EDTA滴定の重要な応用分野として水の硬度測定があります。水の硬度を求めるためには、CaおよびMgの定量が必要です。今回はEDTA滴定によるCa, Mgの分別定量について考察します。
水試料中のCa, Mgの定量法について、JIS K-0101, -0102では、Caの定量としてNNを指示薬に用いてpH13においてEDTAで滴定する方法が用いられています。またMgの定量法としては、BTを指示薬としてpH10においてEDTA滴定を行ってCa+Mgの合量を求め、先に求めたCaを差し引いてMgを求める方法が採用されています。
カルシウムの定量法
前回(2020/06/07)述べたように、CaはNN指示薬を用いると、pH13付近で精度良く滴定することができます。試料中にMgが共存しても、pH13付近ではMgはMg(OH)2として沈殿し、Caの滴定には妨害を与えません。(*1)
(*1) もし多量のMgを含む場合は、Mg(OH)2の沈殿にCaの一部が吸着されるため、Caの定量値は一般に低値となる傾向があり、対応が必要となる。また、他の重金属イオンが含まれる場合も滴定に妨害を与えるが、シアン化物等でマスキングすることで妨害を防止できる。
マグネシウムの定量法
これまでで述べたように(2020/05/17, 2020/05/24)、Ca, MgはpH10で滴定可能です。しかし、Ca, MgとEDTAとの錯生成定数(Kcay, Kmgy)は、logKcay=10.7, logKmgy=8.8 と接近しているので、両者を含む試料をpH10で滴定すると、原理的にCa+Mgの合量が滴定されることになります。したがってMgの定量はCa+Mgの合量からCa量を差し引いて求めることになります。
Mgの滴定にBT指示薬の使用は適切ですが、Caの場合、BT指示薬の使用は不適切であることが分かりました(2020/05/31)。それではCa, Mgが共存するとき、BT指示薬の使用が可能かどうか考えます。
すでに述べたように、BTは金属イオンM(=Ca, Mg)と錯体を作ります。
M2++ HT2-(青) ⇄ H+ + MT-(赤)
Mを含む溶液に少量のBTを加えると少量の錯体(MT)(赤)が生成し、溶液が赤く着色します。EDTAの添加が進み、 M2++Y4-→MY2- の反応が進行して当量点付近になると、遊離のEDTA(Y)が増加します。すると、遊離のEDTAがBTを置換して遊離のHT(青)が生成し、溶液が(赤)から(青)に変色します。
MT-(赤) + H++ Y4- → MY2-+ HT2-(青)
CaとMgの混合物の場合、Ca, MgとEDTAとの生成定数(Kcay, Kmgy)は接近しているので、Ca+Y→CaY, Mg+Y→MgYの反応は同時並行的に進行し、丁度(Ca+Mg)とYのモル濃度が等しくなったときが当量点となります。
BT指示薬についていうと、Ca, MgとBTとの錯生成定数(Kcat, Kmgt)は、logKcat=5.4, logKmgt=7.0 です。Kmgt>KcatかつKmgy<Kcayなので、当量点前はBTの大部分がMgTになっており(CaTの生成は極くわずか)、当量点ではMgTが遊離のEDTA(Y)と反応してMgYとなって、溶液が(赤)(=MgT)から (青)(=HT)に変色する、と定性的に説明することができます。
MgT-(赤) + H++ Y4-(無色) → MgY2-(無色) + HT2-(青)
このことを確認するため、エクセル-ソルバーにより、Ca, Mg, EDTA, BTの平衡についてこれらを同時に解析したいと思います。
エクセル-ソルバーによる解析
具体的に次のような条件で滴定したときの滴定曲線を、ソルバーを用いて求め、当量点におけるBTの変色率φから、金属指示薬の妥当性を検討します。
「CaCl2およびMgCl2をCcao=0.002 mol/L, Cmgo=0.002 mol/L含む溶液Vm=25 mLにpH緩衝液(NH4Cl: Cao=1.5 mol/L, NH3: Cbo=8.5mol/L), Vn=1 mLを加えて水でV=50 mLにしたあと、Cyo =0.01 mol/LのEDTAで滴定する(滴下量:T mL)。終点近くでCto=0.01mol/LのBT指示薬 Vt=0.1mLを加え、赤から青になってた点を終点とする。」(JIS K 0102を参考)
・平衡定数: 図-1に記載の通り(3行~20行)。(*2)
(*2)データの出典は様々でイオン強度も違うが、イオン強度の違いによる補正はしない。
・滴定中の被滴定溶液中の各成分の全濃度:
CaCl2: Cca = CcaoVm/(V+T)
MgCl2: Cmg = CmgoVm/(V+T)
アンモニア: Cn = (Cao+Cbo)Vn/(V+T)
BT(NaH2T): Ct = CtoVt/(V+T)
EDTA(Na2H2Y): Cy = CyoT/(V+T)
Na: Cna = 2Cy+Ct
Cl: Ccl = (2(Ccao+Cmgo)Vm+CaoVn)/(V+T)
・滴定中の被滴定溶液中の各化学種濃度:
[H]=10-pH
[OH]=Kw/[H]
[Ca]=10-pCa
[CaOH]=βcao[Ca][OH]
[CaY]=Kcay[Ca][Y]
[CaHY]=Kcah[CaY][Y]
[Mg]=10-pMg
[MgOH]=βmgo[Mg][OH]
[MgY]=Kmgy[Mg][Y]
[MgHY]=Kmgh[Mg][HY]
[Y]= 10-pY
[HY]=[H][Y]/K4
[H2Y]=[H][HY]/K3
[H3Y]=[H][H2Y]/K2
[H4Y]=[H][H3Y]/K1
[NH3]=Cn/(1+[H]/Kn)
[NH4]=[H][NH3]/Kn
[Cl]=Ccl
[Na]=Cna
[T]=Ct/(1+[H]/Kt3+[H]2/(Kt3Kt2)+Kcat[Ca]+Kmgt[Mg])
[HT]=[H][T]/Kt3
[H2T]=[H][HT]/Kt2
[CaT]=Kcat[Ca][T]
[MgT]=Kmgt[Mg][T]
・電荷バランス、物質バランス:
Q≡[H]-[OH]+2[Ca]+[CaOH]-2[CaY]-[CaHY]+2[Mg]+[MgOH]-2[MgY]-[MgHY]-4[Y]-3[HY]-2[H2Y]-[H3Y]+[NH4]-[Cl]+[Na]-3[T]-2[HT]-[H2T]-[CaT]-[MgT] =0
[Ca*]≡[Ca]+[CaOH]+[CaY]+[CaHY]+[CaT] =Cca
[Mg*]≡[Mg]+[MgOH]+[MgY]+[MgHY]+[MgT] =Cmg
[Y*]≡[Y]+[HY]+[H2Y]+[H3Y]+[H4Y]+[CaY]+[CaHY]+[MgY]+[MgHY] = Cy
・ソルバーのパラメータ:
・目的セル:電荷バランス、Q = 0 (*3)
・変数セル:pH, pY, pCa, pMg
・制約条件:
・Caの物質バランス、Rca= Cca-[Ca*] = 0
・Mgの物質バランス、Rmg= Cmg-[Mg*] = 0
・EDTAの物質バランス、Ry= Cy-[Y*] = 0
(*3) Q=Σ(電荷×化学種濃度)。対象とする化学種は22個あり、計算式を作るのが大変であるが、SUMPRODUCT関数を用いると計算式の作成が簡単になる(電荷の列は$を付けて固定すること)。
結 果
E列を作業列にして滴下量T(E:32)の値を変えながらソルバーを実行し、H列以降へ「コピー&ペースト」を繰り返していきます。(*4)
(*4) 「コピー&ペースト」は数式ではなく数値の貼り付けを行うほうがよい(数式の貼り付けを繰り返すと容量への負担が大きく計算速度が遅くなることがある。)
得られたエクセルシートを図-1に示します。
図-1
pH10におけるCa, Mg混合物の滴定曲線(T-pCa’, pMg’)を図-2に示します。図から明らかなように、EDTAとの錯生成定数が大きなCaがまずEDTAと反応しますが大きなジャンプはなく、Ca, MgがEDTAと並行的に反応することが分かります。当量点(Ca+Mg)においてはCa, Mgの急激なジャンプが見られます。
図-2
また、滴下量とBTの各化学種濃度の対数値を図-3に示します。このときBT指示薬については、当量点前はMgT(赤)が主成分ですが、当量点で急激に遊離のHT(青)に変化することが分かります。
図-3
指示薬の変色率をφ = [T']/Ct として、滴下量とφの関係を図-4に示します。(*5)
(*5) 終点検出の指標としてφを用いるのはあくまでも近似的であり、また図-4に示す色調の変化も模式的であることに注意してほしい。
図-4中の破線はCa単独(0.04 mol/L)の場合の変色率です。Ca単独では変色が緩慢ですが、Mgが存在するとCa+Mg(=0.04 mol/L)の変色は鋭敏になることが分かります。
以上のことにより、Ca+MgのEDTA滴定にBT指示薬の使用は適切であることが分かります。





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初期値が答えと大きくかけ離れている場合は、エラーになるので注意してください。
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