酸化還元滴定の滴定曲線を描くための基礎的事項を説明します。

 

<酸化還元反応と電池>

物質が電子(e-)を失ったとき、その物質は酸化されたと言い、物質が電子を受け取ったときその物質は還元されたと言います。自分が還元して相手を酸化する物質を酸化剤と言い、自分が酸化して相手を還元する物質を還元剤と言います。

 

酸化還元滴定でよく用いられる「Ce4+によるFe2+の滴定」を例として説明します。これを反応式で書くと、

Fe2+ Ce4+ Fe3+Ce3+  (1)

となります。

この場合、Ce4+が酸化剤でFe2+が還元剤です。この式は酸化還元反応式と呼ばれます。

 

酸化還元反応およびその平衡を理解するためには、図-1に示すような電池を組み立てるとよく理解できます。

-1

2025-04-20-fig1

図は二つの半電池から成り、半電池間は塩橋(*1)で接続され、左の半電池にはFe2+溶液、右の半電池にはCe4+が入り、白金電極間は導線で繋がれています。左の電極表面ではFe2+が酸化されてFe3+になり、放出された電子は左の電極に移り、導線を通じて右の電極に流れ、これを右の電極表面のCe4+が受け取り、還元されてCe3+になります。

(*1) 2つの溶液を混合させないで電気的に連結するために用いる装置で、普通はU字管に塩類溶液(たとえば、飽和KNO3溶液)を満たし、管の内部の液と外部の液が混ざらないように,管の末端を多孔質物質(たとえばゼラチンやセラミックスなど)で塞いだものなどが用いられる。

 

酸化反応がおきる極は負極(アノード)と呼ばれ、還元反応が起きる極は正極(カソード)と呼ばれます。それぞれの極でどのような反応が起きているかと言うと、

負極(左の極)では、「Fe2+は電子を失って(=酸化して)Fe3+になる」

Fe2+ Fe3+ e- ………(2)

正極(右の極)では、Ce4+は電子を受け取って(=還元して)Ce3+になる」

Ce4+ e- Ce3+ ………(3)

の反応が起きて、両極間には起電力が生じます。これらの式は(電池)反応式と呼ばれます。

 

上記の(1)の反応式は、2つの半反応式(2), (3)の組み合わせ [(1)=(2)+(3)] と考えることができます。つまり、(1)式の反応はFe2+が放出した電子(e-)Ce4+が受け取ることにより、Fe3+Ce3+が生成することを示しています。

 

<ネルンスト式>

一般に化学反応式 aA + bB  cC + dD において、平衡定数(K)は、次式で与えられます。

K = [C]c[D]d/([A]a[B]b)(*2)

(*2) [  ]は正しくは活量だが、希薄溶液の場合は濃度(mol/L)と考えてよい。

 

熱力学の教えるところによると、自由エネルギー変化(ΔG)は、

ΔG = ΔGº + 2.3RT logK

ここで、Rは気体定数(=8.314 Jmol-1K-1)、Tは絶対温度(K)です。ΔGºはすべての活量が1(標準状態)のときの自由エネルギー変化であり、標準自由エネルギー変化とよばれます。自由エネルギー変化は化学反応の起きやすさを示す指標となります。

 

また、自由エネルギー変化と電気的エネルギーとの間には次式のような関係があります。

ΔG = nFE

ここで、nは関係する電子のモル数、Fはファラディー数(=96500 C)Eは電圧(V)です。

また、標準状態では、

ΔGº = nFEº

となります。

 

以上の関係式から、25℃においては

E = Eº – (0.059/n)×log{[C]c[D]d/([A]a[B]b)}

この式は、ネルンスト式と呼ばれます。Eºは標準酸化還元電位と言います。標準酸化還元電位(Eº)は、数多くの半反応式について値が求められ、便覧等に記載されています

 

・国際的取決め

ここで、国際的な取決め(IUPAC)があり、各電極での反応式(半反応式)は、酸化体および電子を式の左側に書き、還元体を式の右側に書きます。また、EEºは、標準水素電極電位を基準(=0 V)として、その電位差で与えられ、符号は電極の極性に一致させます。

 

標準水素電極電位とは、標準水素電極(NHEまたはSHE)(水素気体の圧力が1気圧で水素イオンの活量が1のとき) が持つ電位のことで、この電位を0(V)とします。(-2参照)

-2

2025-04-20-fig2

 

したがってIUPACの規約に従えば、上記の(2), (3)の反応は、

Fe3+ e- Fe2+ ………(2)'

Ce4+ e- Ce3+ ………(3)'

と表記することになります。

 

このとき、(2)', (3)'のネルンスト式はそれぞれ、

E = Eº(Fe3+,Fe2+) – 0.059log([Fe2+]/[Fe3+]) ………(2)''

   Eº(Fe3+,Fe2+) = 0.771 V (vs NHF)

E = Eº(Ce4+,Ce3+) – 0.059log([Ce3+]/[Ce4+]) ………(3)''

   Eº(Ce4+,Ce3+) = 1.72 V (vs NHF)

となります。(3*)

(3*) 一般に、半反応式がOx ne- Redで表されるとき、ネルンスト式は、

E = Eº-(0.059/n)log([Red]/[Ox])

となる。

 

・平衡定数

(2)'', (3)''から(1)の平衡定数(K=[Fe3+][Ce3+]/(Fe2+][Ce4+]))を求めると、

(3)''(2)''より、

log([Fe3+][Ce3+]/(Fe2+][Ce4+])

= (Eº(Fe3+,Fe2+) – Eº(Ce4+,Ce3+))/0.059 = 16.3

K = 10^(16.1) = 1.2×10^16

したがって、(1)の平衡は大きく右に偏っていることが分かります。

 

・式量電位

標準酸化還元電位(Eº)はすべての活量が1である場合に対して定義されますが、ある特定の条件(pH, イオン強度, 錯化剤濃度等)について適用される酸化還元電位は式量電位(Eº')と呼ばれます。

たとえば、Fe3+ e- Fe2+について、標準酸化還元電位は、Eº =0.771 Vですが、1 M HCl1M H2SO4中では、式量電位はそれぞれEº' = 0.73 V, 0.68 Vとなります。

 

<電位差滴定装置と電極>

電位差滴定装置は、指示電極(作用電極ともいう)、参照電極(比較電極ともいう)、電位差計、ビュレット等から構成されています。指示電極は溶液中の分析対象成分の濃度に応答する電極で、参照電極は成分濃度の如何にかかわらず常に一定の電位を保つ電極です。

電位差滴定法は、この二つの電極間の電位差を測定することにより、対象成分(たとえば、Fe2+)を含む溶液に滴定剤(例えばCe4+)を加えたときの当量点おける急激な濃度変化を検出して定量する方法です。

電位差滴定装置の概略の構成図を-に示します。

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 2020-08-02-fig3

電位差滴定装置の指示電極としては、白金電極、銀電極などが用いられます。

また酸化還元電位は標準水素電極(NHE)電位を基準としますが、標準水素電極(NHE)は取り扱いが面倒なので、実際の実験では飽和カロメル電極、銀-塩化銀電極などの参照電極が用いられます。

・飽和カロメル電極(SCE)

飽和カロメル電極(SCE)は次の反応に基づいています。

Hg2Cl2(s) e- Hg(l) Cl-

 Eº = 0.241 V (飽和KCl)

SCEの電位はNHEに対して一定(+0.241 V )なので、SCEを基準として求められた電位に0.241 Vを足すと、NHEに対する電位となります。

・銀-塩化銀電極

-塩化銀電極は次の反応に基づいています。

AgCl(s) e- Ag(s) Cl-

 Eº = 0.197 V (飽和KCl)

したがって、銀-塩化銀電極を基準として求められた電位に0.197 Vを足すと、NHEに対する電位となります。