EDTA滴定において、試料中に滴定を妨害する金属イオンが含まれる場合、妨害の回避策として、pHの調節、金属イオンの分離(沈殿生成、イオン交換等)、別の選択的キレート試薬の使用などのやり方もありますが、簡便かつ汎用的なのはマスキング剤を使用する方法です。このとき、マスキング剤による条件生成定数はEDTAのそれより大きいことが必要です。
今回はMg2+のEDTA滴定において共存するZn2+をシアン化カリウムでマスクする場合について考えます。
MgとZnを含む溶液のEDTA滴定(KCNを加えないとき)
0.05 mmolのMgCl2および0~0.01 mmolのZnCl2を含む溶液に緩衝液(pH10)および指示薬(エリオクロムブラックT)を加え、液量を50 mlにして0.01mol/LのEDTAで滴定することを考えます。エクセルのソルバーを用いて作成した理論的滴定曲線を図-1に示し、当量点付近の変色率の様子を図-2に示します(エクセルのやり方は2020/05/24および2020/06/21 を参照!)
図-1
図-2
これらの図から明らかなように、(Mg+Zn)の合量が滴定されていることが分かります。したがってMgのみを滴定したい場合、何らかの対処が必要です。
MgとZnを含む溶液のEDTA滴定(KCNを加えたとき)
Znイオンのマスキング:
Zn2+はCN-と非常に安定した錯体を作りますが、Mg2+はCN-と錯体を作りません。したがって、(Mg+Zn)を含む溶液にKCNを添加するとZnはEDTAと反応しなくなり、Mgのみが滴定されると考えられます。このKCNの妨害抑制効果(*1)を調べます。
(*1)妨害化学種の影響を抑えて干渉を防止することをマスキングと言い、その試薬をマスキング剤と言う。KCN以外にNa2Sなども用いられる。
平衡定数および関係式:
Znとシアン化物の平衡定数は次の通りです。
βzc2 = [Zn(CN)2]/([Zn][CN]2), logβzc2 = 11.1
βzc3 = [Zn(CN)3]/([Zn][CN]3), logβzc3 = 16.1
βzc4 = [Zn(CN)4]/([Zn][CN]4), logβzc4 = 19.6
Mg2+, Zn2+, EDTA, CN-を含む溶液の平衡計算のソルバーによる実施例を図-3に示します。
図-3
EDTA滴定曲線および変色率:
0.05 mmolのMgCl2および0~0.01 mmolのZnCl2を含む溶液に1.5 mol/LのKCN溶液 1 mL, 緩衝液(pH10)および指示薬(エリオクロムブラックT)を加え、液量を50mlにした溶液を0.01 mol/LのEDTAで滴定するとき、エクセルのソルバーを用いて作成した理論的滴定曲線を図-4に示し、当量点付近の変色率(φ)を図-5に示します。
図-4
図-5
図から明らかなように、KCNを添加すると、Zn2+が完全にマスクされMg2+のみが滴定されていることが分かります。
KCNの添加量とマスキング効果:
KCNの添加量と変色率の関係を図-6, 図-7に示します。
図-6
図-7
例えば、0.05 mmolのMgCl2および0.01 mmolのZnCl2を含む溶液に緩衝液(pH10)およびBT指示薬を加え、液量を50 mlにした溶液を0.01 mol/LのEDTAで滴定するとき、KCNを1.5 mmol以上加えると、Znがほぼ完全にマスクされ、変色率も適切であることが分かります。










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