1価の酸塩基の緩衝液についてはすでに述べました(2020/12/13)。今回は多価の酸塩基の緩衝液の緩衝能について考察します。

<<緩衝指数の計算>>
緩衝作用の強さを緩衝能と言い、その尺度は通常、加えた強塩基Cbに対するpHの変化 β=dCb/dpHで表され、これを緩衝指数(または緩衝価)と言います。

<2価酸の緩衝指数>
2価酸(H2A)強塩基(NaOH)を加えた溶液の関係式は次のとおりです。ただし、2価酸の濃度をCa, 強塩基の濃度をCb, 2価酸の酸解離定数をK1, K2, 水のイオン積をKwとします。
平衡定数
K1 = [H][HA]/[H2A]
K2 = [H][A]/[HA]
Kw = [H][OH]
物質収支
Ca = [A][HA][H2A] = [A](1[H]/K2[H]^2/(K2K1))
Cb = [Na]
電荷収支
[H]+[Na] = [OH]
[HA]2[A] 

これらの関係式から、
Cb = [HA]
2[A][H][OH]
= [A]([H]/K2
2)[H][OH]
= Ca/{1+[H]/K2
[H]^2/(K2K1)}([H]/K22)[H][OH]
∴ 
Cb = CaK1([H]2K2)/([H]^2K1[H]K2K1)[H]Kw/[H] 

CbpHで微分すると、
β= dCb/dpH 
= (ln10){CaK1[H]([H]^2+4K2[H]+K2K1)/([H]^2+K1[H]+K2K1)^2+[H]+[OH]}
が得られます。(*1)

(*1) yu/vのとき、dy/dx{(du/dx)vu(dv/dx)}/v^2なので、
dCb/d[H]=CaK1{([H]^2
K1[H]K2K1)([H]2K2)(2[H]K1)}/([H]^2K1[H]K2K1)^21Kw[H]^-2
=
CaK1{[H]^24K2[H]K1K2}/([H]^2K1[H]K2K1)^21Kw[H]^-2
また、ylog xのとき、dy/dx1/(xln10)なので、
dpH/d[H]=-1/([H]ln10)
したがって、
β= dCb/dpH = (dCb/d[H])(d[H]/dpH)
= (ln10){CaK1[H]([H]^2
4K2[H]K2K1)/([H]^2K1[H]K2K1)^2[H]Kw/[H]}
= (ln10){CaK1[H]([H]^2
4K2[H]K2K1)/([H]^2K1[H]K2K1)^2[H][OH]} 

また、A2-, HA- H2Aの存在分率をそれぞれf0 , f1 , f2 とすると、
α = 1[H]/K2[H]2/(K2K1)
f0 = [A]/Ca = 1/α = K2K1/(K2K1K1[H][H]2)
f1 = [HA]/Ca = f0[H]/K2 = K1[H]/(K2K1
K1[H][H]2)
f2 = [H2A]/Ca = f0[H]2/(K2K1) = [H]^2/(K2K1
K1[H][H]2)

したがって、
β = (ln10){Ca(f0f1f1f24f0f2)[H][OH]}
となります。(*2)
(*2) f0f1 = K2K1^2[H]/(K2K1K1[H][H]2)^2
f1f2 = K1[H]^3/(K2K1K1[H][H]2)^2
f0f2 = K2K1[H]^2/(K2K1K1[H][H]2)^2
β = (ln10){CaK1[H]([H]^24K2[H]K2K1)/([H]^2K1[H]K2K1)^2[H][OH]}
= (ln10){Ca(f1f2+4f0f2f0f1)[H][OH]} 

さらに、βを[H2A], [HA], [A]で表すと、
β= (ln10){([A][HA][HA][H2A]4[A][H2A])/Ca[H][OH]}
となります。(*3)
(*3) f0f1 =[A][HA]/Ca^2
f1f2 = [HA][H2A]/Ca^2
f0f2 = [A][H2A]/Ca^2 

たとえば、0.1 mol/Lのフタル酸(pK1=2.95, pK2=5.41)の緩衝指数は-のようになります。 

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2021-02-14-fig1

<3価酸の緩衝指数>
3価酸の緩衝指数(β)についても、2価酸の緩衝指数と同様のやり方で式を導くことができます。3価酸の緩衝指数(β)は、
β= (ln10){CaK1[H]([H]^4+4K2[H]^3+(K1+9K3)K2[H]^2+(4[H]+K2)K3K2K1)/([H]^3K1[H]^2K2K1[H]+K3K2K1)^2[H][OH]}
または、
β = (ln10){Ca
(f0f1f1f2f2f34f0f24f1f39f0f3)[H][OH]}
または、
β = (ln10){
([A][HA][HA][H2A][H2A][H3A]4[A][H2A]4[HA][H3A]9[A][H3A])/Ca[H][OH]}

となります。(*4)
(*4) α= 1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)+[H]^3/(K3K2K1) = ([H]^3K1[H]^2K2K1[H]+K3K2K1)/(K3K2K1
X = [H]^3
K1[H]^2K2K1[H]+K3K2K1 とすると、α= X/(K3K2K1)なので  
f0 = [A]/Ca = 1/
α = K3K2K1/X 
f1 = [HA]/Ca = f0[H]/K3 = K2K1[H]/X 
f2 = [H2A]/Ca = f0[H]^2/(K3K2) = K1[H]^2/X 
f3 = [H3A]/Ca = f0[H]^3/(K3K2K1) = [H]^3/X 
f0f1 = K3K2^2K1^2[H]/X^2 = (K1[H])K3K2^2K1/X^2 = [A][HA]/Ca^2 
f1f2 = K2K1^2[H]^3/X^2 = (K1[H])K2K1[H]^2/X^2 = [HA][H2A]/Ca^2 
f2f3 = K1[H]^5/X^2 = (K1[H])[H]^4/X^2 = [H2A][H3A]/Ca^2 
f0f2 = K3K2K1^2[H]^2/X^2 = (K1[H])K3K2K1[H]/X^2 = [A][H2A]/Ca^2 
f1f3 = K2K1[H]^4/X^2 = (K1[H])K2[H]^3/X^2 = [HA][H3A]/Ca^2 
f0f3 = K3K2K1[H]^3/X^2 = (K1[H])K3K2[H]^2/X^2 = [A][H3A]/Ca^2

たとえば、0.1 mol/Lのリン酸(pK1=2.15, pK2=7.20, pK3=12.38)の緩衝指数は-のようになります。また0.1 mol/Lのクエン酸(pK1=3.13, pK2=4.76, pK3=6.40)の緩衝指数は-3のようになります。リン酸は中性付近で緩衝能が高く、またクエン酸は弱酸性域で緩衝能が高いことが分かります。

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2021-02-14-fig2

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2021-02-14-fig3

<アミノ酸の緩衝指数>
モノアミノモノカルボシキルアミノ酸については、上記の2価酸の緩衝指数の式が成立し、モノアミノジカルボン酸、ジアミノモノカルボン酸については上記の3価酸の緩衝指数の式が成立します。

<混合酸の緩衝指数>
価酸(HA)価酸(H2B)価酸(H3C)の緩衝指数をβa, βb, βcとすると、
βa= (ln10)([A][HA]/Ca+[H]+[OH])
βb= (ln10){
([B][HB]+[HB][H2B]+4[B][H2B])/Cb+H]+[OH]}
βc= (ln10){([C][HC]+[HC][H2C]+[H2C][H3C]+4[C][H2C]+4[HC][H3C]+9[C][H3C])/Cc+[H]+[OH]}
これらの式の赤色部分Za, Zb, Zcとすると、
Za= [A][HA]/Ca
Zb=
([B][HB]+[HB][H2B]+4[B][H2B])/Cb
Zc=
([C][HC]+[HC][H2C]+[H2C][H3C]+4[C][H2C]+4[HC][H3C]+9[C][H3C])/Cc 

Za, Zb, Zcには加成性が成立し、複数の酸を含む混合溶液の緩衝指数βは、
β= (ln10)(
ΣZaΣZbΣZc[H][OH])
となります。 

たとえば、0.1 mol酢酸(pK1=4.75)0.1 molリン酸(pK1=2.15, pK2=7.20, pK3=12.38)および0.1 molホウ酸(pK1=9.24)を含む溶液にNaOHまたはHClを加えてpHを調整した1000 mLの溶液の緩衝指数は-4のようになります。 

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2021-02-14-fig4

<<滴定曲線と緩衝指数>>
ここまではCbpHで微分して緩衝指数βを求めましたが、ΔpHが十分小さいとき、
β = dCb/dpH≒ΔCb/ΔpH = (Cb(pH+ΔpH)Cb(pH-ΔpH))/(2ΔpH)
なので、微分をしなくてもCbpHの関係が分かればβの近似値を求めることが可能です。 

例えば、Ca mol/Lの2価の酸(H2A)の緩衝指数は、
β = dCb/dpH
Cb = [HA]
2[A][H][OH]
で与えられますが、これは
Q = Cb
[H][OH]2[A][HA] = 0
なので、Q=0を解いてCbpHの関係の求め、β≒ΔCb/ΔpHから緩衝指数の近似値を求めることができます。 

Q=0の解き方Ca mol/Lの2価の酸(H2A)NaOHで滴定するときの滴定曲線の求め方と同じです(ただし、NaOHの添加による体積変化はないとき)
したがって、たとえば二分法データテーブルを用いて与えられたCbに対するpHの値を求めるとβが近似的に求められます。もちろん、これは2価の酸(H2A)に限らず、すべての酸塩基に適用可能です。 

たとえば、0.1 mol/L酢酸、0.1 mol/Lリン酸および0.1 mol/Lホウ酸を含む溶液(前出)に[Na]=Cna mol/LとなるようにNaOHを加えた溶液の滴定曲線(*5)および緩衝指数は-のようになります。データテーブルで溶液中のNaOH濃度をCna(0)=0 mol/Lから始めて0.002 mol/Lずつ増加していったときのk番目の濃度をCna(k) mol/Lとして、
βk(Cna(k+1)Cna(k-1))/(pH(k+1)pH(k-1))
緩衝指数を求めました。図-4とほぼ同様の結果がえらます。
(*5) 被滴定溶液の体積変化はなし。滴定曲線は通常のグラフと縦軸-横軸が入れ替わっていることに注意!

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2021-02-14-fig5