「カルシウムのEDTA滴定(2)
(2020/05/17)で述べたように、pHの増加とともに、滴定曲線のジャンプの程度は大きくなります。今回は滴定可能なpH条件と適切な指示薬について考察します。

 

Ca-EDTA滴定が定量的となる条件

金属イオンMEDTAで滴定するとき、

M’ Y’ MY

Kf’’= [MY]/([M’][Y’])

が成立します。

 

当量点においては、

[M’] =[Y’]

が成立します。

ここで、滴定が定量的に行われる条件を、「当量点において[MY]99.9%以上、[M’],[Y’]0.1%以下となる」こととして、このときのKf’’の条件を求めます。

当量点における金属イオンMの全濃度をCm mol/Lとすると、下限において、

[MY] = 0.999CmCm

[M’] =[Y’] = 0.001Cm

なので、

Kf’’= [MY]/[M’][Y’]Cm/(0.001Cm)2 = 106/Cm

ここで、Cm = 0.01 mol/Lとすると、Kf’’= 1×108

また、Cm = 0.001 mol/Lとすると、Kf’’= 1×109

したがって、滴定が定量的に行われるためはlogKf’’89以上になる必要があります。

 

カルシウムのKf’’pHの関係は次のとおりです。

Kf’’= K f×fm×fy

fm= 1/(1+βoKw/[H])

fy=1/(1+[H]/K4+[H]2/(K4K3)+[H]3/(K4K3K2)+[H]4/(K4K3K2K1))

 

エクセルを用いてこの関係を求めると、-1のようになります。

-1

 2020-06-07-fig1

したがって、CaEDTA滴定が定量的に進行するためには、おおよそpH8~9以上となることが必要です。

 

 

Ca-EDTA滴定に適切な金属指示薬

金属指示薬として、エリオクロムブラックT(BT)および2-ヒドロキシ-1-(2'-ヒドロキシ-4'-スルホ-1'-ナフタレニルアゾ)-3-ナフタレンカルボン酸(NN)について検討します。

2020-06-07-b


Ccao=0.01 mol/LCa2+イオンを含む溶液Vm=20 mLpH緩衝液を加えてV=50 mLにしたあと、Cyo =0.01 mol/LEDTAで滴定する場合を考えます。

 

BT指示薬、NN指示薬の平衡定数は次のとおりです。

BTの酸解離定数:

Kt2= [H][HT]/[H2T], pKt2 = 6.3

Kt3= [H][T]/[HT], pK t3 = 11.6

BTとカルシウムの錯生成定数(Kt)

Kt= [MgT]/([Mg][T]), logKt = 5.4

 

NNの酸解離定数:

Kn3= [H][HN]/[H2N], pKn3 = 9.2

Kn4= [H][N]/[HN], pKn4 = 13.6

NNとカルシウムの錯生成定数(Kn)

Kn= [MgN]/([Mg][N]), logKn = 5.8

 

他の平衡定数については(2020/05/17)のとおり。

 

当量点(2020/05/31)①式から、

[Ca’]eq= (Cca/Kf’’) = (CcaoVm/(V+T)/(Kffcafy))

 

終点(2020/05/31)③式から、

BTを用いたとき

[Ca’]end(BT)= 1/Kt’’ = 1/(Ktfcaft)

ここで、

fca= 1/(1+βo[OH]) = 1/(1+βoKw/[H])

ft= 1/(1+[H]/Kt3+[H]2/(Kt3Kt2))

 

NNを用いたとき

[Ca’]end(NN)= 1/Kn’’ = 1/(Knfcafn)

ここで、

fca= 1/(1+βo[OH]) = 1/(1+βoKw/[H])

fn= 1/(1+[H]/Kn4+[H]2/(Kn4Kn3))

 

滴定誤差(2020/05/31)②式から、

E(10ΔpCa10-ΔpCa)/(CcaKf’’)

となります。

 

pH814に対する[Ca’]eq, [Ca’]end(BT), [Ca’]end(NN)およびそれらの滴定誤差の値をエクセルで計算した結果を-2に示します。

-2

2020-06-07-fig2
 

 

pHpCa’eq,pCa’end(BT), pCa’end(NN)の関係を-3に示します。また、pHと滴定誤差E%(BT), E%(NN)の関係を-4に示します。

-3, -4から明らかなように、

指示薬としてNNを用いると、pH13付近で精度良く滴定できることが分かります。変色は()から()で、鮮明です。pH13において0.01 mol/LCa0.01mol/LEDTAで滴定するとき、純粋に青色になったときを終点とすれば滴定誤差は±0.1%以下になると思われます。計算では変色率φ=0.8のとき(ここが純粋に青色となる点とする)、E%=-0.03%となりました。

-3

 2020-06-07-fig3

-4

2020-06-07-fig4
 

 

BTの場合、精度良く滴定できるのはpH12付近です(E%=-0.2%)。しかしすでに述べたように(2020-05-31)pH12付近においては遊離のBTの色は()であり、Caと結合したBTの色()から()への変色はあまり鮮明ではありません。

また、たとえばpH10付近では変色は()から()ですが、pH10では精度よい滴定は期待できません(E%=-5.7%)したがってカルシウムの指示薬としてBTを用いるのは不適です。*1)

*1) もし、ここでMg2+が存在すると、BTの使用が可能となるが、このことは次回説明する。

指示薬としてNN, BTを用いたときの滴定曲線と模式的変色域を
図-5, -6に示します。

-5

 2020-06-07-fig5


-6

 2020-06-07-fig6