これまで、エクセルによる様々な酸塩基滴定曲線の描き方を説明してきました(カテゴリー”滴定曲線”参照)。「二分法」では各化学種の平衡濃度を求めさえすれば滴定曲線の式は必要としないのですが、「レビ法」(pHを与えて滴下量を求める方法)ではpHの関数として滴定剤の滴下量T(mL)の式を求める必要があります。これまで個々のケースについてこれらの数式を求めてきましたが、今回これらの式の一般式化を試みます。
<個々の滴定曲線の式>
これまでレビ法で取り上げた個々の滴定曲線の式を以下に示します。式の記号の詳細については各ブログを見てください。
1価の強酸をNaOHで滴定(2019/03/06)
T = V(Cao-Δ)/(Cbo+Δ)
1価の弱酸(HA)をNaOHで滴定(2019/03/12)
T = V(Caof0-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A-]/Ca
2価の弱酸(H2A)をNaOHで滴定(2020/03/08)
T = V(Cao(2f0+f1)-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A2-]/Ca
f1 = [HA-]/Ca
3価の弱酸(H3A)をNaOHで滴定(2020/03/08)
T = V(Cao(3f0+2f1+f2)-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A3-]/Ca
f1 = [HA2-]/Ca
f2 = [H2A-]/Ca
1価の弱塩基(B)をHClで滴定(2020/03/15)
T = V(Cbof1+Δ)/(Cao-Δ)
f1 = [HB+]/Cb
2価の弱塩基(B)をHClで滴定(2020/03/15)
T = V(Cbo(f1+2f2)+Δ)/(Cao-Δ)
f1 = [HB+]/Cb
f2 = [H2B2+]/Cb
2価の弱酸の2ナトリウム塩(Na2A)をHClで滴定(2020/03/15)
T = V(Cbo(2-2f0-f1)+Δ)/(Cao-Δ)
f0 = [A2-]/Cb
f1 = [HA-]/Cb
モノアミノ-モノカルボン酸・塩酸塩をNaOHで滴定(2020/03/22)
T = V(Cao(f0-f2+1)-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A-]/Ca
f2 = [H2A+]/Ca
モノアミノ-ジカルボン酸・塩酸塩をNaOHで滴定(2020/03/22)
T = V(Cao(2f0+f1-f3+1)-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A2-]/Ca
f1 = [HA-]/Ca
f3 = [H3A+]/Ca
ジアミノ-モノカルボン酸・2塩酸塩をNaOHで滴定(2020/03/22)
T = V(Cao(f0-f2-2f3+2)-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A-]/Ca
f2 = [H2A+]/Ca
f3 = [H3A2+]/Ca
<滴定曲線式の統合>
滴定曲線式の求め方は酸と塩基を混合したときのpHを求める問題に帰結します。したがって平衡定数式、物質収支式、電荷収支式から滴定曲線の一般式を作ることができます。
酸塩基滴定曲線の一般式
試料中の物質sを滴定剤中の物質tで酸塩基滴定するときの滴定曲線は物質収支および電荷収支から次式のような一般式で表すことができます。
CsoVsFs/(Vs+Vt)+CtoVtFt/(Vs+Vt)+Δ=0
CsoVsFs+CtoVtFt+(Vs+Vt)Δ=0
Vt = -Vs(CsoFs+Δ)/(CtoFt+Δ)
これが、酸塩基滴定において与えられた条件から滴下量Vtを求める一般式です。
ここで、
Δ=[H+]-[OH-]
Fs = qs0fs0+qs1fs1+qs2fs2+…+qsifsi+…
Ft = qt0ft0+qt1ft1+qt2ft2+…+qtjftj+… (*1)
Cso:試料中の物質sの初濃度(mol/L)
Cto:滴定剤中の物質tの初濃度(mol/L)
Vs:試料の体積(mL)
Vt:滴下した滴定剤の体積(mL)
fsi:物質sから生じる化学種iの存在分率(強酸、強塩基の場合は1)(*2)
ftj:物質tから生じる化学種jの存在分率(強酸、強塩基の場合は1)
qsi:化学種iの電荷(陽イオンは正の整数、陰イオンは負の整数)
qtj:化学種jの電荷(陽イオンは正の整数、陰イオンは負の整数)
(*1) 実際の滴定で、滴定剤として弱酸または弱塩基を用いることはあまり行われない。
(*2) たとえばCso mol/LのNa2CO3の場合、[Na]= 2Cso mol/Lなので係数2が必要。
fsi, ftiの計算式
fsiの具体的な求め方は次のとおり(ftjも同様)。
たとえば、物質sが弱酸(HnA)の場合、その酸解離定数をKs1, Ks2, …, Ksn-1,
Ksnとして、
fs0 = [A]/Cs =1/(1+[H]/Ksn+[H]^2/(KsnKsn-1)+…+H]^n/(KsnKsn-1…Ks2Ks1))
fs1 = [HA]/Cs = ([H][A]/Ksn)/Cs =
[H]fs0/Ksn
fs2 = [H2A]/Cs = ([H][HA]/Ksn-1)/Cs
= [H]fs1/Ksn-1
…
fsn = [HnA]/Cs = [H]fsn-1/Ks1
物質sが弱塩基(B)の場合、その共役酸(HmB)の酸解離定数をKs1, Ks2, …, Ksm-1,
Ksmとし、副反応係数をαs0とすると、
αs0 = 1+[H]/Ksm+[H]^2/(KsmKsm-1)+…+H]^n/(KsmKsm-1…Ks2Ks1)
fs0 = [B]/Cs =1/αs0
fs1 = [HB]/Cs = [H]fs0/Ksm
fs2 = [H2B]/Cs = [H]fs1/Ksm-1
…
fsm = [HmB]/Cs = [H]fsm-1/Ks1
ここで、Cs = CsoVs/(Vs+Vt)
具体的な計算式の例
◎ H3PO4をNaOHで滴定する場合、
fs0 = [PO43-]/Cs = 1/(1+[H]/Ks3+[H]^2/(Ks3Ks2)+[H]^3/(Ks3Ks2Ks1)) , qs0 = -3
fs1 = [HPO42-]/Cs = [H]fs0/Ks3
, qs1 = -2
fs2 = [H2PO4-]/Cs = [H]fs1/Ks2,
qs2 = -1
fs3 = [H3PO4]/Cs = [H]fs2/Ks1
, qs3 = 0
Fs = qs0fs0+qs1fs1+qs2fs2+qs3fs3 =-3fs0-2fs1-fs2
ft = [Na+]/Ct
= 1, qt = +1
Ft = qtft
= 1
Vt = -Vs(Cso(-3fs0-2fs1-fs2)+Δ)/(Cto+Δ)
◎ Na2CO3をHClで滴定する場合は、
fs0 = [CO32-]/Cs = 1/(1+[H]/Ks2+[H]^2/(Ks2Ks1))
, qs0 = -2
fs1 = [HCO3-]/Cs = [H]fs0/Ks2
, qs1 = -1
fs2 = [H2CO3]/Cs = [H]fs1/Ks1
, qs2 = 0
fsn = [Na+]/Cs
= 2, qsn = +1 (1 molのNa2CO3から2 molのNa+が生じるので)
Fs =qs0fs0+qs1fs2+qs2fs2+qsnfsn =-2fs0-fs1+2
ft = [Cl-]/Ct = 1, qtl = -1
Ft = qtft
= -1
Vt = -Vs(Cso(-2fs0-fs1+2)+Δ)/(-Cto+Δ)
例題1 Cso=0.1 mol/Lグリシン塩酸塩(H3NCH2COOH)
20 mLをCto=0.1 mol/L NaOHで滴定するときの滴定曲線は? グリシンの酸解離定数をpK1=2.35, pK2=9.78とする。
関係式は次のとおり、
fs0 = [G-]/Cs = 1/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)), qs0 = -1
fs1 = [HG]/Cs = [H]fs0/K2, qs1 = 0
fs2 = [H2G+]/Cs = [H]fs1/K1,
qs2 = +1
fsc = [Cl-]/Cs = 1, qsc = -1
Fs = qs0fs0+qs1fs1+qs2fs2+qscfsc = -fs0+fs2-1
ft = [Na+]/Ct
= 1, qt = +1
Ft = qtft
= 1
Vt = -Vs(Cso(-fs0+fs2-1)+Δ)/(Cto+Δ)
pHを与えてVtを求めるためE列を計算列として計算をおこなう。ここではpH=1とした。E列の右に計算式を示した(*3)。
(*3) 当量点のpHを求めるときは、計算列(E列)において目的セルをE13(Vt)に設定し、目標値(指定値)に当量点の体積を入れて、変数セルをE14(pH)にしてソルバーを実施する。
pHを変化させたときの一連のVtの値はデータテーブルで作成する。データテーブルの作成方法は次のとおり。
① G4:G32に一連のpHの値(1~13)を入れる(たとえば、1.0, 1.5, 2.0, …, 13.0)。
② 計算列(E列)で求めたpH=1のときのVtの値をH4にコピー(式のコピー)する。
③ データテーブルの範囲を指定する(G4:H32)。
④ データテーブルを作成する。
・メニューバー:「データ」
・ツールバー:「予測のWhat-If分析」⇒「データテーブル」⇒データテーブルのダイアログが出る⇒「列の代入セル」に”E14”を指定する⇒「OK」
計算結果を図-1に示す。
滴定曲線を図-2に示す。滴定曲線の作成方法は次のとおり。
① G4:G32をI4:I32にコピーする。
② 範囲を指定する(H3:I32)。
③ 散布図を作る。
・メニューバー:「挿入」
・ツールバー:「グラフの散布図」⇒あとは適当にグラフをカスタマイズする。
例題2 Cso=0.1 mol/Lグリシンナトリウム(H2NCH2COONa)
20 mLをCto=0.1 mol/L塩酸で滴定するときの滴定曲線は? グリシンの酸解離定数をpK1=2.35, pK2=9.78とする。
関係式は、
s0 = [G-]/Cs = 1/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)), qs0 = -1
fs1 = [HG]/Cs = [H]fs0/K2, qs1 = 0
fs2 = [H2G+]/Cs = [H]fs1/K1,
qs2 = +1
fsn = [Na+]/Cs = 1, qsn = +1
Fs = -fs0+fs2+1
ft = [Cl-]/Cs
= 1, qt = -1
Ft = qtft
= -1
Vt = -Vs(Cso(-fs0+fs2+1)+Δ)/(-Cto+Δ)
pH(12~1)を与えてVtを求めた計算結果および滴定曲線を図-3に示す。
<混合物質sa,
sb, …を滴定剤ta, tb, …で酸塩基滴定>
試料中の物質s1, s2,
…を滴定剤中の物質t1, t2, …で酸塩基滴定するとき、CsxoFsxおよびCtxoFtxには加成性が成立し、滴定曲線は次式のような一般式で表すことができます(*4)。
Vt = -Vs(CsaoFsa+CsboFsb+…+Δ)/(CtaoFta+Ctb0Ftb+…+Δ)
(*4) 実際の滴定では、滴定剤として酸または塩基の混合液を用いることはほとんどないが、緩衝液の調製などでVtとpHの関係を知りたいときこの式は有用となる。
これまでレビ法で取り上げた混合物の滴定曲線の式を以下に示します。
混合酸(リン酸+塩酸)をNaOHで滴定(2020/04/05)
T = V(Cao(3f0+2f1+f2)+Cco-Δ)/(Cbo+Δ)
f0 = [A3-]/Ca
f1 = [HA2-]/Ca
f2 = [H2A-]/Ca
混合物質の滴定曲線の例については次回報告します。



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