今回は気相と溶液でCO2の平衡が成立するとき、CO2分圧の変化によって炭酸、炭酸塩溶液のpHがどのようになるか調べます。
<CO2分圧とpHの関係>
前回(2021/03/07)説明した通り、気相と溶液でCO2の平衡が成立するとき、
[CO2(aq)]
= KHPco2 …①
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H] = K1KHPco2/[H] …②
[CO3] = K2[HCO3]/[H] = K2K1[CO2(aq)]/[H]^2
= K2K1KHPco2/[H]^2 …③
が成立します。(KH:ヘンリー定数、Pco2:CO2分圧(atm)、K1, K2:CO2の酸解離定数)
これを対数で表すと、
log[CO2(aq)] = logKH+logPco2
log[HCO3]
= logK1+logKH+logPco2+pH
log[CO3]
= logK2+logK1+logKH+logPco2+2pH
CO2のヘンリー定数をKH=3.4×10^-2、酸解離定数をpK1=6.35, pK2=10.33
(at 25℃)とすると、
log[CO2(aq)]
= -1.5+logPco2
log[HCO3]
=-7.8+logPco2+pH
log[CO3]
= -18.1+logPco2+2pH
という関係が得られます(活量係数補正は無視して)。
したがって、log[CO2(aq)]はlogPco2のみの関数であり、log[HCO3]とlog[CO3]はlogPco2およびpHの関数となります。
<いくつかの例題>
例題1 純水にCO2ガスを加圧して溶し込んで作ったボトルの炭酸水を開栓した直後のpHはどの程度か? 25℃, Pco2=1気圧とする。
電荷収支から、
[H] = [HCO3]+2[CO3]+[OH] …④
(1) ソルバーを用いる方法
関係式は次の通り。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO2(aq)]
= KHPco2
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3] = K2[HCO3]/[H]
Q = [H]-[HCO3]-2[CO3]-[OH]
ソルバー(目的セル:Q=0, 変数セル:pH)を用いてpHを求める(図-1)。
イオン強度μ=1.2×10^-4なので活量係数の補正は必要ないと考えられる。
(答) pH=3.9
(2) 近似式を用いる方法
①, ②, ③式および[OH]=Kw/[H]を④に代入して、
[H] = K1KHPco2/[H]+2K2K1KHPco2/[H]^2+Kw/[H]
[H]^3-(K1KHPco2+Kw)[H]-2K2K1KHPco2=0
この溶液は明らかに酸性なので[H]>>[OH]と仮定する。
[H]^3-K1KHPco2([H]-2K2)=0
またKa2=4.7×10^-11なので、 [H]>>2Ka2と仮定する。
[H]^2 = K1KHPco2
[H] = √(K1KHPco2)
pH = (pK1+pKH-logPco2)/2 = (6.35+1.47+0)/2 = 3.91
明らかに仮定は成立する。また活量係数の補正は必要ないと考えられる。
(答) pH=3.9
理解の手助けとして、対数濃度図を図-2に示す。Pco2=1 atmのとき、
log[H] = -pH
log[OH] = pH-14.0
log[CO2(aq)] =-1.5
log[HCO3] =pH-7.8
log[CO3] = pH-18.12
④式において[HCO3]>>(2[CO3]+[OH])から、[H]≒[HCO3] なので
log[H] = -pHとlog[HCO3]
=pH-7.8の交点が求めるpHとなる。
ちなみに、Pco2=380μatmのときの対数濃度図は、図-3のようになる。
例題2 NaOH溶液にPco2=0.01 atmのCO2ガスを吹き込んで飽和状態にして、溶液組成がNaHCO3となるような溶液を作りたい。必要なNaOH溶液の濃度は? またそのときのpHは?
求めるNaOH濃度をCbとする。拡張デバイヒュッケル式を用いて活量係数補正を行う(*1)。
(*1) 希薄溶液中では、(mol/kg)≒(mol/L)と考えてよく、またKHは溶液のイオン強度によってほとんど変化しない。
・平衡定数:
K1 = K1º/(γHγHCO3/γCO2aq)
K2 = K2º/(γHγCO3/γHCO3)
Kw = Kwº/(γHγOH)
・活量係数:
logγH= -0.51√µ/(1+2.95√µ)
logγOH= -0.51√µ/(1+1.15√µ)
logγco2aq= 0
logγHCO3= -0.51√µ/(1+1.48√µ)
logγCO3= -0.51×4√µ/(1+1.48√µ)
µ = ([H]+[OH]+4[CO3]+[HCO3]+[Na])/2
・電荷収支:
[H]+[Na] = [HCO3]+2[CO3]+[OH]
・物質収支:溶液の組成をNaHCO3にするための条件
Cb = [Na] = [CO2(aq)]+[HCO3]+[CO3]
・化学種の濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO2(aq)] = KHºPco2
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3] = K2[HCO3]/[H]
目的セル:Q = [H]+[Na]-[HCO3]-2[CO3]-[OH] = 0
変数セル:pH, μo, Cb
制約条件:R1 =μo-μ= 0, R2 = [Na]-([CO2(aq)]+[HCO3]+[CO3]) = 0
として、ソルバーを実施する。結果を図-4に示す。
(答) Cb = 0.029 mol/L, pHº = 8.20
例題3 0.1
mol/L NaOH溶液に分圧Pco2 (1~1000μatm)のCO2ガスを吹き込んで飽和状態にしたときのPco2とpH°の関係は?
拡張デバイヒュッケル式を用いて活量係数補正を行う。
・平衡定数:
K1 = K1º/(γHγHCO3/γCO2aq)
K2 = K2º/(γHγCO3/γHCO3)
Kw = Kwº/(γHγOH)
・活量係数:
logγH= -0.51√µ/(1+2.95√µ)
logγOH= -0.51√µ/(1+1.15√µ)
logγco2aq= 0
logγHCO3= -0.51√µ/(1+1.48√µ)
logγCO3= -0.51×4√µ/(1+1.48√µ)
µ = ([H]+[OH]+4[CO3]+[HCO3]+[Na])/2
・電荷収支:
[H]+[Na] = [HCO3]+2[CO3]+[OH]
・化学種の濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO2(aq)] = KHºPco2
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3] = K2[HCO3]/[H]
目的セル:Q = [H]+[Na]-[HCO3]-2[CO3]-[OH] = 0
変数セル:pH, μo
制約条件:R =μo-μ= 0
として、分圧Pco2 を1~1000μatmまで変化させてソルバーを実施する。結果を図-5に示す。
分圧Pco2を大きくするとpHºが小さくなることが分かる。たとえばPco2=400 μatmのとき、pHº=9.75となる。





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