酸化還元滴定の基礎については、以前(2020/08/02)説明しましたが、今回以降、改めて酸化還元平衡についてもう少し詳しく説明したいと思います。今回は酸化還元平衡におけるネルンスト式、標準電極電位、平衡定数についてです。      

<<基本的用語>>
・酸化数: (1)単体中の原子の酸化数は0(2)化合物中の水素原子の酸化数はふつう+1、酸素の酸化数はふつう-2(例外あり:水素化物、過酸化物など)。(3)化合物の場合、各原子の酸化数の総和は0(4)単原子イオンの酸化数は電荷に等しい。(5)多原子イオンの場合、各原子の酸化数の総和は多原子イオンの電荷に等しい。
・酸化: 物質が電子(e-)を放出することを酸化という。また、ある原子の酸化数が増加したとき、その原子またはその原子を含む物質は酸化したという。
・還元: 物質が電子(e-)を受容することを還元という。また、ある原子の酸化数が減少したとき、その原子またはその原子を含む物質は還元したという。
・酸化剤と還元剤: 自分が還元して相手を酸化する物質を酸化剤という。自分が酸化して相手を還元する物質を還元剤という。
酸化還元反応: ある物質から他の物質に電子が移動して一方は酸化され、他方は還元される電子の授受反応を酸化還元反応という。   

<<酸化還元反応と電池>>
たとえば、次のような酸化還元反応を考えます。
Fe2+ Ce4+ Fe3+ Ce3+
この反応について、-1に示すような電池を組み立てるとよく理解できます。   

-1 電池の仕組み

2025-04-20-fig1

電池は二つの半電池から成り、二つの半電池間は塩橋で接続され、左の半電池にはFe2+溶液、右の半電池にはCe4+溶液が入っており、白金電極間は導線で繋がれています。左の電極ではFe2+が酸化されてFe3+になり、放出された電子は左の電極に移り、導線を通じて右の電極に流れ、これをCe4+が受け取り還元されてCe3+になります。   

酸化反応が起きる極は負極(アノード)と呼ばれ、還元反応が起きる極は正極(カソード)と呼ばれます。
負極(左の極)では、「Fe2+
は電子を放出して(=酸化して)Fe3+になる」
Fe2+
Fe3+ e- 
正極(右の極)では、
Ce4+は電子を受容して(=還元して)Ce3+になる」
Ce4+
e- Ce3+ 
の反応が起きて、両極間には電流が流れ、セル電圧(Ecell)
(=端子間電圧)が生じます。電池の放電が進むと、やがて電流は流れなくなりEcell0となります。この状態はFe2+ + Ce4+ ⇄ Fe3+ + Ce3+の反応が平衡状態になったことを意味します。   

酸化還元反応が進行する前の状態を評価するため、電池内を電流が流れない条件下(抵抗が十分に大きい状態)でセル電圧(Ecell)を測定したとき、これを起電力(Eemf)といいます。   

それぞれの極における反応式は半電池反応式(国際的取り決めで酸化体を左に、還元体を右に書く)と呼ばれ、次式で表されます
負極:Fe3+ e- Fe2+
正極:Ce4+ e- Ce3+
それぞれの極の単独の電極電位(E)は、標準水素電極(SHEまたはNHE)を参照電極とて測定した電池の起電力と定義されます(図-2)(電極電位は、酸化還元電位とも言う)   

<<ネルンスト式>>
<半電池反応のネルンスト式
一般に、次の半電池反応式
aA
ne- bB
において、電極電位(E)は次式で表されます。
E = Eº
RT/(nF)×ln(aBb/aAa)
この式をネルンスト式といいます。
ここで、
標準電極電位 (25℃, 10^5 Pa, 化学種活量1で、SHEを参照電極として測定された起電力)
R
=気体定数 (8.314 J/(Kmol)8.314 VC/(Kmol)
T
=温度(K)
n
=半電池反応に関与する電子の数
F
=ファラディー定数 (9.649×10^4 C/mol)
aA, aB
=化学種A, Bの活量   

活量aXと濃度[X]の間には次の関係があります。
aX
gX[X] (ここで、gXは活量係数)
したがって、濃度を用いてネルンスト式を表すと、
E = Eº
RT/(nF)×{(log(
gB b/gA a)log([B]b/[A]a)}×2.303
希薄な溶液(
gX=1)の場合、25℃においてネルンスト式は、
E = Eº(0.0592/n)×log([B]b/[A]a))
となります。
   

半電池反応:Fe3+ e- Fe2+に関する標準電極電位( )測定の模式図を図-2に示します。   

-2 標準電極電位(Eº)の測定原理
2025-04-20-fig2

これまで様々な半電池反応の標準電極電位が求められ、その値が便覧等に記載されています。   

<半電池の型>
半電池反応について、いくつかの例を示します。ここで、純粋な固体、溶媒の水の活量は1です。また以下、活量係数はすべて1とします。
(イオン/イオン)
Fe3+
e- Fe2+
E = Eº
0.0592log([Fe2+]/[Fe3+])  Eº=0.771 V   

(金属イオン/金属)
Ag+
e- Ag(s)
E = Eº
0.0592log(1/[Ag+]) = Eº0.0592log[Ag+]  Eº=0.799 V   

(イオン/気体)
2H+ 2e- H2(g)
E = Eº
(0.0592/2)log(P/[H+]2)  Eº=0.000 V
P
10^5 Pa
に対するH2の分圧比   

(気体/イオン)
Cl2(g)
2e- 2Cl-
E = Eº
(0.0592/2)log([Cl-]2/P)  Eº=+1.360 V
P
10^5 Pa
に対するCl2の分圧比   

難溶性塩/金属
AgCl(s) e- Ag(s) Cl-
E = Eº-0.0592log[Cl-]  Eº=+0.222 V      

全反応のネルンスト式
例として、ふたたび-1の電池を考えます。
それぞれの極におけるネルンスト式は、次式で表されます(
25)
負極:Fe3+ e- Fe2+
 E1 = E
º10.0592log([Fe2+]/[Fe3+]) E1º = +0.771 V
正極:Ce4+ e- Ce3+
 E2 = E
º20.0592log([Ce3+]/[Ce4+]) E2º = +1.72 V
電池全体の反応式は、
Fe2+
Ce4+ Fe3+ Ce3+
   
起電力(E)EE2E1で表されるので、反応全体のネルンスト式は、
E = E2
E1 = (E
º2Eº1)0.0592log(Ce3+][Fe3+]/([Ce4+][Fe2+]))
Eº2Eº1 = Eº とすると、
E = Eº-0.0592log(Ce3+][Fe3+]/([Ce4+][Fe2+])) Eº = +0.95 V
となります(塩橋に起因する液間電位差は無視します)。   

<<Eºと平衡定数>>
電池の二つの半電池反応が次式で表されるとき
負極 
aOx1 ne- bRed1 …①
   E1 = Eº1(0.0592/n)log([Red1]b/[Ox1]a)
正極 
cOx2 ne- dRed2 …②
   
E2 = Eº2(0.0592/n)log([Red2]d/[Ox2]c)
全反応式は、②-①から、
bRed1
cOx2 aOx1 dRed2  …③
E = E2
E1
= (Eº2
1)(0.0592/n)log([Ox1]a[Red2]d/([Ox2]c[Red1]b))
となります。   

③式の平衡定数をKとすると、
K = [Ox1]a[Red2]d/([Ox2]c[Red1]b)
電池が平衡状態になると、E = 0です。このとき
2
1 = (0.0592/n)log([Ox1]a[Red2]d/([Ox2]c[Red1]b))
(0.0592/n)logK
logK = n(Eº2
1)/0.0592
K = 10^(n(Eº2
Eº1)/0.0592)

したがって、21が分かれば③式の平衡定数Kを求めることができます。   

例題1:2Cr2+Sn4+2Cr3+Sn2+の平衡定数
2Cr2+Sn4+2Cr3+Sn2+
反応式の平衡定数Kは、
K =
[Cr3+]2[Sn2+]/([Cr2+]2[Sn4+])   

Cr3+/Cr2+に関する半電池反応式およびネルンスト式は、
Cr3+ + e-
Cr2+
E1 = E
º10.0592log([Cr2+]/[Cr3+]) …(a)  E1º = 0.42 V (25)
Sn4+/Sn2+
に関する半電池反応式およびネルンスト式は、
Sn4+ + 2e-
Sn2+
E2 = E
º2(0.0592/2)log([Sn2+]/[Sn4+]) …(b)  E2º = +0.15 V (25)
(a)
式から、
E1 = E
º1(0.0592/2)log([Cr2+]2/[Cr3+]2) …(a')
(b)
(a')から、
E2
E1 = (E
º2Eº1)(0.0592/2)log([Sn2+][Cr3+]2/([Sn4+][Cr2+]2))   

平衡状態ではE2E1 = 0なので、
E
º2Eº1 = (0.0592/2)log([Sn2+][Cr3+]2/([Sn4+][Cr2+]2)) = (0.0592/2)logK
ゆえに、
logK = 2
×(
Eº2Eº1)/0.0529 = 2×0.57/0.0529 = 19.26
K = 1.8×10^19
反応は大きく右に偏ることが分かります。
また、二つの半電池反応の差を考えると、酸化還元反応でない反応の平衡定数を求めることもできます。

<例題2AgClの溶解度積
AgCl(s)
Ag+ Cl-
溶解度積は、
 Ksp = [Ag+][Cl-]
   

半電池反応式およびネルンスト式は、
AgCl(s)
e- Ag(s) Cl-
E1 = Eº1
0.0592log[Cl-] …(c)
  Eº=+0.222 V
Ag+
e- Ag(s)
E2 = Eº2-0.0592log(1/[Ag+]) …(d)  Eº=+0.799 V   

(d)(c)より、
E = E2
E1 = (Eº21)0.0592log(1/([Ag+][Cl-]))
平衡状態ではE=0なので、
2
1 = 0.0592log(1/([Ag+][Cl-])) = 0.0592log(1/Ksp) = 0.0592×pKsp
pKsp = (Eº2
1) /0.0592 = 9.75
Ksp = 1.8
×10^-10