Cu2+を含む様々なpHの溶液にH2Sを十分に通じたときのCuSの理論的な溶解度を求めます。
具体的には、Cc = 0.3 mol/LのHClおよびCn mol/LのNH3を含む溶液にH2Sを十分に吹き込んだときのCuSの溶解度s (mol/L)を求めます。
硫化水素を十分に通じて飽和したとき、[H2S] = 0.1 mol/Lが成立する、とします。
銅のヒドロキシド錯体、アンミン錯体およびクロリド錯体の生成を考慮して、用いる平衡定数は次の通りとします(*1)。活量係数による補正は考慮しません。
(*1) この他にH2S, HS-, S2-に起因する錯体も存在すると考えられるが、ここでは考慮しない。
Ksp= [Cu][S] , pKsp = 36.1
K1= [HS][H]/[H2S] , pK1 = 7.0
K2= [S][H]/[HS] , pK2 = 14.0
Kn= [NH3][H]/[NH4] , pKn = 9.37
βo1 = [CuOH]/([Cu][OH]) , logβo1 = 6.5
βo2 = [Cu(OH)2]/([Cu][OH]^2) , logβo2 =11.8
βo3 = [Cu(OH)3]/([Cu][OH]^3) , logβo3 =14.5
βo4 = [Cu(OH)4]/([Cu][OH]^4) , logβo4 =15.3
βn1 = [CuNH3]/([Cu][NH3]) , logβn1 =4.0
βn2 = [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2), logβn2 = 7.3
βn3 = [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3), logβn3 = 10.1
βn4 = [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4), logβn4 = 12.0
βc1 = [CuCl]/([Cu][Cl]) , logβc1 = 0.1
<関係式>
●物質バランス:(溶解度s)
s = [Cu]+[CuOH]+[Cu(OH)2]+[Cu(OH)3]+[Cu(OH)4]+[CuNH3]+[Cu(NH3)2]+[Cu(NH3)3]+[Cu(NH3)4]+[CuCl]
Cn= [CuNH3]+2[Cu(NH3)2]+3[Cu(NH3)3]+4[Cu(NH3)4]+[NH3]+[NH4]
Cc= [Cl]+[CuCl]
●電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+2[Cu]+[CuOH]-[Cu(OH)3]-2[Cu(OH)4]+2([CuNH3]+[Cu(NH3)2]+[Cu(NH3)3]+[Cu(NH3)4])+[CuCl]+[NH4]-2[S]-[HS]
●化学種濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = 10^-14/[H]
[Cu] = Ksp/[S]
[CuOH] = βo1[Cu][OH]
[Cu(OH)2]= βo2[Cu][OH]^2
[Cu(OH)3]= βo3[Cu][OH]^3
[Cu(OH)4]= βo4[Cu][OH]^4
[CuNH3]= βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2]= βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3]= βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4]= βn4[Cu][NH3]^4
[CuCl]= βc1[Cu][Cl]
[H2S]= 0.1
[HS] = K1[H2S]/[H]
[S] = K2[HS]/[H]= K1K2/[H]^2
[NH3]= 10^-pNH3
[NH4]= [NH3][H]/Kn
[Cl] = Cn/(1+βc1[Cu])
<エクセルシートの作成>
ソルバーのパラメーターを設定する。
・目標セル:Q=0
・変数セル:pH, pNH3
・制約条件:R = Cn-([CuNH3]+2[Cu(NH3)2]+3[Cu(NH3)3]+4[Cu(NH3)4]+
[NH3]+[NH4]) = 0
<結果>
Cc= 0.3 mol/LのHClおよびCn mol/LのNH3を含む溶液にH2Sを十分に吹き込んだときのpHとCuSの溶解度s (mol/L)の関係を図-1 (a)に示します。なお、(b)はヒドロキシド錯体のみを考慮した場合(具体的にはNaOHでpHを調整した場合)、(c)は錯体の生成を全く考慮しない場合を示しています。またエクセルの計算の例を図-2に示します。(a)についてはソルバーを用いて解を求めましたが、(b), (c)については次の計算式を用いました。(2019/04/03, 2019/12/08参照)
(b) s = KspαM[H]^2/(K1K2[H2S])=10^22×KspαM[H]2
αM = 1+βo1[OH]+βo2[OH]^2+βo3[OH]^3+βo4[OH]^4
(c) s = Ksp[H]^2/(K1K2[H2S])=10^22×Ksp[H]2
図-1
(a) OH錯体、NH3錯体およびCl錯体の生成を考慮したとき
(b) OH錯体のみを考慮したとき
(c) 錯体の生成を考慮しないとき
図-2
図-1から明らかなように、強い酸性域においては、CuSの溶解度に対してヒドロキシド錯体、アンミン錯体等の錯体の生成の影響はほとんど認められないことが分かります。また酸性から塩基性にわたる全pH域においてCuSの溶解度は小さく、Cu2+を含む溶液にH2Sを十分に通じると全pHで沈殿が生成することが分かります。


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