/2
8) ソルバーを動かす。(図-1のダイアログボックス参照)
・データ⇒ソルバー⇒ダイアログボックスを開く。
・ソルバーのパラメーターを設定する。
・目標セル:Q=0
・変数セル:pH°, μo
・制約条件:μcal-μo=0
・解決方法の選択:「GRG非線形」を選択する。
・オプションを選択⇒制限条件の精度精度⇒「1e-10」
・もとの画面⇒「解決」
・「ソルバーによって解が見つかりました」⇒「OK」
<計算結果>
エクセルの計算結果および計算式を図-2に示します。
計算の結果、活量係数による補正をおこなうと、pH°=4.65となりました。補正を行わないとpH°= pKa°=4.756なので、補正により-0.11の差が生じています。
図-1
図-2
<実例2:定められたpHの酢酸(HA)-酢酸ナトリウム(NaA)緩衝液を調製する>
ソルバーを用いて、Ca mol/L HAとCs mol/L NaAを混合して定められたpH°の緩衝液を作るときの調製方法を求めます。酢酸の酸解離定数をpKa°= 4.756, 水のイオン積をpKw°= 14.000とします( at 25℃)。
具体的には、Cao=0.2 mol/LのHA, Va=100 mLとCs=0.2 mol/LのNaA, Vs mLを混合してpH°=5.0の緩衝液を作るときのVsを求めます。
<関係式とエクセルシシートの作成>
混合後のHAの濃度CaおよびNaAの濃度Csは次のようになります。
Ca = Cao Va/(Va+Vs)
Cs = Cso Vs/(Va+Vs)
Va = 100
また、平衡に関する式と活量係数に関する式は実例1と同様です。
実例1と同様のエクセルシートを作り、ソルバーのパラメーターを次のように設定します。
・目標セル:Q=0
・変数セル:Vs, μo
・制約条件:μcal-μo=0
<計算結果>
結果を図-3に示します。比較のため、活量補正をしない場合も示します。活量補正をした場合Vs = 218.8 mLですが、しない場合はVs = 175.3 mLと大きく異なります(もちろん活量補正した方がより正しい値です)。
図-3



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