Cu2+イオンにアンモニアを少量加えると青白色の沈殿を生じ、さらに多量加えると沈殿が消えて深青色の錯イオン溶液となります。以前、硝酸銅溶液にNH3を徐々に加えていったときの沈殿生成と化学種濃度分布の様子について調べましたが、このときは水酸化銅(Cu(OH)2)の沈殿が生成するものとして計算しました(2019/05/05)(*1)。
(*1)実際には、少量のアンモニアを加えるとできる沈殿は塩基性塩である。
ここで改めて、水酸化銅、塩基性塩の沈殿生成と銅-アンミン錯体生成の平衡関係について調べたいと思います。今回は全アンモニア濃度を一定にしてpHを変化させたときの水酸化銅の溶解度についてです。
<銅(II)-アンモニア系の錯生成平衡>
水酸化銅、塩基性塩の沈殿生成を考える前に、銅(II)-アンモニア系の最も単純なモデルとして、銅の全濃度がCcu mol/L, アンモニアの平衡濃度が[NH3]
mol/Lのときの銅に関する化学種の濃度について考えます。このとき銅のヒドロキソ錯体および沈殿は生成しないものと仮定します。
(反応式)
Cu2+ + NH3 ⇄ CuNH32+
Cu2+ + 2NH3 ⇄ Cu(NH3)22+
Cu2+ + 3NH3 ⇄ Cu(NH3)32+
Cu2+ + 4NH3 ⇄ Cu(NH3)42+
(平衡定数式)
βn1= [CuNH3]/([Cu][NH3])
βn2= [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2)
βn3= [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3)
βn4= [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4)
(物質収支式)
Ccu = [Cu]+[CuNH3]+[Cu(NH3)2]+[Cu(NH3)3]+[Cu(NH3)4]
この条件のもと、物質収支式および平衡定数から、各化学種の濃度を求めます。
物質収支式および平衡定数式から、
Ccu = [Cu]+βn1[Cu][NH3]+βn2[Cu][NH3]^2+βn3[Cu][NH3]^3+βn4[Cu][NH3]^4
= [Cu](1+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2+βn3[NH3]^3+βn4[NH3]^4) =[Cu]α
(ここで、α= 1+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2+βn3[NH3]^3+βn4[NH3]^4)
したがって、各化学種濃度は、
[Cu] = Ccu/α
[CuNH3] = βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2] = βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3] = βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4] = βn4[Cu][NH3]^4
となり、Ccuおよび[NH3]の値を与えれば、各化学種の濃度(C)を求めることができます。
エクセルを用いて作成した、Ccu = 0.01 mol/Lにおけるlog[NH3]-C分布図、log[NH3]-log C分布図を図-1、図-2に示します。NH3の平衡濃度[NH3}が増加すると、途中中間錯体(CuNH32+, Cu(NH3)22+
, Cu(NH3)32+)が優勢となりますが、やがて最終的にCu(NH3)42+が優勢な錯体となることがわかります。
<アンモニア溶液に対する水酸化銅の溶解度>
全濃度Cn mol/Lのアンモニアを含みpHを様々に変化させた溶液に対する水酸化銅(Cu(OH)2)の溶解度(S)をエクセルで計算します。pHの調整は強酸(HX)または強塩基(NaOH)の添加によって行い、添加による溶液の体積の変化はないものとします。
銅(II)-アンモニア系の平衡は、次ぎのようになります。
(反応式)
Cu2+ + NH3 ⇄ CuNH32+
Cu2+ + 2NH3 ⇄ Cu(NH3)22+
Cu2+ + 3NH3 ⇄ Cu(NH3)32+
Cu2+ + 4NH3 ⇄ Cu(NH3)42+
Cu2+ + OH- ⇄ CuOH+
Cu2+ + 2OH- ⇄ Cu(OH)2(aq)
Cu2+ + 3OH- ⇄ Cu(OH)3-
Cu2+ + 4OH- ⇄ Cu(OH)42-
NH4+ ⇄ NH3 + H+
H2O ⇄ H+ + OH-
Cu(OH)2(s) ⇄ Cu2+ + 2OH-
(平衡定数式)
βn1= [CuNH3]/([Cu][NH3])
βn2= [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2)
βn3= [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3)
βn4= [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4)
βo1= [CuOH]/([Cu][OH])
βo2= [Cu(OH)2]/([Cu][OH]^2)
βo3= [Cu(OH)3]/([Cu][OH]^3)
βo4= [Cu(OH)4]/([Cu][OH]^4)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Ksp = [Cu][OH]^2
平衡定数値は図-3中に示します。
(物質収支式)
Ca = [X]
Cn = [NH3]+[NH4]+Σj*[Cu(NH3)j]
溶液中の全銅濃度を[Cu’]とすると、
[Cu’] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]
沈殿平衡成立時は[Cu’]が溶解度(S) (mol/L)ということになります。
(電荷収支式)
Q = [H]-[OH]+2([Cu]+Σ[Cu(NH3)j])+[CuOH]-[Cu(OH)3]-2[Cu(OH)4]+[NH4]-[X]= 0
溶解平衡が成立している場合、Ksp = [Cu][OH]^2が成立するのでこの式から[Cu]を求めることが可能です。したがって、溶解平衡が成立している場合の各化学種の濃度は、次のようになります。
[Cu] =Ksp/[OH]^2
[CuNH3] = βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2] = βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3] = βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4] = βn4[Cu][NH3]^4
[CuOH] = βoi[Cu][OH]
[Cu(OH)2] = βoi[Cu][OH]^2
[Cu(OH)3] = βoi[Cu][OH]^3
[Cu(OH)4] = βoi[Cu][OH]^4
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[X] = Ca
[NH3’]
=Σ(j*[Cu(NH3)j])+[NH3]+[NH4]
[Cu’] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]++Σ[Cu(NH3)j]
= S
エクセルのソルバーを用いてSを求めます。
目的セル:Q (目標値:"0")
変数セル:Ca, pNH3 (Caは強酸(HX)濃度。Caの値が負の場合はNaOH濃度を表す。)
制約条件:R = Cn-[NH3’]
Cn = 0, 0.01, 0.1, 1 mol/Lの場合についてpHを4~15まで変化させて求めたCu(OH)2の溶解度Sについて計算結果(抜粋)を図-3、pH-log S図を図-4に示します。
また、Cn = 1 mol/Lのときの化学種の濃度分布(pH-log C)を図-5に示します。





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