アルミニウムは、EDTAとの錯生成定数があまり大きくなく、また加水分解して多核錯体を作りやすくEDTAとの反応速度が遅いなど、EDTA滴定にはあまり適さない元素であり、これを用いるにあたってはいくつかの困難回避策(分離操作、マスキングなど)を考える必要があります。今回は、標準Zn溶液による逆滴定およびフッ化物によるAlのマスキングを適用する方法について考えます。

 

Al3+および不純物(たとえばPb2+)を含む試料について過剰のEDTAを加え、Zn標準溶液で逆滴定して(Al+不純物)の合量を求め、次いでNH4Fを加えてAlFxを生成させてAlと結合したEDTAのみを遊離させ、遊離したEDTAを引き続きZn標準溶液で滴定して、Al量のみを求める方法を考えます。

 

具体的には、

0.01 mol/LAl3+および0.001 mol/LPb2+を含む溶液20 mLに0.01 mol/LEDTA(Na2H2Y)25 mLを加え、NaOHpH4に調整したあと煮沸する。冷却後、pH緩衝液(酢酸ナトリウム+酢酸: pH5.3)およびXO指示薬を加え水で100 mLにして、0.01mol/Lの標準Zn溶液で滴定する(滴下量:T1 mL)2.7 mol/Lのフッ化アンモニウム溶液10 mLを加えて煮沸し、冷却後さらにXO指示薬を加え、0.01 mol/Lの標準Zn溶液で滴定する(滴下量:T2 mL)(JIS M-8220を参考)(1*)

(1*)例えばFe3+XO指示薬の変色を妨害するので事前に除去しておく必要がある。JIS M-8220(鉄鉱石中のAlの定量法)では滴定前にクペロンによる溶媒抽出法でFe3+を除去している。また、pH4における煮沸により、Al-EDTAの生成を完全にし、NH4F添加後の煮沸によりAlFxの生成を完全にしている。

 

平衡定数:

Alのフッ化物イオンの平衡定数は次の通りです(その他の平衡定数は-(1)に記載)(2*)

(2*) EDTAの酸性錯体、塩基性錯体はpH5付近では平衡全体に大きな影響を与えないので、平衡計算から除外する。また、ヒドロキソ錯体およびXO指示薬の平衡も無視する。活量補正はしない。

 

βmf1 = [AlF]/([Al][F]),  logβmf1 = 6.1

βmf2 = [AlF2]/([Al][F]2),  logβmf2 = 11.2

βmf3 = [AlF3]/([Al][F]3),  logβmf3 = 15.0

βmf4 = [AlF4]/([Al][F]4),  logβmf4 = 17.7

βmf5 = [AlF5]/([Al][F]5),  logβmf5 = 19.4

βmf6 = [AlF6]/([Al][F]6),  logβmf6 = 19.7

 

関係式

関係式を-(2)に示します。

 

ソルバーのパラメータ:

NH4Fを添加しないときーAl+Pbの定量)

目的セル:Q = 0

変数セル:pH, pAl,pPb, pZn, pY

制約条件:

   Rm= Cm[Al*]

   Rp= Cp[Pb*]

   Rz= Cz[Zn*]

   Ry= Cy[Y*]

 

NH4Fを添加したときーAlの定量)

目的セル:Q = 0

変数セル:pH, pAl,pPb, pZn, pY, pNH3, pF

制約条件:

   Rm= Cm[Al*]

   Rp= Cp[Pb*]

   Rz= Cz[Zn*]

   Ry= Cy[Y*]

   Rn= Cn[NH3*]

   Rf= Cf[F*]

 

各化学種の濃度:

各化学種の濃度を-(3)に示します。

-(1)

2020-07-26-fig1-1
 

-(2)

2020-07-26-fig1-2

 

-(3)

2020-07-26-fig1-3

 

滴定曲線:

Zn逆滴定におけるZn滴下量とpZn, pAl, pPb, pY’の関係を-に示します。また、Zn滴下量とp[ZnY], p[AlY], p[Pb]の関係を-3に示します。

NH4Fを添加すると、Alはフッ化物錯体(AlF52-, AlF63-)を作ってAlと当量のEDTAを遊離し、この遊離したEDTAZnと反応することが分かります。また、Pbはフッ化物と反応せずPb-EDTA錯体のままです。

-2

 2020-07-26-fig2

-3

2020-07-26-fig3
 

標準Zn溶液の濃度をCzo (mol)とし、NH4F添加前の終点をT1 (mL), 添加後の終点をT2 (mL)とすると、AlY + xNH4FAlFx + Y + xNH4の反応で遊離したYZn標準溶液で滴定したときの滴下量は(T2T1) mLであり、遊離したYAlと当量なので、試料中のAlの物質量は、

(Alの物質量)Czo(T2T1) (mmol) 

となります。(3*)

(3*) なお、(Alの物質量)(Pbの物質量) = (添加したYの物質量)CzoT1となる。