ある条件下においてリン酸の解離で生じる化学種がどのような割合で存在するか、その存在分布を求めます。
<活量係数を考慮しない場合>
リン酸(H3PO4)の解離によって生じる化学種は、H3PO4, H2PO4-, HPO42-,
PO43- の4種類です。あるpHにおけるこれら4種類の化学種の濃度あるいは存在割合を調べます。
リン酸の酸解離定数をK1, K2, K3とすると、
K1 = [H][H2PO4]/[H3PO4]
K2 = [H][HPO4]/[H2PO4]
K3 = [H][PO4]/[HPO4]
リン酸(H3PO4)の全濃度をCa mol/Lとすると、物質収支から、
Ca = [PO4]+[HPO4]+[H2PO4]+[H3PO4]
= [PO4](1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
α=1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1)とすると、
Ca =[PO4]α
各化学種の存在分率を次のように定義します。
f0 = [PO4]/Ca
f1 = [HPO4]/Ca
f2 = [H2PO4]/Ca
f3 = [H3PO4]/Ca
ここで、記号fn においてnはプロトンの数を表します。
α= 1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1)なので次の関係式が得られます。
f0 = [PO4]/Ca = 1/α
f1 = [HPO4]/Ca = ([H][PO4]/K3)/Ca
= f0[H]/K3
f2 = [H2PO4]/Ca= ([H][HPO4]/K2)/Ca
= f1[H]/K2 = f0[H]^2/(K3K2)
f3 = [H3PO4]/Ca= ([H][H2PO4]/K1)/Ca
= f2[H]/K1 = f0[H]^3/(K3K2K1)
αは[H]のみの関数なのでpHが決まれば、f0, f1, f2,
f3 を求めることができます。
pK1=2.15, pK2=7.20, pK3=12.38として、エクセルを用いてpHに対するfnの値を求めました。計算結果と分布図を図-1に示し、その計算式を図-2に示します(*1), (*2)。
(*1) エクセルを用いてfnを求めるにはいくつかのやり方があるが、ここではf0=1/α, f1=f0[H]/K3,
f2=f1[H]/K2, f3=f2[H]/K1
の関係から、データテーブル機能を用いて計算した。もちろん、「二分法-テータテーブル」を用いてもよい。あるいは「ソルバー」を用いて計算することも可能である。
(*2) n価の酸(HnA)について、fnの一般式を求めると、次の様になる。
α = 1+[H]/Kn+[H]^2/(KnKn-1)+[H]^3/(KnKn-1Kn-2)+…+[H]^n/(KnKn-1Kn-2…K1)
f0 = [A]/Ca = 1/α
f1 = [HA]/Ca = ([H][A]/Kn)/Ca = f0[H]/Kn
f2 = [H2A]/Ca= ([H][HA]/Kn-1)/Ca
= f1[H]/Kn-1 = f0[H]^2/(KnKn-1)
f3 = [H3A]/Ca= ([H][H2A]/Kn-2)/Ca
= f2[H]/Kn-2 = f0[H]^3/(KnKn-1Kn-2)
………
fn = [HnA]/Ca= ([H][Hn-1A]/K1)/Ca
= fn-1[H]/K1 = f0[H]^n/(KnKn-1Kn-2…K1)
<活量係数を考慮する場合>
活量係数を考慮しない場合は、fnはCaの値に影響されませんが、活量係数を考慮すると、化学種分布はCaの値に影響されます。
たとえば、Ca
= 0.05 mol/Lリン酸(H3PO4)にNaOHを加えてpHを調整した溶液について考えます。エクセルを用いてpHºに対するfnの値を求めます。pKº1=2.15, pKº2=7.20,
pKº3=12.38, pKºw=14.00とします。
Kºは熱力学的平衡定数、pHºは活量基準のpHを表します。活量係数による補正には拡張デバイヒュッケル式を用います。化学種iの拡張デバイヒュッケル式は次の通りです(*3)。
logγi= -0.51(zi^2)√µ/(1+(ai/305)√µ)
ここで、γiは活量係数、μはイオン強度、ziは電荷、aiは水和イオン直径(pm)を表します。
(*3) 拡張デバイヒュッケル式はイオン強度が0.1を超えると補正が不正確になるので、ここではイオン強度が0.3までで計算を止めた。
・平衡定数:
K1 = K1º/(γHγH2PO4/γH3PO4)
K2 = K2º/(γHγHPO4/γH2PO4)
K3 = K3º/(γHγPO4/γHPO4)
Kw = Kwº/(γHγOH)
・活量係数:
logγH= -0.51√µ/(1+2.95√µ)
logγOH= -0.51√µ/(1+1.15√µ)
logγH3PO4= 0
logγH2PO4= -0.51√µ/(1+1.48√µ)
logγHPO4= -0.51×4√µ/(1+1.31√µ)
logγPO4= -0.51×9√µ/(1+1.31√µ)
µ = ([H]+[OH]+9[PO4]+4[HPO4]+[H2PO4]+[Na])/2
・物質収支:
Ca = [PO4]+[HPO4]+[H2PO4]+[H3PO4]
・電荷収支:
Q = [H]-[OH]-3[PO4]-2[HPO4]-[H2PO4]+[Na] = 0
・化学種濃度:
[H]º = [H]γH
pH = pHº+logγH
[H] = 10^-pH
[OH] = [H]/Kw
[PO4] = Ca(1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
[HPO4] = [H][PO4]/K3
[H2PO4] = [H][HPO4]/K2
[H3PO4] = [H][H2PO4]/K1
f0 = [A]/Ca
f1 = [HA]/Ca
f2 = [H2A]/Ca
f3 = [H3A]/Ca
これらの関係式から、ソルバーを用いて
・目的セル:Q=0
・変数セル:[Na], μo
・制約条件:μo-μ=0
としてソルバーを実行し、fnを求めると、結果は図-3のようになります。活量係数補正をした場合としない場合の分布図の違いを図-4に示します(*4)。存在分率に与える活量係数補正の影響は大きく、たとえば、pH=7で活量補正をしなかった場合は[H2PO4]:[HPO4]≒6:4ですが、活量補正をした場合は[H2PO4]:[HPO4]≒4:6となります。




コメント