前回(2022-03-06)からの続きで、今回はAgNO3とHNO3の混合溶液にNH3を滴下することを考えます。この場合も滴下量ごとにエクセルのソルバー機能を用いてpHの解を求めます。
<<関係式>>
Cxo mol/LのAgNO3とCyo mol/LのHNO3を含む溶液V mLに、Cto mol/LのNH3 T mLを滴下したときの滴下量T-pH曲線を描きます。
<被滴定溶液中の濃度>
NH3 T mLが加えられた溶液中のAgNO3, HNO3,
AgNO3+HNO3およびNH3の濃度をCx, Cy,
Cz, Ct mol/Lとすると、
Cx = CxoV/(V+T)
Cy = CyoV/(V+T)
Cz = Cx+Cy
Ct = CtoT/(V+T)
となります。Czは溶液中の全NO3-濃度です。
<平衡定数>
AgOH , Ag(OH)2-の錯生成定数をβo1, βo2とすると、
βo1 = [AgOH]/([Ag][OH])
βo2 = [Ag(OH)2]/([Ag][OH]^2)
AgOHの溶解度積をKspとすると、
Ksp = [Ag][OH]
(AgOHは2AgOH→Ag2O+H2Oの反応によりただちにAg2Oに変化する)
AgNH3+ , Ag(NH3)2+の錯生成定数をβn1, βn2とすると、
βn1 = [AgNH3]/([Ag][NH3])
βn2 = [Ag(NH3)2]/([Ag][NH3]^2)
NH4+の酸解離定数をKnとすると、
Kn = [H][NH3]/[NH4]
水のイオン積をKwとすると、
Kw = [H][OH]
<物質バランス>
NH3 が加えられた溶液中の銀の全濃度を[Ag']とすると、
[Ag'] = [Ag]+[AgOH]+[Ag(OH)2]+[AgNH3]+[Ag(NH3)2]
= [Ag](1+β1[OH]+β2[OH]^2+[AgNH3]+[Ag(NH3)2])
ここで、αx = 1+β1[OH]+β2[OH]^2+[AgNH3]+[Ag(NH3)2]とすると、
[Ag'] = [Ag]αx
AgOHの沈殿が生成しない場合、Cx = [Ag']なので、
[Ag] = Cx/αx
なお、沈殿が生成する場合は、Cx>[Ag']ですが、
[Ag] = Ksp/[OH]
の関係が成立します。
さらに、溶液中のアンモニアの全濃度を[NH3']とすると、
[NH3'] = [NH3]+[NH4]+[AgNH3]+2[Ag(NH3)2]
アンモニアはAg2Oの沈殿生成に直接関与しないので、
Ct = [NH3']
が成立します。
<電荷バランス>
被滴定溶液中にはH+, OH-,
Ag+, AgOH, Ag(OH)2-, AgNH3+,
Ag(NH3)2+, NO3-およびNa+という化学種が存在するので、電荷バランスから、
Q = [H]-[OH]+[Ag]-[Ag(OH)2]+[AgNH3]+[Ag(NH3)2]-[NO3]+[Na] = 0
の関係が成立します。
<各化学種の濃度>
pHおよびpNH3をパラメータとすると、各化学種は次のように表わされます。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Ag] = Cx/αx (沈殿が生成しない場合)
または、[Ag] = Ksp/[OH] (沈殿が生成する場合)
[AgOH] = βo1[Ag][OH]
[Ag(OH)2] = βo2[Ag][OH]^2
[AgNH3] = βn1[Ag][NH3]
[Ag(NH3)2] = βn2[Ag][NH3]^2
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [H][NH3]/Kn
[NO3] = Cz
<<エクセルでの計算>>
上記の関係式からエクセルの「ソルバー」を用いて、滴下量T
mLのときのpHを求め、T-pH曲線を描きます。
<例題1>
Cxo=0.1 mol/LのAgNO3とCyo=0.05 mol/LのHNO3を含む試料溶液V=20 mLに、Cto=0.1 mol/LのNH3を滴下するときのT-pH曲線を描きます。
エクセルの計算結果(抜粋)を図-1に示します。計算列はH列で、Tを変えてソルバー計算を行い、これをJ列以降にコピーしていきました。計算はT=0から始め、このときpH, pNH3の初期値はそれぞれ1, 20としました。Tは少しずつ増やしていき、当量点付近ではその増幅を狭めて計算しました。
沈殿があるとき・ないときで[Ag]の計算式が異なります。どちらの式を用いるかの判断基準は次式がすべて1以下となることです。判断は目視で行いました。(A, Bのセルに条件付き書式を付けると判断しやすい。)
A=[Ag][OH]/Ksp ≦1
B=[Ag']/Cz ≦1
●沈殿がないとき
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pH, pNH3
・制約条件:R = Ct-[NH3']
= 0
・[Ag] = Cx/αx
●沈殿があるとき
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pH, pNH3
・制約条件:R = Ct-[NH3']
= 0
・[Ag] = Ksp/[OH]
実際に計算すると、T = 0~100 mLの範囲でAg2Oの沈殿は生成しない結果となりました。これは銀のアンモニア錯体の生成によって沈殿反応がマスクされたためです。
T-pH曲線を図-2に示し(赤色の実線)、またTに対する溶液の化学種の存在分率を示します。図で、A点は遊離HNO3の中和点であり、またB点はAg++2NH3→Ag(NH3)2+の反応に対応しています。
<例題2>
Cxo=0.1 mol/LのAgNO3とCyo=0.005
mol/LのHNO3を含む試料溶液V=20 mLに、Cto=0.1 mol/LのNH3を滴下するときのT-pH曲線を描きます。
NH3の滴下量T mLに対するpH値の求め方は、例題1と同じです。
Cyo=0.005 mol/Lの場合は、T=5.7~36.7 mL (pH=7.48~8.95)の範囲で、不完全ながらAg2Oの沈殿が生成する結果となりました。



コメント