2価の弱酸を1価の強塩基で滴定する場合について考えます。例として、NaOHによるマレイン酸(cis-ブテン二酸、H2Aと略す)の滴定を取り上げます。pHの計算には二分法を用います。
二分法を用いて2価の酸の理論的滴定曲線を作成する方法は1価の酸(2021-12-05)の場合と基本的に同じです。
① 平衡定数(K1, K2, Kw)、試料の酸濃度(Cao)・体積(V)、滴定剤(NaOH)の塩基濃度(Cbo)・体積(T)を用いて、物質バランスにより被滴定溶液中の化学種の平衡濃度を表す。
② 電荷バランス式(Q=0)を作る。
③ 二分法を用いて、T=0のときQ = 0となるpHを求める。
④ データテーブル機能を用いてTを変化させ、Tに対応するpHを求める。
⑤ TとpHの関係から、散布図を用いて滴定曲線の図を描く。
<<関係式>>
溶液試料中のマレイン酸(H2A)のモル濃度をCao mol/L, 体積をV mL, 滴定剤中の水酸化ナトリウムのモル濃度をCbo mol/L, 滴下量をT mLとし、また、マレイン酸の酸解離定数をK2, K1、水のイオン積をKwとします。
滴定の各段階において、被滴定溶液中(ビーカーの中)では次の平衡が成立しています。
平衡反応およびその平衡定数は、
H2A ⇆ H+ + HA- K1
= [H][HA]/[H2A]
HA- ⇆ H+ + A2- K2 = [H][A]/[HA]
H2O ⇆ H+ + OH- Kw = [H][OH]
NaOH → Na+ + OH-
物質バランスから、
被滴定溶液の全酸濃度(mol/L)は、
Ca = CaoV/(V+T) = [A]+[HA]+[H2A] = [A](1+[H]/K2+[H]2/(K2K1))
被滴定溶液の全NaOH濃度(mol/L)は、
Cb = CboT/(V+T) = [Na]
被滴定溶液中に存在する化学種の濃度は、
[H] = 10-pH
[OH] = Kw/[H]
[A] = Ca/(1+[H]/K2+[H]2/(K2K1))
[HA] = [H][A]/K2
[H2A] = [H][HA]/K1
[Na] = Cb = CboT/(V+T)
電荷バランスから、
[H]+[Na] = [OH]+2[A]+[HA]
Q = [H]-[OH]+[Na]-2[A]-[HA] = 0
以上の関係式から、Tを与えてQ=0を解いてpHを求めます。QはpHに対して単調減少関数となります(証明略)。したがって二分法を用いてpHの近似解を求めることができます。
「二分法」および「テータテーブル」を作るやり方は酢酸の滴定の場合と同じです(2021-12-05)。
<<エクセルによる滴定曲線の作成方法>>
Cao = 0.1 mol/Lのマレイン酸(pK1=1.92,
pK2=6.27) V=10 mLをCbo = 0.1 mol/L
NaOHで滴定するとき(滴下量T mL)の滴定曲線を作ります。
<条件表>
(1) pK1, pK2,
pKwの値をE4, E5, E6に入れ、Cao,
V, Cboの値をD7, D8, D9に入れる。
(2) T(D10)に"0"を入れる。
(3) K1, K2, Kw, V+T, Ca,
Cbの計算式をD4, D5, D6, D11, D12, D13に入れる。 ・
・D4=10^-E4 {K1=10^-pK1}
・D5=10^-E5 {K2=10^-pK2}
・D6=10^-E6 {Kw=10^-pKw}
・D11=D8+D10 {V+T}
・D12=D7*D8/D11 {Ca=CaoV/(V+T)}
・D13=D9*D10/D11 {Cb = CboT/(V+T)]
<二分法表>
(4) 初回(18行目): pHの初期値a0, b0をC18, E18に入れ、m0の計算式をD18に入れる。
・C18=0
・D18=(C18+E18)/2 {m0=(a0+b0)/2}
・E18=14
(5) 初期値に対して、濃度に関する計算式をF18~M18に入れる。
・F18=G18-H18-2*J18-K18+M18 {Q=[H]-[OH]-2[A]-[HA]+[Na]}
・G18=10^(-D18) {[H]=10^(-pH)}
・H18=$D$6/G18 {[OH]=Kw/[H]}
・I18=1+G18/$D$5+G18^2/($D$5*$D$4) {α=1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)}
・J18=$D$12/I18 {[A]=Ca/α}
・K18=G18*J18/$D$5 {[HA]=[H][A]/K2}
・L18=G18*K18/$D$4 {[H2A]=[H][HA]/K1}
・M18=$D$13 {[Na]=Cb}
(6) 繰り返し1回目(19行目): 二分法のロジック式をC19~E19に入れ、濃度に関しては初回の計算式をコピーする。
・C19=IF(F18<0,C18,D18) {a1=IF(Q0<0,
a0, m0)}
・D19=(C19+E19)/2 {m1=(a1+b1)/2}
・E19=IF(F18<0,D18,E18) {b1=IF(Q0<0,
m0, b0)}
(7) 範囲(F18:M18)を選択し、F19:M19までコピーする。
(範囲の右下隅の■を⊞にして19行目までドラッグ)
(8) 繰り返し2~30回目: 範囲C19:M19を選択し、C48:M48までコピーする。
(範囲の右下隅の■を⊞にして48行目までドラッグ)
(9) D48が求めるpHである。求めたpHの値を条件表にコピーする。
・D14=D48
これで、条件表、二分法表が完成です(図-1のC列~M列)。
<データテーブルの作成>
(10) O列にTの値を0.1 mLきざみでT=0~40 mLまでいれる。
・O5に"0", O6に"0.1"を入れる。
・範囲(O5:O6)を選択し、範囲右下隅の■を⊞にして405行目までドラッグする。
(11) 二分法表(T=0)のpH(D14)をP5にコピーする。
・P5=D14
(12) データテーブルの作成範囲(O5:P405)を指定する。
(13) データテーブルを作成する。
・メニューバー:「データ」
・ツールバー:「What-If分析」⇒「データテーブル」⇒ダイアログボックス ⇒「列の代入セル」に”D10”(滴下量T)を指定する(「行の代入セル」は空欄のまま) ⇒「OK」
これで、TとpHのデータテーブルが完成です(図-1のO, P列)。
図-1
<滴定曲線の作成>
(14) 範囲O4:P405を指定する。
(15) 散布図を作成する。
・メニューバー:「挿入」
・ツールバー:「グラフ」⇒「散布図」⇒「散布図(平滑線)」⇒ OK
(散布図は目的に応じて適当にカスタマイズしてください)
作成した滴定曲線の例を図-2に示します。
図-2
次の動画に滴定曲線の作成手順を示します。
動画
なお、二分法を用いて2価の酸の理論的滴定曲線を作成する方法は、1価の酸の場合と基本的に同じなので、前回作成した1価の酸のエクセルシートを一部修正して作成することも可能です。また、上記の条件表の数値およびデータテーブルのT値を変えるだけで、様々な2価酸の種類・濃度に応じた滴定曲線をグラフに描くことができます。



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