前回(2021/05/02)に続いて、今回は多価の酸・塩基の滴定における滴定誤差について考察します。
<2価弱酸の滴定における滴定誤差>
Cao
mol/Lの2価の弱酸(H2A, 酸解離定数: K1, K2)をCbo
mol/LのNaOHで滴定する場合、滴定曲線の式は次式で与えられます(2021/04/18)。
Vb
= Va(Cao(2f0+f1)-Δ)/(Cbo+Δ)
ここで、Δ=[H]-[OH]
f0
= [A]/Ca = 1/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
f1
= [HA]/Ca = f0[H]/K2
一方、滴定誤差(E)は、次式で与えられます。
E = (Vend-Veq)/Veq
= Vend/Veq-1
第1当量点ではCaoVa=CboVeqなので、第1終点の滴定誤差(E1)は、
E1 = (Cbo/Cao)(Cao(2f0+f1)-Δend1)/(Cbo+Δend1)-1 …①
同様に、第2当量点では2CaoVa=CboVeqなので、第2終点の滴定誤差(E2)は、
E2 = (Cbo/(2Cao))(Cao(2f0+f1)-Δend2)/(Cbo+Δend2)-1 …②
となります(*1)。
(*1)
第1当量点では、VaCao = Veq1Cbo
第1終点では、 Vend1 = Va(Cao(2f0+f1)-Δend1)/(Cbo+Δend1)
したがって、第1終点の滴定誤差(E1)は、
E1 = (Vend1-Veq1/Veq1 = Vend1/Veq1-1
= {Va(Cao(2f0+f1)-Δend1)/(Cbo+Δend1)}/(VaCao/Cbo)-1
= (Cbo/Cao)(Cao(2f0+f1)-Δend1)/(Cbo+Δend1)-1
第2当量点では、2VaCao = Veq2Cbo
第2終点では、 Vend2 = Va(Cao(2f0+f1)-Δend2)/(Cbo+Δend2)
したがって、第2終点の滴定誤差(E2)は、
E2 = (Vend2-Veq2)/Veq2 = Vend2/Veq2-1
= {Va(Cao(2f0+f1)-Δend2)/(Cbo+Δend2)}/{2VaCao/Cbo}-1
= (Cbo/(2Cao))(Cao(2f0+f1)-Δend2)/(Cbo+Δend2)-1
例題1 0.1 mol/Lマレイン酸(pK1=1.92, pK2=6.27)を0.1
mol/L NaOHで滴定するときのpHと滴定誤差の関係は?
①式および②式について、計算列(図1エクセル表のC列)においてpH=2におけるE1%, E2%を求め、次いでデータテーブル機能を用いてpHを2~12と変化させたときのE1%, E2%を求めた。計算結果およびpHとE%の関係を図-1に示す。マレイン酸は、第1終点、第2終点ともに検出できるが、滴定誤差は第2終点の方が小さい。
<炭酸ナトリウムの滴定における滴定誤差>
Cbo
mol/Lの炭酸ナトリウム(Na2CO3,酸解離定数: K1,
K2)をCao mol/Lの塩酸で滴定する場合の滴定曲線式は次式で与えられます(2021/04/18)。
Va = Vb(Cbo(2-2f0-f1)+Δ)/(Cao-Δ)
ここで、Δ=[H]-[OH]
f0 = [CO3]/Cb = 1/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
f1 = [HCO3]/Cb = f0[H]/K2
一方、滴定誤差(E)は、次式で与えられます。
E = (Vend-Veq)/Veq
= Vend/Veq-1
第1当量点ではCaoVeq=CboVbなので、第1終点の滴定誤差(E1)は、
E1 = (Cao/Cbo)(Cbo(2-2f0-f1)+Δend1)/(Cao-Δend1)-1 …③
同様に、第2当量点ではCaoVeq=2CboVbなので、第2終点の滴定誤差(E2)は、
E2 = (Cao/(2Cbo)(Cbo(2-2f0-f1)+Δend2)/(Cao-Δend2)-1 …④
例題2 0.1 mol/L炭酸ナトリウム(pK1=6.35, pK2=10.33)を0.1
mol/L NaOHで滴定するときのpHと滴定誤差の関係は? 第1終点としてフェノールフタレイン(pHend=8.5とする)を用いたときの滴定誤差は? また第2終点としてメチルオレンジ(pHend=4.1とする)を用いたときの滴定誤差は?
③式および④式について、計算列(図3エクセル表のC列)においてpH=2におけるE%を求め、次いでデータテーブル機能を用いてpHを2~12と変化させたときのE%を求めた。計算結果およびpHとE%の関係を図-2に示す。
(答) 第1終点: E1%= -0.76% , 第2終点: E2%= -0.16%
<リン酸の滴定における滴定誤差>
これまでの考察からも類推できるように、リン酸の第1終点および第2終点における滴定誤差は次式のようになります。
第1終点の滴定誤差(E1)は、
E1 = (Cbo/Cao)(Cao(3f0+2f1+f2)-Δend)/(Cbo+Δend)-1 …⑤
第2終点の滴定誤差(E2)は、
E2 = (Cbo/(2Cao))(Cao(3f0+2f1+f2)-Δend)/(Cbo+Δend)-1 …⑥
例題3 0.1 mol/L NaOHによる0.1 mol/L リン酸(pK1=2.15, pK2=7.20,
pK3=12.38)の滴定において、第1終点および第2終点がそれらの当量点から±0.3 pH以内であるときの滴定誤差(E%)は?
計算方法の基本的方針は次の通り。
(1) 第1, 第2当量点におけるpHを求める(pHeq1, pHeq2)
(2) 第1, 第2終点におけるpHを求める(pHend1, pHend2)
pHend1 = pHeq1±0.3, pHend2 = pHeq2±0.3
(3) ⑤式および⑥式を用いて、pHend1, pHend2におけるE1%, E2%を求める。
エクセルでの計算方法はいろいろあるが、その一例を図-3に示す。
(1) 計算列(C列)に必要なデータ(pK1, pK2, pK3, Cao, Cbo)を入れて、E1%, E2%を求める(pHは任意でよい、ここでは4)。
(2) データテーブルをつくる。
[C20](E1%)を[G4]にコピーする⇒範囲[G4:H15]を指定する⇒「データ」⇒「What-If分析」⇒「データテーブル」⇒「ダイアログボックス」(行の代入セル:[$C$9](Cao)、列の代入セル:[$C$11](pH) ⇒OK)⇒H4=0.1,
G5~G15=4(とりあえず)
(3) ソルバーでpHeq1を求める。
・「データ」⇒「ソルバー」⇒「ダイアログボックス」(目的セル:[$H$10](E1%)、指定値:0、変数セル:[$G$10](pHeq1 ) )
⇒OK
(4) pHend1を求める。
G5 = $G$10+F5 ~ G15= $G$10+F15
(5) [H7]、[H13]が求める値
(6) E2%についても(2)~(5)と同様の操作を行う。
(答) E1% = -0.47%~+0.47%, E2% = -0.25%~+0.25%
ここで検討している「滴定誤差」は検出方法等に伴う系統的誤差に限定したものです。実際の滴定では、測容器の誤差、試料中の不純物(たとえば大気からのCO2など)、滴定操作に伴う測定値のばらつきなど様々な誤差が含まれるので、総合的な見地からの誤差の検討が必要です。



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