以前(2020/01/26)、Al(OH)3の溶解度に及ぼす結晶形の違いについて報告しました。今回は錯体生成や活量係数補正を考慮してFe(III)(OH)3の溶解度と結晶形の関係について調べます。
鉄(III)塩の溶液に常温でアルカリをすばやく添加すると無定形(アモルファス)の沈殿が得られます。これを熟成すると条件によりα-FeOOH(針鉄鉱、ゲータイト)やα-Fe2O3(赤鉄鉱、ヘマタイト)に変化します(以下、これらを水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)と総称する)。
各結晶形の溶解度積(Ksp,
at 25℃)は次の通りです["Critical
Stability Constants, vol. 4"]。
・無定形水酸化鉄: pKsp = 38.8 (μ=0), 38.6 (μ=3)
・ゲータイト(α-FeOOH): pKsp = 41.5(μ=0), 41.1 (μ=3)
・ヘマタイト(α-Fe2O3): pKsp = 42.7(μ=0)
なお、その他の関係式や平衡定数値については前回(2021/09/12)通りです。
Fe3+ + OH- ⇄ FeOH2+ β1 = [FeOH]/([Fe][OH])
Fe3+ + 2OH- ⇄ Fe(OH)2+ β2 = [Fe(OH)2]/([Fe][OH]^2)
Fe3+ + 3OH- ⇄ Fe(OH)3(aq) β3 = [Fe(OH)3(aq)]/([Fe][OH]^3)
Fe3+ + 4OH- ⇄ Fe(OH)4 β4 = [Fe(OH)4]/([Fe][OH]^4)
2Fe3+ + 2OH- ⇄ Fe2(OH)24+ β22 = [Fe2(OH)2]/([Fe]^2[OH]^2)
3Fe3+ + 4OH- ⇄ Fe3(OH)45+ β34 = [Fe3(OH)4]/([Fe]^3[OH]^4)
Fe3+ + 3OH- ⇄ Fe(OH)3(s), FeOOH(s), Fe2O3(s) Ksp = [Fe][OH]^3
これらのデータを用いて、水酸化鉄(III)の溶解度とpHの関係を求めます。
<イオン強度の影響>
前回同様、「修正デービス式」を用いてイオン強度(μ)の影響を定量的に評価します。
logγ = -0.5×z^2×(√μ/(1+√μ)-k'μ) (zは電荷。k'は実験値の回帰式から求めた値)
したがって、
1価イオンは、logγ1 = -0.5(√μ/(1+√μ)-k'μ)
2価イオンは、logγ2 = 4logγ1
3価イオンは、logγ3 = 9logγ1
4価イオンは、logγ4 = 16logγ1
5価イオンは、logγ5 = 25logγ1
0価の種は、logγ0 = 1
濃度平衡定数は、
β1=β1oγ1^6
β2=β2oγ1^10
β3=β3oγ1^12
β4=β4oγ1^12
β22=β22oγ1^4
β34=β34oγ1^6
βn=βnoγ1^6
Kw=Kwo/γ1^2
Ksp=Kspo/γ1^12
(太字はµ=0における平衡定数(熱力学的平衡定数))
修正デービス式のk'値は前回通りです。ゲータイト(α-FeOOH)については新たに求めた結果、k'=0.19となりました。ヘマタイト(α-Fe2O3)についてはµ=0のデータしかないので、k'=0.2としました。
<酸または塩基への水酸化鉄(III)の溶解度>
酸または塩基へ水酸化鉄(III)を溶解したときの溶解度を、エクセルのソルバー機能を用いて用いて求めます。酸、塩基としてはFe(III)と錯体を作らない1価の強酸(HX)または塩基(BOH)を用います(たとえば、過塩素酸とNaOH)。
ソルバーの計算では、溶液の最終的なpHc(=-log[H])を与件とし、HXの必要濃度CX
mol/Lを変数とします。もし計算の結果CXが負の値となったときは-CXをBOH濃度と考えます。
pHcを与件とすると、各化学種は次にように表せます。
[H] =
10^-pHc
[OH] = Kw/[H]
[Fe] = Ksp/[OH]^3
[FeOH] = β1[Fe][OH]
[Fe(OH)2] = β2[Fe][OH]^2
[Fe(OH)3] = β3[Fe][OH]^3
[Fe(OH)4] = β4[Fe][OH]^4
[Fe2(OH)2] = β22[Fe]^2[OH]^2
[Fe3(OH)4] = β34[Fe]^3[OH]^4
[X] = CX
また計算に必要な関係式は次の通りです。
Q =
[H]-[OH]+3[Fe]+2[FeOH]+[Fe(OH)2]-[Fe(OH)4]+4[Fe2(OH)2]+5[Fe3(OH)4]-[X] = 0
µcal = ([H]+[OH]+9[Fe]+4[FeOH]+[Fe(OH)2]+[Fe(OH)4]+16[Fe2(OH)2]+25[Fe3(OH)4]+√([X]^2))/2 = µo
S= [Fe]+[FeOH]+[Fe(OH)2]+[Fe(OH)3]+[Fe(OH)4]+2[Fe2(OH)2]+3[Fe3(OH)4]
・ソルバーのパラメータ設定:
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:CX, μo
・制約条件:Rµ
= μcal-μo = 0
無定形水酸化鉄の溶解度に関する計算結果(抜粋)を図-1に示します。また、pHcの関数として無定形水酸化鉄、FeOOHおよびFe2O3の溶解度および化学種濃度を図-2~5に示します。





コメント