2019/05/26に塩化物イオンの銀滴定について説明し、その後半部分でモール法における指示薬(クロム酸カリウム)の適切な添加量について考察しました。今回はその補足として、クロム酸カリウムを加えて銀滴定をしたときの、銀イオン、塩化物イオン、クロム酸イオンの濃度変化の様子を調べます。
具体的に、Ccl=0.01 mol/LのNaClおよびCcr=0.005 mol/LのK2CrO4を含む試料溶液にAgNO3濃度がCag mol/LとなるようにAgNO3を添加していくことを考えます。話を簡単にするためにAgNO3の添加によって溶液の体積は変化しないものとします。
AgClの溶解度積KsplおよびAg2CrO4の溶解度積Ksprは、それぞれ、
pKspl = 9.74
pKspr = 11.92
とします。
また、pHをほぼ中性に調整することで、CrO42-のHCrO4-, Cr2O72-への変化はないものとし、その他の副反応も無視します。
<関係式>
反応式と溶解度積式は次のとおり。
Ag+ + Cl- ⇄ AgCl↓ , Kspl = [Ag][Cl]
2Ag+ + CrO42- ⇄ Ag2CrO4↓ , Kspr = [Ag]^2[CrO4]
●AgClだけが沈殿するとき
終点(Ag2CrO4がちょうど沈殿し始めるとき)より前はAgClだけが沈殿します。
電荷バランスから(溶液はほぼ中性なので[H],[OH]は無視)、
[Na]+[K]+[Ag] = [Cl]+2[CrO4]+[NO3]
物質バランスから、
[Na] = Ccl
[K] =2[CrO4] = Ccr (K2CrO4はすべて溶液中に残るので)
[Cl] = Kspl/[Ag] (AgClに関して沈殿平衡が成立するので)
[NO3] = Cag
これらの式から、
Ccl+[Ag] = Kspl/[Ag]+Cag …①
[Ag]で整理すると、
[Ag]^2+(Ccl-Cag)[Ag]-Kspl=0
根の公式から、
[Ag]=(Cag-Ccl+√((Cag-Ccl)^2+4Kspl))/2 …①’
●AgClおよびAg2CrO4が沈殿するとき
終点以降はAgClおよびAg2CrO4が沈殿します。
電荷バランスから([H],[OH]は無視)、
[Na]+[K]+[Ag] = [Cl]+2[CrO4]+[NO3]
物質バランスから、
[Na] = Ccl
2[K] = Ccr
[CrO4] =Kspr/[Ag]^2 (Ag2CrO4に関して沈殿平衡が成立するので)
[Cl] = Kspl/[Ag] (AgClに関して沈殿平衡が成立するので)
[NO3] = Cag
これらの式から、
(Ccl+2Ccr)+[Ag]=Kspl/[Ag]+2Kspr/[Ag]^2+Cag
[Ag]で整理すると、
[Ag]^3+(Ccl+2Ccr-Cag)[Ag]^2-Kspl[Ag]-2Kspr=0 …②
この場合、②は三次方程式ですから、ソルバーを用いて[Ag]の近似解を求めます。
<エクセル表の作成>
K2CrO4を含むNaCl溶液にAgNO3を徐々に添加して、AgNO3濃度(Cag)を増やしていったときの[Ag], [Cl], [CrO4]を求めます。
●AgClだけが沈殿するとき
Ag2CrO4が沈殿する前は、[Ag]は①’式で求まります。また[Cl]=Kspl/[Ag], [CrO4]=0.05となります。
ちなみに、当量点では[Ag] = [Cl] = 10^(-9.74/2) = 10^-4.87なので、
[Ag]^2[CrO4] = 10^-9.74×0.005 = 9.1×10^-13 <1.2×10^-12 = Kspr
であり、当量点ではAg2CrO4はまだ沈殿していません。
●AgClおよびAg2CrO4が沈殿するとき
Ag2CrO4が沈殿を始めた後は、②式についてソルバーを用いて[Ag], [Cl]. [CrO4]を求めます。
Q =[Ag]^3+(Ccl+2Ccr-Cag)[Ag]^2-Kspl[Ag]-2Kspr=0
[Ag] = 10^-pAg (pAg:変数)
[Cl]=Kspl/[Ag]
[CrO4]= Kspr/[Ag]^2
・目的セル:Q=0
・変数セル:pAg
●Ag2CrO4がちょうど沈殿し始めるときのCag
Ag2CrO4がちょうど沈殿し始めるとき(終点)のCagは、②式および[CrO4]=Ccr=0.005が同時に成立するときなので、これをソルバーで求めることができます。
・目的セル:Q=0
・変数セル:pAg, Cag
・制約条件:[CrO4]-Ccr=0
<結果>
Cagと[Ag], [Cl].[CrO4]の関係を図-1に示します。またエクセル表の抜粋を図-2に示します。また計算式の例を図-3に示します。
図-1
図-2
図-3
図-1から分かるように、[Cl]>[Ag]のときはAgNO3はAgClの生成に消費され、Ag2CrO4の沈殿は生成しません。[Cl]=[Ag](当量点)直後にAg2CrO4の赤色沈殿が生成し始め、溶液は赤色に着色します(終点)。[Cl]<[Ag]になると、AgNO3は主にAg2CrO4の生成に消費され、CrO42-がほぼ消費されるまではAg+濃度, Cl-濃度はほぼ一定に保たれます。Cag = Ccl+2Ccrの時点でAg+濃度の上昇が見られます。



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