1価の弱塩基のpHの算出方法は、1価の弱酸の場合と考え方がほぼ同じです。アンモニアを例として、(1)近似式 (2)「二分法」 (3)「ソルバー」を用いる方法によってpHを求めます。
アンモニア水は次式のように電離して、アンモニウムイオン(共役酸)を生成します。
NH3 + H2O ⇄ NH4+ +OH-
また、アンモニウムイオンの加水分解反応は、
NH4+ + H2O ⇄ NH3 + H3O+
となります。両式の意味するところは同じです。
アンモニアの塩基解離定数(Kb)とアンモニウムイオンの酸解離定数(Kn)は、
Kb = [OH][NH4]/[NH3]
Kn = [H][NH3]/[NH4]
これらの式の間には、
KbKn = Kw
の関係が成立します。
アンモニアの全濃度をCn (mol/L)とし、その共役酸(アンモニウムイオン)の酸解離定数をKnとすると、関係式は、
化学反応式:
NH4+ ⇄ H+ +NH3
H2O ⇄ H+ +OH-
平衡定数式:
Kn = [H][NH3]/[NH4] …①
Kw = [H][OH] …②
物質収支式:
Cn = [NH3]+[NH4] …③
電荷収支式:
[H]+[NH4] = [OH] …④
④式から、
[NH4] = [OH]-[H] …④’
③, ④’式から、
[NH3] = Cn-([OH]-[H]) …③’
③’, ④’式を①式に代入して、
Kn = [H](Cn-([OH]-[H]))/([OH]-[H]) …①’
の関係式が得られます。
<アンモニアのpHの求め方>
<近似式による解>(2020/10/04を参照!)
◆ ケース分けと近似式
塩基溶液においては[H]は[OH]に比べて小さい。
もし、[OH]>>[H]ならば、④’式は、
[NH4] = [OH]-[H]≒[OH]と近似でき、①’式は、
Kn = [H](Cn-[OH])/[OH] = Kw(Cn-[OH])/[OH]^2
[OH]^2 = Kw(Cn-[OH])/K n …①’’
となります。整理すると、
[OH]^2+(Kw/K n)[OH]-Cn(Kw/Kn) = 0
Kw/K n=Kbなので、解の公式から、
[OH] = {-Kb+√(Kb^2+4CnKb)}/2 …(b')
[H] = Kw/[OH]
さらに、塩基濃度が高く、[OH]>>[H]かつCn>>[OH]ならば、①’’式はCn-[OH]≒Cnと近似できて、
[OH]^2 = CnKw/Kn
[OH] = √(CnKw/Kn)
[OH] = √(CnKb) …(c’)
[H] = √(KnKw/Cn) …(c'')
となります。
また、もし[OH]≳[H]かつCa>>([OH]-[H])ならば、①’式は
Kn = [H]Cn/([OH]-[H])
Kn = CnKw/([OH]^2-Kw)
[OH]^2-Kw = CnKw/Kn
[OH] = √(CnKw/Kn+Kw)
[OH] =√(CnKb+Kw) …(d')
となります。
◆ 近似式の限界
1価の弱酸の場合と同様、ΔpHが0.02のとき、これは水酸イオン濃度の相対誤差4.7%に相当することが分かります(2020/10/04)。したがって、このとき、[OH]-[H]に対して、[H]が[OH]の4.7%よりも小さければ、[H]は[OH]に対して無視することができます。
「[H]が[OH]の4.7%よりも小さいとき」とは、
[H]<0.047[OH]
[H]<0.047Kw/[H]
[H]^2>0.047Kw
[H]>√(0.047Kw) = 2.17×10^-8
つまり、
pH>7.66
pOH<6.34
となるときです。
また、Cn-[OH]に対して、[OH]がCnの4.7%よりも小さいとき、[OH]はCnに対して無視できることが分かります。
[OH]がCnの4.7%よりも小さいとき、
[OH]<0.047Cn
pOH>-logCn+1.33
pH<logCn+12.67
となります。
◆ 近似式を用いる解法フロー
近似式による1価弱塩基のpHの求め方(pHの許容誤差:0.02)を図-1のフローチャートに示します。
図-1
例題1:Cn=0.001 mol/Lのアンモニア溶液のpHは? pKn=9.25, pKw=14.00とする。
(c'')式より、
[H]ap = √(KnKw/Cn)= √(10^-9.25×10^-14/0.001) = 7.50×10^-11
pHap = 10.13
近似解の妥当性を検証する(pHapによる比較)。
pHの許容誤差を0.02とすると、
pHap = 10.13>7.66
また、
pHap = 10.13>9.67 = -logCa+12.67
したがって、この近似解は不適切。
(b')式より[OH]を求めると、
[OH] = 1.25×10^-4
[H] = 8.00×10^-11
(答) pH=10.10
<「二分法」による解>(2020/10/11を参照!)
上記の例題1ついて、「二分法」で答えを求めます。
①から、
[NH4] = [H][NH3]/Kn
これを③に代入して、
Cn= [NH3](1+[H]/Kn)
[NH3]= Cn/(1+[H]/Kn)
④から、
Q = [H]-[OH]+[NH4] = 0
「二分法」表の作成のための関係式:
[H] = 10^-pHm
[OH] = Kw/[H]
[NH3] = Cn/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [NH3][H]/Kn
Q = [H]-[OH]+[NH4] = 0
「二分法」表を図-2, 図-3(計算式)に示す。(答え) pH=10.10
図-2
図-3(計算式)
<「ソルバー」による解>(2020/10/18を参照!)
上記の例題1について、Q=0を[目的セル], pHを[変数セル]としたときのソルバー解を図-4に示めす。(答え) pH=10.10
図-4
<塩基のFlood図>
また1価の塩基(共役酸の酸解離定数Kn)について、Cn, KnとpHの関係(Flood図)を図-5に示します。Cnが小さくなると近似式[H]ap = √(KnKw/Cn)が成立しなくなることが分かります。
図-5
<近似式が成立する下限濃度>
例題2:近似式[H]ap = √(KnKw/Cn)が成立するアンモニア溶液の下限濃度は? pHの許容値(ΔpH)を0.02とし、またpKn=9.25, pKw=14.00とする。
変数セル:pH, pCn
目的セル:Q = [H]-[OH]+[NH4]= 0
制約条件:ΔpH = pHap-pH = 0.02
ソルバー実行後のシートを図-6に示めす。
(答え) Cn=0.0021 mol/L
図-6






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