前回(2022-02-06)は試料中の1つの物質sを滴定剤中の一つの物質tで酸塩基滴定するときの滴定曲線を作るための一般式を求めました。今回は混合物の滴定にも適用できるよう、式を拡張します。「滴定曲線の一般式」は「電荷バランス式」の変形であるという理屈さえ理解すれば、拡張は簡単です。この拡張式を用いるとどのような複雑な酸塩基滴定曲線でも簡単に作成することができます。   

<<混合物の滴定曲線の一般式>> (2021-04-25)
試料中の物質sa, sb, …を滴定剤中の物質ta, tb, …で酸塩基滴定するとき、CsxoFsxCtxoFtx (x=a, b, )には加成性が成立します。したがって混合物の滴定曲線は次のような一般式で表すことができます。
Vt =
Vs(CsaoFsaCsboFsb+…+Δ)/(CtaoFtaCtb0Ftb+…+Δ) …①
Δ=[H+][OH-]
Csxo
:試料中の物質sxの初濃度(mol/L)
Ctxo
:滴定剤中の物質txの初濃度(mol/L)
V
:試料の体積(mL)
T
:滴下した滴定剤の体積(mL)
Fsx = qsx0fsx0
qsx1fsx1qsx2fsx2+…+qsxifsxi+…
Ftx = qtx0ftx0
qtx1ftx1qtx2ftx2+…+qtxjftxj+…
fsxi
:物質sxから生じる化学種iの存在分率 (強酸、強塩基の場合は1)
ftjx
:物質txから生じる化学種jの存在分率 (強酸、強塩基の場合は1)
qsxi
:化学種iの電荷 (陽イオンは正の整数、陰イオンは負の整数)
qtxj
:化学種jの電荷 (陽イオンは正の整数、陰イオンは負の整数)   

たとえば数種類の1価酸の混合物を1価の強塩基で滴定する場合は、
T = V{(Csaofsa0
Csbofsb0+…)-Δ}/(Cto+Δ)
となります(もちろん、強酸の場合はf=1)。   

また、前回(2022-02-06)、塩AaBbの場合はF = aFabFbとなり、塩AaBbを滴定する場合の一般式は、
T =
V{Cso(aFsabFsb)+Δ}/(CtoFt+Δ)
となること示しましたが、これもCso mol/LAaBbaCso mol/LAbCso mol/LBの混合物であると考えれば、①式が適用できます。   

通常、意図的に混合物を滴定剤に使用することはほとんどありませんが、CO2を吸収したNaOHを滴定剤として使用した場合を考えるときなどに、①式は有効です。 

<<例 題>>
レビ法でリン酸とNaOHの混合物をHClで滴定する場合について考えます。
Cpo=0.05 mol/L
H3PO4Cno=0.2 mol/LNaOHを含む溶液V=20 mLCto=0.1 mol/L HClで滴定するときの滴定曲線を描きます。ただし、H3PO4の酸解離定数をpK1=2.15, pK2=7.20, pK3=12.38とします。   

リン酸に関しては、
K1 = [H][H2PO4]/[H3PO4],  K2 = [H][HPO4]/[H2PO4],  K3 = [H][PO4]/[HPO4]
Cp = [PO4]
[HPO4][H2PO4][H3PO4] = [PO4](1[H]/K3[H]^2/(K3K2)[H]^3/(K3K2K1))
αp = 1[H]/K3[H]^2/(K3K2)[H]^3/(K3K2K1)
fp0 = [PO4]/Cp = 1/
αp
fp1 = [HPO4]/Cp = [H]fp0/K3
fp2 =[H2PO4
]/Cp = [H]fp1/K2
fp3 =[H3PO4]/Cp = [H]fp2/K1
qp0 = 3
qp1 = 2
qp2 = 1
qp3 = 0
Fp = qp0fp0qp1fp1qp2fp2qp3fp3 = (3fp02fp1fp2)   

ナトリウムに関しては、
fn = 1
qn = 1
Fn = qnfn = 1
塩酸に関しては、
ft = 1
qt =
1
Ft = qtft =
1   

したがって、滴定曲線の一般式①は、
T = V(Cno
Cpo(3fp0+2fp1+fp2)+Δ)/(CtoΔ)
となります。この式でfおよびΔは[H]のみの関数なので、pHを与えればTを求めることができます。
結果を図-1に示します。

-
2022-02-13-fig1

-1において、Tの計算はH列で行いました。図ではpH=13.2のときの計算を示しています。またpHを変化させ(pH=13.21.1)、それに伴うTおよびfiの変化をデータテーブルで作成しました(J列~O)。データテーブルの作り方は次の通りです。
(1)
 J列にpHの値を13.21.1まで 0.1刻みで入れる。
  ・J4"13.2", J5"13.1"を入れる。
  ・範囲(J4:J5)を選択し、範囲右下隅の
にして125行目までドラッグする。
(2)
計算列(pH=13.2)T, fK4O4にコピーする。
  ・K4=H23 (T)
  ・L4=H17 (fp0)
  ・M4=H18 (fp1)
  ・N4=H19 (fp2)
  ・O4=H20 (fp3)
(3)
データテーブルの作成範囲(J4:O125)を指定する。
(4)
データテーブルを作成する。
  ・メニューバー:「データ」
  ・ツールバー:「What-If分析」「データテーブル」ダイアログボックス 「列の代入セル」に”H12”(pH)を指定 OK」   

これで、滴下量TとpHのデータテーブルが完成です(-JO)。   

データテーブルにおいて、滴定の開始点および当量点のpHについては、ソルバーを用いてその正確な値を求めました(目的セル:T, 変数セル:pH)
T=0
のときpH=12.8
T=10
のときpH=12.3
T=20
のときpH=9.6
T=30
のときpH=4.7   

また、滴定曲線(T-pH)およびリン酸に関する化学種の存在分率(f)-に示します。   

-
2022-02-13-fig2

点Aは遊離のNaOHが中和する点ですが、pHの急激な変化はありません。点Bまでの滴定量をT1, 点Cまでの滴定量をT2とすると、Cpo, Cnoは、次式で求めることができます。*1)
Cpo = Cto(T2-T1)/V
Cno = Cto(2T2-T1)/V

*1) T1, T2について、物質バランス、電荷バランスから、
(Cno
2Cpo)V = CtoT1 …ⓐ
(Cno
Cpo)V = CtoT2 …ⓑ
ⓑ-ⓐより、
CpoV = Cto(T2
T1)
2
×ⓑ-ⓐより、
CnoV = Cto(2T2
T1)/V