前回(2022-02-13)の応用として、アミノ酸の1種であるリシン(lysine)を塩酸に溶解した溶液を水酸化ナトリウムで滴定するときの理論的滴定曲線をレビ法により作成します。
リシン(lysine)はジアミノモノカルボン酸で、下図のように解離します(リシンの双生イオンをHAとする)。
Ca mol/LのリシンおよびCc mol/Lの塩酸を含む溶液 V mLをCt mol/LのNaOHで滴定する場合を考えます。ただし、リシンの酸解離定数をK1(COOH), K2(α-NH3), K3(ε-NH3)とします。
レビ法における関係式は次のとおりです。
リシン(双生イオンをHAとする)に関して、
K1 = [H][H2A]/[H3A]
K2 = [H][HA]/[H2A]
K3 = [H][A]/[HA]
Ca = [A]+[HA]+[H2A]+[H3A] = [A](1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
α= 1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1)
fa0 = [A]/Ca = 1/α
fa1 = [HA]/Ca = [H]fa0/K3
fa2 =[H2A]/Ca = [H]fa1/K2
fa3 =[H3A]/Ca = [H]fa2/K1
qa0 = -1
qa1 = 0
qa2 = 1
qa3 = 2
Fa = qa0fa0+qa1fa1+qa2fa2+qa3fa3
= -fa0+fa2+2fa3
塩酸に関しては、
fc = 1
qc = -1
Fc = qcfc = -1
ナトリウムに関しては、
ft = 1
qt = 1
Ft = qtft = 1
したがって、混合物の滴定曲線の一般式①(2022-02-13)は、
T = -V(CaoFa+CcoFc+Δ)/(CtoFt+Δ)
= V(Cao(fa0-fa2-2fa3)+Cco-Δ)/(Cto+Δ)
となります。この式でfおよびΔは[H]のみの関数なので、pHを与えればTを求めることができます。
<例 題>
リシン0.0731 gを0.1 mol/L HCl 20
mLに溶解した溶液を0.1 mol/L NaOHで滴定するときの滴定曲線および化学種の存在分率(fi)を描きます。ただし、リシンの酸解離定数をpK1=1.77,
pK2=9.07, pK3=10.82とします。
レビ法によるエクセルの計算結果を図-1に示します。
図-1において、Tの計算はH列で行いました。図ではpH=0.9のときの計算を示しています。エクセル計算において、Fa = qa0fa0+qa1fa1+qa2fa2+qa3fa3の計算はsumproduct関数を用いました。
Fa =sumproduct(qa0:qa3,fa0:fa3)
またpHを0.9~12.9と変化させ、それに伴うTおよびfiの変化を「データテーブル」で作成しました(J列~O列)。データテーブルの作り方は次の通りです。
(1) J列にpHの値を0.9~12.9まで 0.1刻みで入れる。
・J4に"0.9", J5に"1.0"を入れる。
・範囲(J4:J5)を選択し、範囲右下隅の■を⊞にして124行目までドラッグする。
(2) 計算列(pH=0.9)のT, fをK4~O4にコピーする。
・K4=H25 (T)
・L4=H19 (fp0)
・M4=H20 (fp1)
・N4=H21 (fp2)
・O4=H22 (fp3)
(3) データテーブルの作成範囲(J4:O124)を指定する。
(4) データテーブルを作成する。
・メニューバー:「データ」
・ツールバー:「What-If分析」⇒「データテーブル」⇒ダイアログボックス ⇒「列の代入セル」に”H14”(pH)を指定 ⇒「OK」
これで、滴下量TとpHのデータテーブルが完成です(図-1のJ~O列)。
データテーブルにおいて、滴定の開始点および当量点のpHについては、ソルバーを用いてその正確な値を求めました(目的セル:T, 変数セル:pH)。
T=0のときpH=1.25
T=10のときpH=1.99
T=15のときpH=5.59
T=20のときpH=9.93
T=25のときpH=11.38
滴定曲線(T-pH)およびリシンに関する化学種の存在分率(f)を図-2に示します。
a→bにおいて点bはHClが中和する点ですが、pHの急激な変化はありません。これはH3A2+がかなり強い酸(pK1=1.77)であり、HClとの分別がつかないためです。b→cにおいて点cはH3A2+→H2A+の中和に対応する点で、pHの急激な変化が見られます。点d, eはそれぞれH2A+→HA, HA→A-の中和に対応しますがpHの急激な変化は見られません。
a→cまでの滴下量をT1とすると、a→c間で消費したNaOHの物質量は混合溶液に含まれる塩酸およびリシンの物質量の合計に等しいので、Ccoが濃度既知のときリシン濃度Caoは次式で求めることができます。
Cao = CtoT1/V-Cco



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