溶液のpHと化学種濃度の対数値(log C)の関係を示した図を作成すると、この図を用いてpHの近似値を求めることができます。この図は、対数濃度図、log C-pH図、Sillén図などと呼ばれ、濃度を対数変換しているので系の広い濃度範囲を概観でき、特に複雑な系での解析に有用です。対数濃度図はグラフ用紙にマニュアルで作図することもできますが、ここでは、主にエクセルを用いて作成します。
今回は酢酸(HA)および酢酸ナトリウム(NaA)を例にとって、対数濃度図の作成方法とこの図によるpHの求め方を説明します。
<<関係式>>
<酢酸>
Ca mol/Lの酢酸(HA)の関係式は(2020/10/04を参照)、
Ka = [H][A]/[HA] …①
Kw = [H][OH] …②
Ca = [A]+[HA] …③ (物質収支)
[H] = [OH]+[A] …④ (電荷収支)
pHの値が与えられると、
[H] = 10^-pH …⑤
②から、
[OH] = Kw/[H] …⑥
③, ①から、
[A] = Ca/(1+[H]/Ka) …⑦
①から、
[HA] = [H][A]/Ka …⑧
したがって、pH値を与えると⑤~⑧式から[H],[OH], [A], [HA]の値をすべて求めることができます。
<酢酸ナトリウム>
Cs mol/Lの酢酸ナトリウム(NaA)の関係式は(2020/11/01を参照)、
Ka = [H][A]/[HA] …①
Kw = [H][OH] …②
Cs = [A]+[HA] …③’
Cs = [Na] …③’’
[H]+[Na] = [OH]+[A] …④’
酢酸と同様にして、
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[A] = Cs/(1+[H]/Ka)
[HA] = [H][A]/Ka
[H], [OH], [A], [HA]の値を求める式は酢酸の場合と全く同じです。したがって、Ca=Csならば酢酸と同一の対数濃度図となります。
<<作成方法>>
Ca=Cs=0.01 mol/Lの場合についてエクセルシートと対数濃度図の作成方法を説明します。
<エクセルシート>
(図-1のエクセルシートを参照のこと)
(1) C3, C4, C5にpKa(=4.75), pKw(=14.00), 酢酸濃度Ca(または酢酸ナトリウム濃度Cs)の値(=0.01)を入れる。
(2) Ka, Kwを計算する。
・C6 =10^-C3
・C7 =10^-C4
(3) B13:B153にpHの値を0.0~14.0まで0.1刻みで入れる。
・たとえば、B13に0, B14に0.1を入れ、B13:B14を範囲指定して右下隅のフィルハンド■にポインターを合わせて+になったらB153までドラックする。
(4) C13~L13に計算式を入れる。
・C13 =10^-B13 (⑤式)
・D13 =$C$7/C13 (⑥式)
・E13 =$C$5/(1+C13/$C$6) (⑦式)
・F13 =C13*E13/$C$6 (⑧式)
・H13 =B13
・I13 =LOG(C13)
・J13 = LOG(D13)
・K13 = LOG(E13)
・L13 = LOG(F13)
(5) C14:L153に計算式を入れる。
・C13:L13を範囲指定して、右下隅のフィルハンド■にポインターを合わせて+になったらB153までドラックする。
作成したエクセルシートの抜粋を図-1に示します。
図-1(抜粋)
<対数濃度図>
対数濃度図の作成方法は次の通りです。
・上記のエクセルシートにおいてH12:L153を範囲指定して、[挿入]⇒[グラフ]⇒[散布図]
・これでpHに対するlog[H], log[OH], log[A], log[HA]の関係図が得られる。グラフの体裁は適当にカスタマイズする。
作成したグラフを図-2に示します。図において黒色の実線(―)はlog[H]を、黒色の破線(…)はlog[OH]を、黄色の実線(―)はlog[HA]を、 赤色の破線(…)はlog[A]を、それぞれ表しています。
図-2
なお、黒色の実線(―:H+)と黒色の破線(…:OH-)の交点(N)はpH=√Kwに相当します。また黄色の実線(―:HA)と赤色の破線(…:A-)の交点(R)のpHはpKaに相当します。R点は、pH=pKaとlogC=logCaの交点Sより真下にlog Cが0.3だけ低いところにあります。(*1)
(*1) マニュアルで作図する場合は、次の通り。
(a) H+の線: logC=-pH、OH-の線: logC=pH-14およびCaの線: logC=log Caの線を引く。
(b) logC=logCaとpH=pKaの交点をS点する。S点から真下にlogCが0.3だけ低い点をR点とする。
(c) HAの線: 酸性側からlogC=logCaの線を引きS点前(pH:-1.3単位)で止める。塩基性側からS点を通ってH+の線に平行な線を引き、S点後(pH:+1.3単位)で止める。S点前後はR点を通って滑らかな曲線をフリーハンドで引く(もう少し正確にしたいのならば⑧式を用いて数点のpHについてlogCを求める)。
(d) A-の線: 塩基側からlogC=logCaの線を引きS点近傍(pH:+1.3単位)で止める。酸性側からS点を通ってOH-の線に平行な線を引き、S点近傍(pH:-1.3単位)で止める。S点前後はR点を通って滑らかな曲線をフリーハンドで引く(もう少し正確にしたいのならば⑦式を用いて数点のpHについてlogCを求める)。(図-3)
図-3
<<pHの求め方>>
<酢酸溶液>
酢酸溶液のpHは、酢酸の電荷収支式が成立するときのpHとして与えられます。
④式(電荷収支式)から、
[A] = [H]-[OH]
もし、[H]>>[OH] (0.047[H]>[OH])ならば、
[A] = [H]
log[A] = log[H]
この式は図-2でいうと、黒色の実線(―:H+)と赤色の破線(…:A-)の交点(P)を表しています。図-2から明らかの様にlog[H]>log[OH]+1.3。したがってP点のpHが求めるpHということになります。このpHはおよそ3.4です。
<酢酸ナトリウム溶液>
酢酸ナトリウム溶液のpHは、酢酸ナトリウムの電荷収支式が成立するときのpHとして与えられます。
④’式(電荷収支式)に③’, ③’’ (物質収支式)を代入して整理すると、
[HA] = [OH]-[H]
もし、[OH]>>[H] (0.047[OH]>[H])ならば、
[HA] = [OH]
log[HA] = log[OH]
この式は図-2でいうと、黒色の破線(…:OH-)と黄色の実線(―:HA)の交点(Q)を表しています。図-2から明らかの様にlog[OH]>log[H]+1.3。したがって、Q点のpHが求めるpHということになります。このpHはおよそ8.4です。
<<酸、塩濃度が低い場合>>
これまでは、Ca=Cs=0.01 mol/Lの場合について、述べてきましたが、これらの濃度が
低くなった場合、対数濃度図がどうなるのかその様子を見てみます。
酢酸濃度をCa=0.01~1×10^-7 mol/Lと変化させたときの対数濃度図を図-4に示します。この図ためのエクセルシートは、What-If分析のデータテーブル機能で作りました。
図-4
A-の曲線は、pHが低いときはR点を通って傾き45°の直線(logC = pH+logCa-pKa)("傾斜部分"という)ですが、pHが高くなってR点に近づくと傾きが次第に小さくなり、やがて水平な線(log C = log Ca)("水平部分"という)になります。
Ca=0.01 mol/Lの場合、溶液のpHは「logC =-pHと"傾斜部分"の交点」(*2)で与えられますが、Caが低くなるとその交点はしだいに右下に移動してやがて「logC= -pHと"水平部分"との交点」で与えられるようになります。
(*2)このとき[H] = √(CaKa)が成立する。
さらに酢酸濃度が低くなると、[OH]が無視できないので補正が必要となります(*3)。例えば、Ca=1×10^-7 mol/Lでは補正が必要で、logC=-pH と logC=log([A]+[OH])の交点が溶液のpHとなります(図-4-拡大図)。
(*3) 図-2でP-P'がlogCで1.3以下のとき補正が必要。
酢酸ナトリウム溶液の場合も同様で、酢酸ナトリウム濃度が非常に薄い場合は[H]が無視できないので補正が必要となり、logC=-pH+14 と logC=log([HA]+[H])の交点が溶液のpHとなります。(*4)
(*4)
図-2でQ-Q'がlogCで1.3以下のとき補正が必要。たとえば、Cs=1×10^-4mol/Lでは補正が必要。
別法として、図-5のように、酢酸の場合はlog([H]-[OH])とlog[A]の交点、酢酸ナトリウムの場合はlog([OH]-[H])とlog[HA]の交点からpHを求めてもよい。
図-5





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