前回(2022-01-23)の応用として、グルタミン酸(H2A)を水または塩酸に溶かした溶液を水酸化ナトリウムで滴定するときの理論的滴定曲線を二分法により作成します。   

水または塩酸にグルタミン酸(H2A)を溶かした溶液(HCl濃度Cco mol/L, H2A濃度Cao mol/L, 溶液の体積V mL)を濃度CboNaOHで滴定します(滴定剤の滴下量T mL)。グルタミン酸の酸解離定数をK1, K2, K3とし、水のイオン積をKwとします。   

<<関係式>>(前回の復習。赤字は前回と異なる点)
H3A+ H+ H2A  K1 = [H][H2A]/[H3A]
H2A H+ HA-  K2 = [H][HA]/[H2A]
HA- H+ A2-  K3 = [H][A]/[HA]
H2O H+ OH-  Kw = [H][OH]

物質バランスから、被滴定溶液中のグルタミン酸、Cl-Na+濃度をそれぞれCa, Cc, Cbとすると、
グルタミン酸に関して、
Ca = CaoV/(V+T)
  = [A]+[HA]+[H2A]+[H3A]
  = [A](1+[H]/K3+[H]2/(K3K2)+[H]3/(K3K2K1)) = [A]α
ここで、α= 1+[H]/K3+[H]2/(K3K2)+[H]3/(K3K2K1)
また、Cl-, Na+に関して、
Cc = CcoV/(V+T)= [Cl]
Cb = CboT/(V+T)
   

したがって、被滴定溶液中の化学種濃度は、
[H] = 10
pH
[OH] = Kw/[H]
[A] = Ca/
α
[HA] = [H][A]/K3
[H2A] = [H][HA]/K2
[H3A] = [H][H2A]/K3
[Cl] = Cc
[Na] = Cb
   

また、電荷バランスから、
Q = [H]
[OH]2[A][HA][H3A][Cl][Na] = 0   

<<エクセルによる滴定曲線の作成方法>>
水または濃度既知の塩酸にグルタミン酸(H2A)を溶かした溶液(HCl濃度Cco=0.00, 0.02, 0.04または0.06 mol/L, H2A濃度Cao=0.01 mol/L, 溶液の体積V=10 mL)を濃度Cbo=0.01 mol/LNaOHで滴定します。滴定剤の滴下量をT mLとし、グルタミン酸の酸解離定数をK1, K2, K3, 水のイオン積をKwとします。   

<条件表>
(1) pK1, pK2, pK3, pKwの値をE3, E4, E5, E6に入れ、Cao, V, Cboの値をD7, D9, D10に入れる(固定値)
(2)
 Cco(D8)およびT(D11)"0"を入れる。
(3)
 K1, K2, K3, Kw, V+T, Ca, Cc, Cbの計算式をD3, D4, D5, D6, D12, D13 D14, D15に入れる。  
  ・D3=10^-E3 {K1=10^-pK1}
  ・D4=10^-E4 {K2=10^-pK2}
  ・D5=10^-E5 {K3=10^-pK3}
  ・D6=10^-E6 {Kw=10^-pKw}
  ・D12=D9+D11 {V+T}
  ・D13=D7*D9/D12 {Ca=
CaoV/(V+T)}
  ・D14=D8*D9/D12 {Cc=CcoV/(V+T)}
  ・D15=D10*D11/D12 {Cb = CboT/(V+T)}     

<二分法表>
(4) 初回(21行目): pHの初期値a0, b0C21, E21に入れ、m0の計算式をD21に入れる。
  ・C21=0
  ・D21=(C21+E21)/2 {m0=(a0+b0)/2}
  ・E21=14
(5)
 初期値(21行目)に対して、濃度に関する計算式をF21O21に入れる。
  ・F21=G21-H21-2*J21-K21+M21-N21+O21
 
    {Q=[H]-[OH]-2[A]-[HA]+[H3A]+[Na]}
  ・G21=10^(-D21) {[H]=10^(-pH)}
  ・H21=$D$6/G21 {[OH]=Kw/[H]}
  ・I21=1+G21/$D$5+G21^2/($D$5*$D$4)+G21^3/($D$5*$D$4*$D$3)
   
 {α=1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1)}
  ・J21=$D$13/I21 {[A]=Ca/α}
  ・K21=G21*J21/$D$5 {[HA]=[H][A]/K3}
  ・L21=G21*K21/$D$4 {[H2A]=[H][HA]/K2}
  ・M21=G21*L21/$D$3 {[H3A]=[H][H2A]/K3}
  ・N21=$D$14 {[Cl]=Cc}
  ・O21=$D$15 {[Na]=Cb}
(6)
 繰り返し1回目(22行目): 二分法のロジック式をC22E22に入れ、濃度に関しては初回の計算式をコピーする。
  ・C22=IF(F21<0,C21,D21) {a1=IF(Q0<0, a0, m0)}
  ・D22=(C22+E22)/2 {m1=(a1+b1)/2}
  ・E22=IF(F21<0,D21,E21) {b1=IF(Q0<0, m0, b0)}
(7)
 範囲(F21:O21)を選択し、F22O22にコピーする。
  (範囲の右下隅の
にして22行目までドラッグ)
(8)
 繰り返し230回目: 範囲C22:O22を選択し、C51O51までコピーする。
  (範囲の右下隅の
にして51行目までドラッグ)
(9)
 D51が求めるpHである。求めたpHの値を条件表にコピーする。
  ・D16=D51   

これで、条件表、二分法表が完成です(-1C列~O)。   

<複合データテーブルの作成>
(10) R列に滴下量Tの値を0.2 mL刻みでT=080 mLまで入れる。
  ・R5"0", R6"0.2"を入れる。
  ・範囲(R6:R7)を選択し、範囲右下隅の
にして406行目までドラッグする。
(11)
二分法表(Cco=0, T=0のとき)pH(D16)R5にコピーする。
  ・R5=D16
(12)
Cco=0, 0.02, 0.04, 0.06 をそれぞれS5, T5, U5,V5に入れる。
(13)
データテーブルの作成範囲(R5:V406)を指定する。
(14)
データテーブルを作成する。
  ・メニューバー:「データ」
  ・ツールバー:「What-If分析」「データテーブル」ダイアログボックス 「行の代入セル」に"D8"(塩酸濃度Cco)を指定する 「列の代入セル」に”D11”(滴下量T)を指定する OK」   

 2022-01-30-fig0

これで、滴下量TとpHのデータテーブルが完成です(-RV)。   

-

 2022-01-30-fig1

<滴定曲線の作成>
(14) 範囲R4:V4およびR6:V406を指定する。
(15)
散布図を作成する。
  ・メニューバー:「挿入」
  ・ツールバー:「グラフ」「散布図」「散布図(平滑線)⇒ OK
(散布図は目的に応じて適当にカスタマイズしてください)   

作成した滴定曲線の例を-に示します。   

-

 2022-01-30-fig2

<<実際の定量>>
Ma molのグルタミン酸を濃度既知の塩酸(Cco mol/L) V mLに溶解し、Cbo mol/L NaOHで滴定したときの終点がTend mLであったとき、Maの値は次式で求めることができます。

Ma = CboTendCcoV

定量の1例を-3に示します(Cco=0.04, V=10, Cbo=0.01)。   

-3
2022-01-30-fig3b画像1

滴定曲線でpH7付近に現れる大きなジャンプ(終点:Tend)は、塩酸が中和され、さらにグルタミン酸H2AHA-まで中和されたときに対応しています。   

日本薬局方では、L-グルタミン酸を定量するとき、「乾燥した本品約0.12 gを精秤し、水40 mLに加温して溶解し、冷却後、0.1 mol/L NaOHで滴定する(電位差滴定法)」こととなっています。