代表的なアミノ酸(α-アミノ酸)について、その化学種の濃度がpHによってどのように変化するか調べます。
水溶液中のアミノ酸は、pHが低いときはアミノ基とカルボキシ基の両方(および側鎖の基)がすべてプロトン化され陽イオンの形をとります。pHが上がるにつれてプロトンが外れて、途中中性の形(双生イオン)を経て、pHが高くなるとプロトンがすべて外れて陰イオンとなります。このような化学種の変化とpHの関係を求めます。
<活量係数を考慮しない場合>
側鎖が酸塩基性を示さないもの
アミノ基とカルボキシ基のすべてがプロトン化した化学種をH2A+とすると、酸塩基平衡の反応式は、
H2A+ ⇄ HA ⇄ A-
例えば、グリシンでいうと、
CH2(NH3+)COOH ⇄ CH2(NH3+)COO- ⇄ CH2(NH2)COO-
となります。
このとき酸塩基平衡の関係式は、
K1 = [H][HA]/[H2A]
K2 = [H][A]/[HA]
Ca = [A]+[HA]+[H2A]
f0 = [A]/Ca
f1 = [HA]/Ca
f2 = [H2A]/Ca
となります。ここで、K1, K2は酸解離定数、Caはアミノ酸の全濃度(mol/L)、fnは化学種の存在分率(nはプロトンの数)を表します。
α= 1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)とすると、
f0 = [A]/Ca = 1/α
f1 = [HA]/Ca = ([H][A]/K2)/Ca = f0[H]/K2
f2 = [H2A]/Ca= ([H][HA]/K1)/Ca
= f1[H]/K1
なので、K1, K2が既知ならば、[H]を与えるとfnが計算できます(Caは無関係)。
例として、アラニン[Ala:CH3-CH(NH2)-COOH] (pK1=2.34, pK2=9.87)について、エクセルを用いてpHに対するfnの値を求めました。計算結果の例および分布図を図-1に示し、計算式を図-2に示します。
側鎖が酸塩基性を示すもの
側鎖が酸性基(-COOH, -SH, -OH)を持つ場合、全プロトン化した化学種はH3A+で表され、側鎖が塩基性基(-NH2,
>NH)を持つ場合は全プロトン化した化学種はH3A2+で表されます。
酸塩基平衡の反応式は
H3A+ ⇄ H2A ⇄ HA-⇄ A2-
H3A2+ ⇄ H2A+ ⇄ HA⇄ A-
となります。
電荷を無視すると、関係式は、
K1 = [H][H2A]/[H3A]
K2 = [H][HA]/[H2A]
K3 = [H][A]/[HA]
Ca = [A]+[HA]+[H2A]+[H3A]
α= 1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1)
f0 = [A]/Ca = 1/α
f1 = [HA]/Ca = f0[H]/K3
f2 = [H2A]/Ca = f1[H]/K2
f3 = [H3A]/Ca = f2[H]/K1
となります。
・アスパラギン酸[Asp:HOOC-CH2-CH(NH2)-COOH] (pK1=1.99, pK2=3.90, pK3=10.00)
・システイン[Cys:HS-CH2-CH(NH2)-COOH] (pK1=1.7, pK2=8.36, pK3=10.74)
・リジン[Lys:H2N-(CH2)4-CH(NH2)-COOH] (pK1=1.77, pK2=9.07, pK3=10.82)
・ヒスチジン[His:(下式)] (pK1=1.6, pK2=5.97, pK3=9.28)

について、エクセルを用いてpHに対するfnの値を求めました。分布図を図-3に示します。(紫:2価の陽イオン、赤:1価の陽イオン、黄:双生イオン(中性)、緑:1価の陰イオン、青:2価の陰イオン)
<活量係数を考慮した場合>
活量係数を考慮すると、化学種の存在分布はアミノ酸の全濃度Caの値に影響されます。
たとえば、Cg=0.1 mol/Lのグリシン[Gly:H-CH(NH2)-COOH]にHClまたはNaOHを加えてpHを調整した溶液(HCl, NaOHの濃度はそれぞれCcl, Cna)について考えます。エクセルを用いてpHºに対するfnの値を求めます。pKº1=2.35, pKº2=9.78,
pKºw=14.00とします。
Kºは熱力学的平衡定数、pHºは活量基準のpHを表します。活量係数による補正には拡張デバイヒュッケル式を用います。化学種iの拡張デバイヒュッケル式は次の通りです。
logγi= -0.51(zi^2)√µ/(1+(ai/305)√µ)
ここで、γiは活量係数、μはイオン強度、ziは電荷、aiは水和イオン直径(pm)を表します。
・平衡定数:
K1 = K1º/(γHγH2PO4/γH3PO4)
K2 = K2º/(γHγHPO4/γH2PO4)
Kw = Kwº/(γHγOH)
・活量係数:
logγH= -0.51√µ/(1+2.95√µ)
logγOH= -0.51√µ/(1+1.15√µ)
logγH2Gly= -0.51√µ/(1+1.48√µ)
logγHGly= 0
logγGly= -0.51×√µ/(1+1.31√µ)
µ = ([H]+[OH]+[Gly]+[H2Gly]+[Cl]+[Na])/2
・物質収支:
Cg = [Gly]+[HGly]+[H2Gly]
・電荷収支:
Q = [H]-[OH]-[Gly]+[H2Gly]-[Cl]+[Na] = 0
・化学種濃度:
[H]º = [H]γH
pH = pHº+logγH
[H] = 10^-pH
[OH] = [H]/Kw
[Gly] = Cg(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
[HGly] = [H][Gly]/K2
[H2Gly] = [H][HGly]/K1
[Cl] = Ccl
[Na] = Cna
・グリシン化学種の存在分率
f0 = [Gly]/Cg
f1 = [HGly]/Cg
f2 = [H2Gly]/Cg
これらの関係式から、ソルバーを用いて
・目的セル:Q=0
・変数セル:[Cl]または[Na], μo
・制約条件:μo-μ=0
としてソルバーを実行し、fnを求めると、計算結果の例を図-4に示します。分布図を図-5に示します(参考として活量係数を考慮しない場合も示しました)。





コメント