硫酸銅溶液にアンモニア水を少量添加すると青白色の沈殿が生成し、過剰に添加すると銅アンミン錯体を生成して沈殿が溶けて深青色の溶液になることはよく知られています。この沈殿は塩基性硫酸銅(CuSO4・3Cu(OH)2)であるとして溶解度と各化学種濃度を計算で求めます。さらにこの銅アンミン錯塩溶液にNaOHを加えると水酸化銅(Cu(OH)2)が生成します。このときの様子も計算します。 (2021/06/27)
<<硫酸銅溶液へのアンモニア水の添加>>
具体的には、濃度Ccu = 0.01 mol/Lの硫酸銅溶液に、濃度がCn= 10^-4~3 mol/Lとなるようにアンモニアを添加したときの溶液中の各化学種濃度および全銅濃度[Cu’](または溶解度S)を求めます。アンモニアの添加による体積の変化は無視します。また活量係数は考慮しません。
<関係式>
(反応式)
Cu2+ + SO42- ⇄ CuSO4 (aq)
Cu2+ + jNH3 ⇄ Cu(NH3)j2+
Cu2+ + iOH- ⇄ Cu(OH)i+(2-i)
NH4+ ⇄ NH3 + H+
HSO4- ⇄ H+ + SO42-
H2O ⇄ H+ + OH-
CuSO4・3Cu(OH)2(s) ⇄ 4Cu2+ + SO42-+ 6OH-
(平衡定数式)
βr= [CuSO4]/([Cu][SO4])
βnj= [Cu(NH3)j]/([Cu][NH3]^j)
βoi= [Cu(OH)i]/([Cu][OH]^i)
Kn = [NH3][H]/[NH4]
K2 = [H][SO4]/[HSO4]
Kw = [H][OH]
Ksp2 = [Cu][OH]^1.5[SO4]^0.25
平衡定数値は図-1中に示します。
(物質収支式)
アンモニアについては、
Cn = [NH3’] = [NH3]+[NH4]+Σ(j[Cu(NH3)j])
銅については、溶液中の全銅濃度を[Cu’]とすると、
[Cu’] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]+[CuSO4]
沈殿平衡成立時は[Cu’]が溶解度(S) (mol/L)ということになります。
硫酸については、溶液中の全硫酸濃度を[SO4’]とすると、
[SO4’] = [CuSO4]+[SO4]+[HSO4]
となります。
(電荷収支式)
Q = [H]-[OH]+2([Cu]+Σ[Cu(NH3)j])+Σ((2-i)[Cu(OH)i])+[NH4]-2[SO4]-[HSO4]= 0
<化学種濃度>
● 沈殿が生成しない場合は、
[Cu]= Ccu/α ここで、α=1+Σβoi[OH]^i+Σβnj[NH3]^j+βr[SO4]
● 沈殿が生成する(溶解平衡が成立する)場合は、Ksp2 = [Cu][OH]^1.5[SO4]^0.25が成立するので
[Cu] = Ksp2/([OH]^1.5[SO4]^0.25)
したがって、各化学種の濃度は、次のようになります。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Cu] = Ccu/α (沈殿が生成しない場合) または、
[Cu] = Ksp2/([OH]^1.5[SO4]^0.25)(沈殿が生成する場合)
[CuSO4] = βr[Cu][SO4]
[Cu(NH3)j] = βnj[Cu][NH3]^j
[Cu(OH)i] = βoi[Cu][OH]^i
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
[SO4] = 10^-pSO4
[HSO4] = [H][SO4]/K2
[NH3’]=Σ(j*[Cu(NH3)j])+[NH3]+[NH4]
[Cu’] = [Cu]+Σ[Cu(OH)i]+Σ[Cu(NH3)j]+[CuSO4]
[SO4’] = [CuSO4]+[SO4]+[HSO4]
<Ccu, [Cu']および[SO4’]の関係>
Ccu, [Cu']および[SO4’]の間には次の関係が成立します。
● 沈殿が生成しない場合:
硫酸銅はすべて溶液中に溶解しているので、
[SO4’] = [Cu'] = Ccu
● 沈殿(CuSO4・3Cu(OH)2)が生成する場合:
硫酸銅の一部は沈殿として溶液中から除外されるので、沈殿中の銅が溶液中にあると仮定したときの濃度を[Cu]pptとすると、溶液中の銅については、
[Cu’] = Ccu-[Cu]ppm
沈殿(CuSO4・3Cu(OH)2)はCu:SO4 = 4:1なので、溶液中の全硫酸については、
[SO4’] = Ccu-[Cu]ppm/4
したがって、この2式から [Cu]ppmを消去すると、
[SO4’] = (3Ccu+[Cu’])/4
<エクセルによる計算>
これらの関係式からエクセルのソルバーを用いて各化学種濃度(C)および溶解度(S)を求めます。
● 沈殿が生成しない場合:
・[Cu] = Ccu/α
・目的セル:Q (目標値:"0")
・変数セル:pH, pNH3, pSO4
・制約条件:R1 = Cn-[NH3’] = 0
R2 = Ccu-[SO4’] = 0
● 沈殿(CuSO4・3Cu(OH)2)が生成する場合:
・[Cu] = Ksp2/([OH]^1.5[SO4]^0.25)
・目的セル:Q (目標値:"0")
・変数セル:pH, pNH3, pSO4
・制約条件:R1 = Cn-[NH3’] = 0
R3 = (3Ccu+[Cu’])/4-[SO4’] = 0
硫酸銅 Ccu = 0.01 mol/L、アンモニア Cn = 10^-4~3 mol/Lの場合について、計算結果(抜粋)を図-1に示します。
log Cn-log SおよびCn-pHの関係をそれぞれ図-2、図-3に示します(*1)。
(*1) 実験的事実としては、硫酸銅にアンモニアをモル比で1~2倍程度加えてできた沈殿は塩基性硫酸塩(CuSO4・nCu(OH)2 ・mH2O)に相当する組成を持つことが知られている。
<<銅アンミン錯塩溶液へのNaOHの添加>>
上記の硫酸銅Ccu = 0.01 mol/L、アンモニア Cn= 3 mol/Lの溶液にCb = 10^-3~10 mol/LのNaOHを添加した溶液について、各化学種濃度および全銅濃度[Cu’](または溶解度S)を求めます。生成する沈殿はCu(OH)2とします。NaOHの添加による体積の変化は無視し、また活量係数は考慮しません。
<関係式、化学種濃度>
上記の「硫酸銅溶液へのアンモニア水の添加」と異なる部分のみ記します。
Cu(OH)2(s) ⇄ Cu2+ + 2OH-
Ksp1 = [Cu][OH]^2
Q = [H]-[OH] +2([Cu]+Σ[Cu(NH3)j])+Σ((2-i)[Cu(OH)i])+[NH4]-2[SO4]-[HSO4]+[Na]= 0
[Na] = Cb
[Cu] = Ksp1/[OH]^2 (沈殿が生成する場合)
<Ccu, [Cu']および[SO4’]の関係>
Ccu, [Cu']および[SO4’]の間には次の関係が成立します。
● 沈殿が生成しない場合:
硫酸銅はすべて溶液中に溶解しているので、
[SO4’] = [Cu'] = Ccu
● 沈殿(Cu(OH)2)が生成する場合:
[SO4’] = Ccu
<エクセルによる計算>
これらの関係式からエクセルのソルバーを用いて各化学種濃度(C)および溶解度(S)を求めます。
● 沈殿が生成しない場合:
・[Cu] = Ccu/α
・目的セル:Q (目標値:"0")
・変数セル:pH, pNH3, pSO4
・制約条件:R1 = Cn-[NH3’] = 0
R2 = Ccu-[SO4’]
● 沈殿(Cu(OH)2)が生成する場合:
・[Cu] = Ksp1/{OH]^2
・目的セル:Q (目標値:"0")
・変数セル:pH, pNH3, pSO4
・制約条件:R1 = Cn-[NH3’] = 0
R2 = Ccu-[SO4’]
硫酸銅 Ccu = 0.01 mol/L、アンモニア Cn = 3 mol/L、Cb = 10^-3~10 mol/Lの場合について、計算結果(抜粋)を図-4に示します。
図-4
pH-log Sの関係を図-5に示します。図中には図-1、図-4のデータを同時に示しています。
図-5





コメント