系統的無機定性分析において、マグネシウムイオン(Mg2+)は第VI族に属し、難溶性炭酸塩を作る第V族(Ca2+, Sr2+, Ba2+)を沈殿分離したあと、その沪液から分析を行います。しかし前回(2021/10/03)報告したように、場合によってMg2+は炭酸塩として沈殿することもあります。今回はどのような場合にMgCO3が沈殿し、あるいは沈殿しないのか、その条件を調べたいと思います。
前回(2021/10/03)の結果からも分かるように、MgCO3を沈殿させず沪液中に残すようにするためにはpHを適切に調整することが有効です((NH4)2CO3溶液のpHはおよそ9.2)。このため弱酸性であるNH4NO3の添加を考えます。
用いた定数は前回示したものおよび次の値です。
NH3の酸解離定数:
Kn = [H][NH3]/[NH4], pKn = 9.24
<<Mg(NO3)2にNH4NO3, (NH4)2CO3を添加する>>
Cm mol/L Mg(NO3)2溶液に濃度がCs
mol/LとなるようNH4NO3を添加します。ここに濃度がCc mol/Lとなるように(NH4)2CO3を添加することを考えます。NH4NO3および(NH4)2CO3の添加による溶液の体積変化は無視します。
ソルバーのやり方は、前回の溶解度の計算に準じますが、異なる点だけを記すると、
Q = [H]-[OH]+2[Mg]+[MgOH]+[MgHCO3]-2[CO3]-[HCO3]-[NO3]+[NH4] = 0
[NH3] = (2Cc+Cs)/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [H][NH3]/Kn
[NO3] = 2Cm+Cs
・MgCO3の沈殿が生じない場合:
・[Mg] = Cm/α
・α = 1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3]
・目的セル:Q = 0
・変数セル:pH, pCO3
・制約条件:R = Cc-[CO3'] = 0
・[Mg][CO3]/Kspc<1および[Mg][OH]^2/Kspo<1であることを確認する(条件付き書式を付けると確認しやすい)
・MgCO3の沈殿が生じる場合:
・[Mg] = Kspc/[CO3]
・目的セル:Q = 0
・変数セル:pH, pCO3
・制約条件:R = Cc-[CO3'] = 0
・[Mg']/Cm<1および[Mg][OH]^2/Kspo<1であることを確認する(条件付き書式を付けると確認しやすい)
<(NH4)2CO3だけを添加したとき>
たとえば、Cm=0.03
mol/LのMg(NO3)2溶液にCc=0.2 mol/Lとなるよう(NH4)2CO3だけを添加したの場合について考えます(溶液の体積変化なし)。ここでは、NH4NO3は添加しないので、Cs=0 mol/Lです。ソルバーの計算方法を図-1に示します。
E列は「沈殿が生じない」と仮定したときの計算結果です(E23:[Mg]=Cm/α)。
(E39:[M']/Cm), (E40:[Mg][CO3]/Kspc),
(E41:[Mg][OH]^2/Kspo)は仮定の可否判断のセルで、もしこれらの値が1を超えるならば仮定が間違っていることを示します(これらの値が1を超えるとセルが赤くなるよう条件付き書式を設定している)。E40>1(赤)なので「沈殿が生じない」という仮定は間違っています。
G列は「沈殿が生じる」と仮定したときの計算結果です(G23:[Mg]=Ksp/[CO3])。可否判断のセルはすべて1以下なので、仮定はすべて正しいことになります。つまり、Cm=0.03 mol/L, Cs=0
mol/L, Cc=0.2 mol/Lのときは沈殿が生じます。
Cm, Ccの値を変化させたときの計算結果を図-2に示します。
具体的に、Cm=0.01, 0.02または0.03 mol/LのMg(NO3)2溶液にCc mol/Lとなるよう(NH4)2CO3を添加し、沈殿が生じないと仮定して計算しました。
Cm=0.01 mol/Lの場合、(NH4)2CO3をCc=1 mol/Lまで加えても沈殿は生成しません。
Cm=0.02 mol/Lでは、(NH4)2CO3がCc=0.3 mol/Lまでは沈殿を生じませんが、Cc=0.4 mol/Lを超をえると生じます。
Cm=0.03 mol/Lでは、(NH4)2CO3がCc=0.06 mol/Lまでは沈殿を生じませんが、 Cc=0.07 mol/Lを超えると生じます。
このように、Mg(NO3)2溶液が比較的低濃度の場合はかなり多量の(NH4)2CO3を加えても沈殿は生じませんが、Mg(NO3)2濃度が比較的高い場合は少量の(NH4)2CO3の添加でも沈殿が生じるようになります。
実際の系統的無機定性分析においては、V族(Ca, Sr, Ba)の炭酸塩を作るために十分な量の(NH4)2CO3を添加する必要があります。したがって、V族の炭酸塩を沈殿させた後、例えばMgNO3がCm=0.03 mol/Lのとき、0.1 mol/Lの(NH4)2CO3が溶液中に残っているとMgCO3は沈殿することになります。
<NH4NO3および(NH4)2CO3を添加したとき>
具体的に、0.03 mol/LのMg(NO3)2にCs mol/LとなるようNH4NO3を添加し、ここに0.2 mol Lとなるよう(NH4)2CO3を加えます(溶液の体積変化なし)。
計算結果を図-3に示します。NH4NO3濃度(Cs)を0.42 mol/L以上加えるとMgCO3の沈殿は生成しないようになります。(*1)
(*1) 沈殿する・しないの境目は、次のようなソルバーのパラメータ設定で求めた。
・目的セル:Q=0
・変数セル:pH, pCO3, Cs
・制約条件:R=0, [Mg']/Cm=1
また、Cc=0.2 mol/L, Cs=1,
2 mol/Lの場合、Cmはどこまで許容できるか調べました。計算結果を図-4に示します。Cs=1 mol/Lのとき、Cm=0.04 mol/Lまで沈殿しません。Cs=2
mol/Lのときは、Cm=0.06 mol/Lまで沈殿しません。
しかし、系統的無機定性分析においては、このような条件下で果たしてCaCO3が定量的に沈殿するかどうか調べる必要があります。これについては次回報告します。




コメント