酸化還元滴定でよく用いられる「セリウム(IV)標準溶液によるによる鉄(II)の滴定」を例として、当量点前、当量点、当量点後にケース分けして酸化還元滴定曲線を描く方法を説明します。

 

具体的には、濃度Cfo mol/Lの鉄(II)を含む1 mol/L硫酸溶液v mLを濃度Cco mol/Lのセリウム(IV)を含む1 mol/L硫酸溶液で滴定する(滴下量, t mL)ことを考えます。白金電極および飽和カロメル電極(SCE)を用いて溶液の電位差を測定して得られる滴定曲線を計算で求めます(滴定装置を図-1に示す)

-1

 2020-08-09-fig1

<関係式>

被滴定溶液中では、次の反応が起きます。

Fe2+ Ce4+ Fe3+Ce3+ (1)

前回(2020/08/02)述べたように、反応式(1)は次の二つの半反応式に分けて考えることができます。

Fe3+ e- Fe2+  (2)

Ce4+ e- Ce3+  …(3)

 

これに対応するネルンスト式は、次で与えられます。(*1)

E = Eº'f – 0.059log([Fe2+]/[Fe3+])    …(2')

   Eº'f = 0.68 V (1 M H2SO4、対NHE)

E = Eº'c – 0.059log([Ce3+]/[Ce4+])    …(3')

   Eº'c = 1.44 V (1 M H2SO4中、対NHE)

(*1) , Eº'f, Eº'c 1 mol/L H2SO4中における式量電位。滴定開始から終了までこの式量電位は変化しないものとする。

 

被滴定溶液中では、滴定剤が添加される都度、平衡状態が成立するので、ネルンスト式(2'), (3')の電位Eは同じ値となります。


滴定中の被滴定溶液中の全鉄、全セリウム濃度をCf, Ccとすると、

Cf = Cfov/(v+t) = [Fe3+][Fe2+]

Cc=Ccot/(v+t) = [Ce4+][Ce3+]

また、反応生成物であるFe3+とCe3+濃度間には図-2のように、

[Fe3+] [Ce3+] = x

の関係が成立します。

したがって、

[Fe2+] = C f[Fe3+] = C fx

[Ce4+] = Cc[Ce3+] = Ccx

となります。
         図-
 2020-08-09-fig2

<滴定曲線の作成のための計算例>

Cfo = 0.1 mol/L, v = 50 mLの試料溶液をCco = 0.1 mol/Lのセリウム(IV)標準溶液で滴定することとします(滴下量t mL)

 滴定剤を加える前

滴定剤(Ce(IV))を加える前の試料溶液(Fe(II))には、微量であってもFe(III)が含まれています。しかし、この量は分からないので、ここでは仮に[Fe2+]/[Fe3+]10^3 とします。

E = Eº'f – 0.059log([Fe2+]/[Fe3+])

= 0.680.059log10^3 = 0.50 (V) (対NHE)

 

 当量点前

当量点前はCfCc です。前回(2020/08/02)述べたように、(1)式の平衡は大きく右に偏っているので、Ce(IV)を加えた分だけFe(II)はFe(III)に変化、またCe(IV)はほぼ完全にCe(III)になります([Ce4+]0) (図-2) 

Eを求めるとき、(2'), (3')式の電位は等しいのでどちらの式を用いてもよいのですが、[Ce3+]/[Ce4+]の計算はめんどう([Ce4+]0なので)である一方、[Fe2+]/[Fe3+]の計算は容易にできるので、(2')を用います。

たとえば、滴下量 t = 10 mLの場合。

[Fe3+] = [Ce3+] = Cc[Ce4+]

ここで、当量点前は[Ce4+]0なので(*2)[Fe3+]= Ccとみなすことができます。したがって、

[Fe3+] = Cc = Ccot/(v+t) = 0.1×10/(50+10) (mol/L)

一方、残った[Fe2+]は、

[Fe2+] = Cfov/(v+t)[Fe3+]

= 0.1×50/(50+10)0.1×10/(50+10) (mol/L)

したがって、

E = 0.680.059log([Fe2+]/[Fe3+])

= 0.680.059×log(0.1×50/600.1×10/60)/(0.1×10/60))

= 0.680.059×log(4) = 0.64 (V) (対NHE)

(*2) 当量点の極く近傍ではこの仮定は成立しない。

 

 当量点

滴下量 t = 50 mLの場合(当量点)

当量点においては、Cfov = Ccot

つまり、[Fe2+]+[Fe3+] = [Ce3+]+[Ce4+]
が成立します。
また当量点前と同様、当量点においても[Fe3+]= [Ce3+

が成立します。したがって、

[Fe2+] = [Ce4+]

 

(2')(3')を行うと、

2E = (Eº'fEº'c) – 0.059log([Fe2+]/[Fe3+]) – 0.059log([Ce3+]/[Ce4+])

= (Eº'fEº'c) – 0.059([Fe2+][Ce3+]/([Fe3+][Ce4+]))

= (Eº'fEº'c) (∵[Fe2+][Ce3+]/([Fe3+][Ce4+])= 1)

E = (Eº'fEº'c)/2= 1.06 (V) (対NHE)

 

 当量点後

当量点後(CfCc)は、Fe(II)はほぼ完全にFe(III)に変化し([Fe2+]≒0)、過剰のCe(IV)が残るので、(3')式を用いて[Ce3+]/[Ce4+]を計算してEを求めるのが簡単です。

 

たとえば、滴下量 t = 60 mLの場合。

[Ce3+] = [Fe3+] = Cf[Fe2+]

ここで、当量点後は[Fe2+]0なので(*2)[Ce3+]= Cfとみなして、

[Ce3+] = Cf = Cfov/(v+t) = 0.1×50/(50+60) (mol/L)

一方、残った[Ce4+]は、

[Ce4+] = Ccot/(v+t)[Ce3+]= 0.1×60/(50+60)0.1×50/(50+60) (mol/L)

したがって、

E = 1.440.059log([Ce3+]/[Ce4+])

= 1.440.059×log(0.1×50/110/(0.1×60/1100.1×50/110))

= 1.440.059×log(5) = 1.40 (V) (対NHE)

 

以上で求めたEの値は、標準水素電極(NHE)に対する値です。飽和カロメル電極(SCE)に対する値は得られた値から0.241 Vを差し引きます。

 

<滴定曲線の作成>

エクセルによる計算結果および計算式の抜粋を-3(1), (2)に示します。

-3(1)
2020-08-09-fig3
 図-3(2)
2020-08-09-fig4

また滴定曲線(滴下量t- E(SEC))を図-4に示します。(*3)

(*3) 実際の滴定に当たって、終点の検出に電位差計を用いないで、酸化還元指示薬を用いることもできる。この場合、当量点の酸化還元電位(E=1.06 V, 対NHE)から考えて、たとえばフェロイン(変色電位=1.1 V, 対NHE(0.9 V, 対SCE);青→赤)が適切である。

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2020-08-09-fig5