以前(2019/05/05)、硝酸銅溶液にNH3を徐々に加えていったときの沈殿生成と化学種濃度分布の様子について調べましたが、このときは水酸化銅(Cu(OH)2)の沈殿が生成するものとして計算しました(2021/06/20)。今回は「塩基性硝酸銅(Cu(NO3)2・3Cu(OH)2)が沈殿する」(2021/06/27)として同様の計算をします。
具体的には、濃度Ccu
= 0.01 mol/Lの硝酸銅溶液に、濃度がCn mol/Lとなるようにアンモニアを添加し、塩基性硝酸銅(Cu(NO3)2・3Cu(OH)2)が沈殿するときの溶液中の各化学種濃度および全銅濃度[Cu’](または溶解度S)を求めます。アンモニアの添加による体積の変化は無視します。また活量係数は考慮しません。
<関係式>
(反応式)
Cu2+ + NO3- ⇄ CuNO3+
Cu2+ + NH3 ⇄ CuNH32+
Cu2+ + 2NH3 ⇄ Cu(NH3)22+
Cu2+ + 3NH3 ⇄ Cu(NH3)32+
Cu2+ + 4NH3 ⇄ Cu(NH3)42+
Cu2+ + OH- ⇄ CuOH+
Cu2+ + 2OH- ⇄ Cu(OH)2(aq)
Cu2+ + 3OH- ⇄ Cu(OH)3-
Cu2+ + 4OH- ⇄ Cu(OH)42-
NH4+ ⇄ NH3 + H+
H2O ⇄ H+ + OH-
Cu(NO3)2・3Cu(OH)2(s) ⇄
4Cu2+ +
2NO3- + 6OH-
(平衡定数式)
βs= [CuNO3]/([Cu][NO3])
βn1= [CuNH3]/([Cu][NH3])
βn2= [Cu(NH3)2]/([Cu][NH3]^2)
βn3= [Cu(NH3)3]/([Cu][NH3]^3)
βn4= [Cu(NH3)4]/([Cu][NH3]^4)
βo1= [CuOH]/([Cu][OH])
βo2= [Cu(OH)2]/([Cu][OH]^2)
βo3= [Cu(OH)3]/([Cu][OH]^3)
βo4= [Cu(OH)4]/([Cu][OH]^4)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Ksp = [Cu][OH]^1.5[NO3]^0.5
平衡定数値は図-1中に示します。
(物質収支式)
アンモニアについては、溶液中の全アンモニア濃度を[NH3’]とすると、
Cn = [NH3’] = [NH3]+[NH4]+Σj*[Cu(NH3)j]
銅については、溶液中の全銅濃度を[Cu’]とすると、
[Cu’] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]+[CuNO3]
沈殿平衡成立時は[Cu’]が溶解度(S) (mol/L)ということになります。
硝酸については、溶液中の全硝酸濃度を[NO3’]とすると、
[NO3’] = [CuNO3]+[NO3]
となります。
(電荷収支式)
Q = [H]-[OH]+2([Cu]+Σ[Cu(NH3)j])+Σ((2-i)*[Cu(OH)i])+[NH4]+[CuNO3]-[NO3]= 0
<化学種濃度>
溶液中のCu2+イオン濃度([Cu])に関して、
● 沈殿が生成しない場合は、
[Cu]= Ccu/α ここで、α=1+Σβoi[OH]^i+Σβnj[NH3]^j+βs[NO3]
● 沈殿が生成する(溶解平衡が成立する)場合は、Ksp = [Cu][OH]^1.5[NO3]^0.5が成立するので、
[Cu] = Ksp/([OH]^1.5[NO3]^0.5)
したがって、各化学種の濃度は、次のようになります。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Cu] = Ccu/α (沈殿が生成しない場合) または、
[Cu] = Ksp/([OH]^1.5[NO3]^0.5)
(沈殿が生成する場合)
[CuNO3] = βs[Cu][NO3]
[CuNH3] = βn1[Cu][NH3]
[Cu(NH3)2] = βn2[Cu][NH3]^2
[Cu(NH3)3] = βn3[Cu][NH3]^3
[Cu(NH3)4] = βn4[Cu][NH3]^4
[CuOH] = βo1[Cu][OH]
[Cu(OH)2] = βo2[Cu][OH]^2
[Cu(OH)3] = βo3[Cu][OH]^3
[Cu(OH)4] = βo4[Cu][OH]^4
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[NO3] = 10^-pNO3
[NH3’] =Σ(j*[Cu(NH3)j])+[NH3]+[NH4]
[Cu’] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]+[CuNO3]
[NO3’] = [CuNO3]+[NO3]
<Ccu, [Cu']および[NO3’]の関係>
Ccu, [Cu']および[NO3’]の間には次の関係が成立します。
● 沈殿が生成しない場合:
硝酸銅はすべて溶液中に溶解しているので、
[NO3’] = 2[Cu'] = 2Ccu
● 沈殿(Cu(NO3)2・3Cu(OH)2)が生成する場合:
沈殿中の銅が溶液中にあると仮定したときの濃度を[Cu]pptとすると、溶液中の銅については、
[Cu’] = Ccu-[Cu]ppm
沈殿(Cu(NO3)2・3Cu(OH)2)はCu:NO3 = 4:2なので、溶液中の硝酸については、
[NO3’] = 2Ccu-[Cu]ppm/2
したがって、この2式から[Cu]ppmを消去すると、
[NO3’] = (3Ccu+[Cu’])/2
<エクセルによる計算>
これらの関係式からエクセルのソルバーを用いて各化学種濃度(C)および溶解度(S)を求めます。
● 沈殿が生成しない場合:
・目的セル:Q (目標値:"0")
・変数セル:pH, pNH3, pNO3
・制約条件:R1 = Cn-[NH3’] = 0, R2 = 2[Cu’]-[NO3’] = 0
● 沈殿(Cu(NO3)2・3Cu(OH)2)が生成する場合:
・目的セル:Q (目標値:"0")
・変数セル:pH, pNH3, pNO3
・制約条件:R1 = Cn-[NH3’] = 0, R3 = (1.5Ccu+[Cu’]/2)-[NO3’] = 0
硝酸銅 Ccu = 0.01 mol/L、アンモニア Cn = 10^-5~1 mol/Lの場合について、計算結果(抜粋)を図-1に示します。
log Cn-log S、pH-log SおよびCn-pHの関係をそれぞれ図-2、図-3、図-4に示します。図中には比較のためCu(OH)2が沈殿するとした場合についても示します(緑色の点線)。
また、log Cn-log C
(C:各化学種濃度)を図-5に示します。





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