前回(2021/10/10)の検討で明らかなように、Mg(NO3)2溶液に適切な濃度のNH4NO3を共存させると、(NH4)2CO3をかなり加えてもMgCO3の沈殿は生じません。しかし、系統的無機定性分析において、このような条件下で果たしてCaCO3が定量的に沈殿するかどうか調べる必要があります。
<<関係式>>
Mg(NO3)2とCa(NO3)2を含む溶液にNH4NO3,
NH3および(NH4)2CO3を加え、CaCO3のみが沈殿するときの関係式は次の通りです(平衡定数値は図-1中に記載)。
・溶解度積
MgCO3・3H2O: Kmc=[Mg][CO3]
Mg(OH)2(無定形): Kmo=[Mg][OH]^2
CaCO3(方解石): Kcc=[Ca][CO3]
Ca(OH)2(無定形): Kco=[Ca][OH]^
2
・錯生成定数
MgCO3: βmc=[MgCO3]/([Mg][CO3])
MgHCO3: βmh=[MgHCO3]/([Mg][HCO3])
MgOH: βmo=[MgOH]/([Mg][OH])
CaCO3: βcc=[CaCO3]/([Ca][CO3])
CaHCO3: βch=[CaHCO3]/([Ca][HCO3])
CaOH: βco=[CaOH]/([Ca][OH])
・酸解離定数
HCO3/CO2(aq): K1=[H][HCO3]/[CO2aq]
CO3/HCO3: K2=[H][CO3]/[HCO3]
NH3/NH4: Kn=[H][NH3]/[NH4]
・水のイオン積
H2O: Kw=[H][OH]
・全濃度
Mg(NO3)2: Cmg
Ca(NO3)2: Cca
(NH4)2CO3: Cc
NH4NO3: Cs
NH3: Cn
・物質バランス
[CO3']=[MgCO3]+[MgHCO3]+[CaCO3]+[CaHCO3]+[CO2aq]+[HCO3]+[CO3]
[Mg']=[Mg]+[MgOH]+[MgCO3]+[MgHCO3]
[Ca']=[Ca]+[CaOH]+[CaCO3]+[CaHCO3]
R=(Cmg+Cca-([Mg']+[Ca']))-(Cc-[CO3'])
・電荷バランス
Q = [H]-[OH]+2[Mg]+[MgOH]+[MgHCO3]+2[Ca]+[CaOH]+[CaHCO3]-[HCO3]-2[CO3]+[NH4]-[NO3]
・化学種濃度
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Mg]=Cmg/αmg
αmg=1+βmo[OH]+βmc[CO3]+βmh[HCO3]
[MgOH] = βmo[Mg][OH]
[MgCO3] = βmc[Mg][CO3]
[MgHCO3] = βmh[Mg][HCO3]
[Ca] = Kcc/[CO3]
[CaOH] = βco[Ca][OH]
[CaCO3] = βcc[Ca][CO3]
[CaHCO3] = βch[Ca][HCO3]
[CO3] = 10^-pCO3
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[CO2aq] = [H][HCO3]/K1
[NH3]=(2Cc+Cs+Cn)/(1+[H]/Kn)
[NH4]=[H][NH3]/Kn
[NO3]=2(Cmg+Cca)+Cs
・CaCO3の沈殿率
CaCO3の沈殿率(%) = (Cca-[Ca'])/Cca×100
<<MgCO3は沈殿しないがCaCO3は沈殿する条件>>
MgCO3は沈殿しないがCaCO3は定量的に沈殿を生じる条件を探します。
この場合、
[Mg] = Cmg/αmg
[Ca] = Kcc/[CO3]
として、ソルバー計算を行い、MgCO3の沈殿生成の有無とCaCO3の沈殿率(%)を調べます。
<ソルバー計算の例>
一例として、Cmg=0.03 mol/L, Cca=0.03 mol/L, Cc=0.3
mol/L, Cs=0.6 mol/L, Cn=0 mol/Lの場合について、ソルバーの計算式と計算結果を図-1に示します。ソルバーのパラメータは次の通りです。
・目的セル:Q
= 0
・変数セル:pH, pCO3
・制約条件:R=(Cmg+Cca-[Mg']-[Ca'])-(Cc-[CO3'])
・[Mg][CO3]/Kspc<1, [Ca']/Cca<1, [Mg][OH]^2/Kmo<1および[Ca][OH]^2/Kco<1であることを確認する(条件付き書式を付けるとよい)
この場合、[Mg][CO3]>Kmcとなり、MgCO3の沈殿が生成するので、目的とする条件を満たさない結果となりました。
<NH4NO3濃度を変化させたとき>
Cmg=0.03 mol/L Mg(NO3)2およびCca=0.02 mol/L Ca(NO3)2の溶液にCs=0~3 mol/LとなるようNH4NO3を加え、Cc=0.2
mol/Lとなるよう(NH4)2CO3を添加したときのMgCO3およびCaCO3の沈殿生成の有無とCaCO3の沈殿率をソルバーで計算します(溶液の体積変化なし)。ソルバーのパラメータは図-1と同じです。計算結果を図-2に示します。
図-2から分かるように、Cs=0.4 mol/L以上となるようNH4NO3を添加すると、MgCO3は沈殿しなくなりますが、加えすぎるとCaCO3の沈殿生成率が悪くなります(たとえば、Cs=0.7 mol/LでCaCO3の沈殿生成率99.95%、Cs=3 mol/LでCaCO3の沈殿生成率99.89%)。
<pHとCmgの許容濃度の関係>
Mg(NO3)2およびCca=0.02 mol/L Ca(NO3)2の溶液にCs=0.6 mol/LとなるようNH4NO3を加え、またpHをある値に調整しするためCn mol/Lアンモニア(あるいは酸)を加えて、そこにCc=0.2
mol/Lとなるよう(NH4)2CO3を添加したときのMg(NO3)2の許容濃度Cmg mol/LとCaCO3の沈殿率をソルバーで計算します(溶液の体積変化なし)。ソルバーのパラメータは次の通りです。
・目的セル:Q
= 0
・変数セル:Cmg, Cn,
pCO3
・制約条件:R=(Cmg+Cca-[Mg']-[Ca'])-(Cc-[CO3'])
[Mg][CO3]/Kmc = 1
・[Ca']/Cca<1, [Mg][OH]^2/Kmo<1および[Ca][OH]^2/Kco<1であることを確認する(条件付き書式を付けるとよい)
計算結果を図-3に示します(Cnが負値の場合は酸が加えられたと考える)。この図から、pHが低いほどMg(NO3)2の許容濃度は高くなりますが、CaCO3の沈殿生成率は悪くなることが分かります。
実際の系統的無機定性分析においては、Ⅲ族以降に加えた試薬の種類と量によってV族の試料中に残存する酸や塩(たとえばNH4Cl)の量が異なります。V族の分析においては、これらを考慮して添加する沈殿剤((NH4)2CO3)やpH調整剤(アンモニア+酸)の量を調整する必要があります。
以上の考察は沈殿形やイオン強度などの影響を無視しているので、計算結果は蓋然的です。



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