前回(2020/08/09)は当量点前後でケース分けをし、それぞれの近似式を用いて酸化還元滴定曲線を作成しました。今回は、ケース分けや近似をせず、厳密に平衡式を解いて滴定曲線を描く方法を検討します。方程式の解を求めるには、エクセルで「二分法」と「データテーブル」を用います。
具体的には、濃度Cfo mol/Lの鉄(II)を含む1mol/L硫酸溶液v mLを濃度Cco mol/Lのセリウム(IV)を含む1 mol/L硫酸溶液で滴定する(滴下量, t mL)ことを考えます。
<関係式>

滴定途中の被滴定溶液中の全鉄、全セリウム濃度をCf, Ccとすると、関係式は次の通り。
E = Eo'f-(RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+]) …(1)
E = Eo'c-(RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+]) …(2)
Cf = Cfov/(v+t) = [Fe3+]+[Fe2+] …(3)
Cc= Ccot/(v+t) = [Ce4+]+[Ce3+] …(4)
[Fe3+] = [Ce3+] …(5)
ここで、Cfo, Cco, v, Eo'f, Eo'c, RT/Fはすべて定数です。(*1)
(*1) Eº'f(=0.68 V, 対NHE) , Eº'c=(1.44 V, 対NHE) は1 mol/L H2SO4中における式量電位。滴定開始から終了までこの式量電位は変化しないものとする。
(1)より、
Eo’f-E = (RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+])
(Eo’f-E)/(RT/F) = ln([Fe2+]/[Fe3+])
exp((Eo’f-E)F/(RT)) = [Fe2+]/[Fe3+] …(1)'
(3)より、
[Fe2+] = Cf-[Fe3+] …(3)'
(3)'を(1)'に代入して、
exp((Eo'f-E)F/(RT)) = (Cf-[Fe3+])/[Fe3+]= Cf/[Fe3+]-1
1+exp((Eo'f-E)F/(RT)) = Cf/[Fe3+]
[Fe3+] = Cf/(1+exp((Eo'f-E)F/(RT))) …(1)''
(2)より、
Eo'c-E = (RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+])
-(Eo'c-E)/(RT/F) = ln([Ce4+]/[Ce3+])
exp(-(Eo'c-E))F/(RT)) = [Ce4+]/[Ce3+] …(2)'
(4)より、
[Ce4+] = Cc-[Ce3+] …(4)'
(4)'を(2)'に代入して、
exp(-(Eo'c-E)F/(RT)) = (Cc-[Ce3+])/[Ce3+] = Cc/[Ce3+]-1
1+exp(-(Eo'c-E)F/(RT)) = Cc/[Ce3+]
[Ce3+] = Cc/(1+exp(-(Eo'c-E)F/(RT))) …(2)''
(5)より、[Fe3+]-[Ce3+] = 0
f(E) = [Fe3+]-[Ce3+]と置き、(1)''および(2)''を代入すると、
f(E) = Cf/(1+exp((Eo'f-E)F/(RT))) -Cc/(1+exp(-(Eo'c-E)F/(RT))) = 0
f(E) = (Cfov/(v+t))/(1+exp((Eo'f-E)F/(RT)))- (Ccot/(v+t))/(1+exp(-(Eo'c-E)F/(RT))) = 0 …(5)'
tを与えてf(E)=0の方程式を解くことにより、tに対するEの値を求めることができます。
<エクセル表の作成>
f(E)=0の方程式を解くために「二分法」を用います。(*2)
(*2) 二分法を用いるためには、f(E)が単調関数であることが必要である。
A = RT/F = 0.0257, p = (Eof-E)/A, q = (Eoc-E)/A とすると、
df(E)/dE = (Cfexp(p)/(1+exp(p))2+Ccexp(-q)/(1+exp(-q))2)/A
となる(式の導出は省略)。
A, Cf, Cc,exp(p), exp(-q)はすべて正なので、df(E)/dE>0
したがって、f(E)は単調増加関数であり、二分法が使用できる。
濃度Cfo=0.1 mol/L, v=50 mL, Cco=0.1mol/Lの場合について計算します。
A=RT/F, A'=A×ln(10), p=(Eof-E)/A', q=(Eoc-E)/A' と置き直して、(5)'を変形すると、
f(E) = (Cfov/(v+t))/(1+10^(p))-(Ccot/(v+t))/(1+10^(-q)) = 0 …(5)''
「二分法」のやり方は従来通りです。またEの初期値はEº'c=1.44, Eº'f=0.68から考えて、Ea0=3, Eb0=0としました。さらにエクセルの「データテーブル」機能により、tを変化させて各々のtに対するEの値を求めました。
計算結果と計算式の抜粋を図-1(1), (2)に示します。
図-1(1)
図-1 (2)
滴定曲線(滴下量t - E(SEC))を図-2に示します。当量点におけるEの値はEeq=(Eo'f+Eo'c)/2 (=0.82 V, 対SCE)となります。また当量点での滴下量をteqとすると、t=teq/2のときEの値はE≒Eo'f(=0.44 V, 対SCE)となり、t=2teqのときEの値はE≒Eo'c (=1.20 V, 対SCE)となります。(*3)
(*3) これらの関係はすべて(5)''式から導き出せる。
たとえば、E = Eo'fのとき、これをf(E) = 0に代入して、
(Cfov/(v+t))/(1+exp(0)) = (Ccot/(v+t))/(1+exp(-(Eo'c-Eo'f)/A))
ここで、exp(0) = 1、Eo'c-Eof= 1.44-0.68 = 0.76、exp(-(Eo'c-Eo'f)/A)= exp(-0.76/0.0257) = 1.4×10^-13
したがって、1+exp(-(Eo'c-Eo'f)F/(RT))≒1と近似できる。
(Cfov/(v+t))/2≒Ccot/(v+t)
∴ Cfov/2 ≒ Ccot
つまり、t = (Cfov/Cco)/2= teq/2のときEの値はE≒Eof となる。
図-2



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