実用的な条件下で、EDTAによるマグネシウムの滴定曲線を求めます。マグネシウムの滴定ではMg(OH)2の沈殿生成に十分注意する必要があります(2020/01/19-図1)MgOH+,MgHY-の錯生成およびMg(OH)2の沈殿生成を考慮に入れ、ソルバーを用いてより厳密な計算をします。


ソルバーによる厳密解


Cmgo mol/LMgCl2を含む溶液Vm mLpH緩衝液(NH4Cl: Cao mol/L, NH3: Cbo mol/L)Vn mLを加えて水でV mLにしたあと、Cyo mol/LEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線を求めます。MgOH+, MgHY-の生成、Mg(OH)2の沈殿生成を考慮します。

 

用いた平衡定数は「カルシウムのEDTA滴定(1)(2020/05/10)の値に加えて、

Mg2+ Y4- ⇄ MgY2- 

Ky = [MgY]/([Y][H]), logKy= 8.7

 

MgY 2- H+ MgHY- 

Kh = [MgHY]/([MgY][H]), logKh= 3.9

 

Mg2+ OH- ⇄ MgOH+ 

βo = [MgOH]/([Mg][OH]), logβo = 2.2

 

Mg(OH)2(s) Mg2+2OH- 

Ksp = [Mg][OH]2,  pKsp = 10.4


NH4+
MH3H+

Kn = [NH3][H]/[NH4], pKn = 9.3

とします(イオン強度μ=0.1のときの値)(*1)

(*1)イオン強度の違いによる補正はしない。

 

<関係式>

試料V mLに滴定剤T mLを加えた被滴定溶液(滴定途中の溶液)に関して、次のような関係が成立します。

・被滴定溶液中の全濃度:

MgCl2Cmg= CmgoVm/(VT)

EDTA(Na2H2Y)Cy = CyoT/(VT)

アンモニア:Cn = (CaoCbo)Vn/(VT)

・マグネシウムの物質バランス:

[Mg*] = [Mg][MgOH][MgY][MgHY]

EDTAの物質バランス:

[Y*] = [Y][HY][H2Y][H3Y][H4Y][MgY][MgHY]


・電荷バランス

Q = [H][OH]2[Mg][MgOH]2[MgY][MgHY]4[Y]3[HY]2[H2Y][H3Y][Cl][Na][NH4]=0



・化学種濃度
[H] = 10-pH

[OH] = Kw/[H]

[Mg] = 10-pMg  (沈殿が生成しないとき)

[Mg] = Ksp/[OH]2  (沈殿が生成するとき)
[MgOH] =
βo[Mg][OH]

[MgY] = Kf[Mg][Y]

[MgHY] = Kh[MgY][H]

[Y] = 10-pY

[HY] = [H][Y]/K4

[H2Y] = [H][HY]/K3

[H3Y] = [H][H2Y]/K2

[H4Y] = [H][H3Y]/K1

[Cl] = 2Cm

[Na] = 2Cy

[NH3] = Cn/(1+[H]/Kn)

[NH4] = [H][NH3]/Kn

 

<エクセルシートの作成>

次の3ケースに分けてソルバー計算をします。

・沈殿が生成しないときのパラメータ設定:

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0

 ・変数セル:pH, pY, pMg

 ・制約条件:

  ・マグネシウムの物質バランス、Rmg = Cmg[Mg*] = 0

  ・EDTAの物質バランス、Ry= Cy[Y*] = 0

 ・[Mg]の計算式:[Mg] = 10-pMg

 

・沈殿の生成境界におけるパラメータ設定:

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0

 ・変数セル:pH, pY, pMg, T

 ・制約条件:
  ・Rmg = Cmg[Mg*] = 0
  ・Ry= Cy[Y*] = 0
  A = [Mg][OH]2/Ksp = 1

 ・[Mg]の計算式:[Mg] = 10-pMg

 

・沈殿が生成するときのパラメータ設定:

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0

 ・変数セル:pH, pY

 ・制約条件:Ry = Cy[Y*] = 0

 ・[Mg]の計算式:[Mg] = Ksp/[OH]2

<結 果>

Cmgo=0.001 mol/LMg2+イオンを含む溶液Vm=50 mLpH緩衝液(NH4Cl: Cao=1.3 mol/L, NH3: Cbo=8.4mol/L), Vn=1 mLを加えてV=60 mLにしたあと、Cyo =0.01 mol/LEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線(TpMg’)を求めます。MgOH+, MgHY-イオンが生成することを考慮し、またMg(OH)2の沈殿生成の有無を確認します。

 

計算結果を-1に示します。計算の結果、この条件下(pH10)ではMg(OH)2の沈殿は生じないことが分かります。

-1

 2020-05-24-fig1

 

上の条件でpH緩衝液を変えてNH4Cl: Cao=0 mol/L, NH3: Cbo=10mol/L, Vn=0.2 mLとしたときの滴定曲線を求めます。結果を-2に示します。pH10.5では滴定の始めにMg(OH)2の沈殿が生じます。

-2

 2020-05-24-fig2

   

また、pH緩衝液(NH3-NH4ClまたはKOH)の濃度と添加量を変えてpH813におけるMg-EDTAの滴定曲線を-3に示します。pHが上昇するとpHのジャンプは大きくなります。しかし、pH10を超えると滴定の初期にMg(OH)2の沈殿が生成し、pH12を超えるとEDTAが当量加えられてもMg(OH)2が沈殿することが分かります。したがって、Mg-EDTA滴定の最適条件(=ジャンプが大きくかつ沈殿が生じない)pH10付近ということになります。

-3

 2020-05-24-fig3