前回(2021/08/29)からの続きです。

前回報告した「05 mol/L塩酸溶液に対するAgClの溶解度」の結果をもう一度示します(-1)

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2021-09-05-fig1

<塩化物イオン濃度に対する各化学種濃度と溶解度>
-の結果を用いて、 塩化物イオン濃度([Cl])に対するAgClの溶解度(S)および銀(I)の化学種濃度の関係(log[Cl]logC)-に示します(*1)
(*1) -から分かるように、[Cl]がおよそ10^-4 mol/L以上では、塩化物イオン濃度[Cl]は溶媒の塩酸濃度Ccとほぼ等しくなる。したがって、この範囲では[Cl]Ccと同じと考えてよい(-)

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2021-09-05-fig2

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-から分かるように、[Cl]5×10^-4 mol/Lでは、Ag+が主要な化学種であり、5×10^-40.01 mol/LではAgCl(aq)が主要化学種です。さらに、0.010.5 mol/LではAgCl2-0.52 mol/LではAgCl32-[Cl]2 mol/LではAgCl43-が主要な化学種となります。   

<共通イオン効果、錯生成効果、イオン強度効果>
ここで、AgClの溶解度の計算について"おさらい"しておきます。
難溶性の溶解度は、共通イオン効果、水素イオン効果、錯生成効果、イオン強度効果などの影響を受けます。詳しくは、2019-04-012019-04-022019-04-03を参照してください。   

塩化物イオン濃度[Cl]に対するAgClの溶解度(S)は、イオン強度効果を考えないとき、次のようになります。
・共通イオン効果や錯生成効果がない場合:
S=
Ksp  …①
・共通イオン効果がある場合:
S
Ksp/[Cl]  …②
(共通イオン効果+錯生成効果)がある場合:
S
Kspα/[Cl]  …③
ここで、α1+Σβi[Cl]^i
となります
(*2)
(*2) 酸性溶液では銀イオン(Ag+)はほとんど加水分解しない。また塩化物イオン(Cl-)は加水分解しないので、水素イオン効果は無視できる。①式はたとえば純水への溶解度となる。②, ③式は、[Cl]が与えられれば、ソルバーを用いなくてもエクセル表で簡単に計算できる。   

-には、-から得られた溶解度(イオン強度効果共通イオン効果錯生成効果をすべて考慮)に加えて、②式(共通イオン効果のみ)および③式(共通イオン効+果錯生成効果)の溶解度を示しています。同時に、高濃度の塩酸に対するAgCl溶解度の実測値もプロットしています。   

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2021-09-05-fig4

-4から、およそ[Cl]=10^-4 mol/L以下では溶解度に対して共通イオン効果のみが影響し、10^-4 mol/L以上ではこれに錯生成効果が加わり、さらにおよそ0.5 mol/L以上ではイオン強度効果が大きく影響してくることが分かります。また、イオン強度効果の影響を考慮に入れると、計算値は実測値とよく一致します。   

AgNO3溶液にHClを添加したときのAgClの溶解度>
たとえば、Ca = 0.01 mol/LAgNO3溶液に濃度がCc = 0.0011 mol/Lとなるように塩酸を加えた場合を考えます。ここで塩酸の添加や沈殿の生成によって溶液の体積は変化しないものとします。このときの溶解度を計算します。計算のやり方は塩酸溶液に対する溶解度の場合(-)とほぼ同様ですが、0.01 mol/LAgNO3溶液に塩酸が加えられ、飽和溶液では余剰のAgClは沈殿している点で物質バランスの扱いが異なります。   

沈殿したAgCl(s)が沈殿する前に溶液にあったときの濃度を[AgCl(s)]とすると、
[Ag'] = Ca
[AgCl(s)]
[Cl'] = Cc
[AgCl(s)]
両式から[AgCl(s)]を消去すると、
[Ag']
[Cl'] = CaCc
R1= (Ca
[Ag'])(Cc[Cl']) = 0
また、電荷均衡式は、
Q = [H]
[OH][Ag][AgCl2]2[AgCl3]3[AgCl4][Cl][NO3]   

与件としてAgNO3度 Ca = 0.01 mol/L、塩酸濃度Cc = 0.001~1 mol/Lを与え、次のパラメータ設定を行い、pH, pCl, μoに適切な初期値を与えてソルバーを実行し、AgClの溶解度[Ag’](=S)を求めます。

 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH, pCl, μo (pCl=-log[Cl])

 ・制約条件R1 =  (Ca-[Ag'])-( Cc-[Cl']) = 0 
       R2 =
μcalμo = 0   

Ca = 0.01 mol/L, Cc=0.0011 mol/Lにおける計算結果を-に示し、グラフ(logCclogS)-に示します。溶解度が最も小さくなるのは、当量点(Cc=0.01 mol/L)を若干過ぎた点(Cc=0.013 mol/L)となることが分かります。   

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