前回(2022-04-10)は、Fe(Ⅲ)-Fe(Ⅱ)系に対するpHの影響について調べました。ここにさらに錯生成剤が加わるとどうなるでしょうか? 今回は、フッ化物イオン(F-)が加わると電極電位がどのように変化するかを調べます。
<<関係式、定数値>>
フッ化物イオン(F-)が共存する場合を考えます。
<平衡定数>
前回(2022-04-10)用いた定数値に加えて、Fe3+, Fe2+のフッ化物の錯生成定数(βf)(µ=1.0)は、
Fe3+ + F- ⇄
FeF2+ βfⅢ1 = [FeF2+]/([Fe3+][F-])
= 10^5.2
Fe3+ + 2F- ⇄ FeF2+ βfⅢ2 = [FeF2+]/([Fe3+][F-]2)
= 10^9.1
Fe3+ + 3F- ⇄ FeF3 βfⅢ3 = [FeF3]/([Fe3+][F-]3)
= 10^12.1
Fe2+ + F- ⇄ FeF+ βfⅡ1 = [FeF+]/([Fe3+][F-])
= 10^0.8
HFの酸解離定数は、
HF ⇄ H+ + F- Ka = [H+]/([F-]/[HF] = 10^-3.17
なお、水酸化物の錯生成定数の記号はβoⅢn, βoⅡn(n=1~4)とします。
βoⅢn = [Fe(OH)n^(3-n)]/([Fe3+][OH-]n)
βoⅡn = [Fe(OH)n^(2-n)]/([Fe2+][OH-]n)
用いた平衡定数のイオン強度はまちまちですが、この補正はしません。
<物質バランス、α値>
物質バランスは、フッ化物, Fe(Ⅲ), Fe(Ⅱ)の仕込み濃度をそれぞれCf, CⅢ, CⅡ mol/Lとし、フッ化物錯体(βf)と水酸化物錯体(βo)の生成を考慮して、
Cf = [FeF2+]+2[FeF2+]+3[FeF3]+[FeF+]+[F-]+[HF]
CIII = [Fe3+]+[FeOH2+]+[Fe(OH)2+]+[Fe(OH)3]+[Fe(OH)4-]+[FeF2+]+[FeF2+]+[FeF3]
= [Fe3+](1+βoⅢ1[OH-]+βoⅢ2[OH-]2+βoⅢ3[OH-]3+βoⅢ4[OH-]4+βfⅢ1[F-]+βfⅢ2[F-]2+βfⅢ3[F-]3)
= [Fe3+]αⅢ
CII = [Fe2+]+[FeOH+]+[Fe(OH)2]+[Fe(OH)2-]+[Fe(OH)22-]+[FeF+]
=
[Fe2+](1+βoⅡ1[OH-]+βoⅡ2[OH-]2+βoⅡ3[OH-]3+βoⅡ4[OH-]4+βfⅡ1[F-])
= [Fe2+]αⅡ
ここで、
αⅢ= 1+βoⅢ1[OH-]+βoⅢ2[OH-]2+βoⅢ3[OH-]3+βoⅢ4[OH-]4+βfⅢ1[F-]+βfⅢ2[F-]2+βfⅢ3[F-]3
αⅡ= 1+βoⅡ1[OH-]+βoⅡ2[OH-]2+βoⅡ3[OH-]3+βoⅡ4[OH-]4+βfⅡ1[F-]
αⅢ, αⅡはFe3+, Fe2+の副反応係数と呼ばれ、ここでは[OH-]の関数(pHの関数)であるとともに[F-]の関数となります。
<<ネルンスト式>>
Fe3+/Fe2+のネルンスト式は、
Fe3+ + e- ⇄ Fe2+
E = Eº-0.0592log([Fe2+]/[Fe3+]) Eº=+0.771 V
水酸化物沈殿が生成しないとき、[Fe2+]=CII/αⅡ, [Fe3+]=CIII/αⅢなので、
E = Eº-0.0592log{(CⅡ/αⅡ)/(CⅢ/αⅢ)}
= Eº-0.0592log(αⅢ/αⅡ)-0.0592log(CⅡ/CⅢ)
また、Fe(OH)3沈殿のみが生成するとき、[Fe2+]=CII/αⅡ, [Fe3+]=KspⅢ/[OH-]3なので、
E = Eº-0.0592log{(CⅡ/αⅡ)/(KspⅢ/[OH]3)}
= Eº-0.0592log([OH]3/αⅡ)-0.0592log(CⅡ/KspⅢ)
Fe(OH)3およびFe(OH)2の沈殿が生成するとき、[Fe2+]=KspII/[OH-]2, [Fe3+]=KspⅢ/[OH-]3なので、
E = Eº-0.0592log{(KspⅡ/[OH]2)/(KspⅢ/[OH]3)}
= Eº-0.0592log[OH]-0.0592log(KspⅡ/KspⅢ)
となります。
<<電極電位の計算>>
Fe(III), Fe(II)の仕込み濃度(CIII,CII)をCIII=CII=0.01 mol/Lとし、フッ化物の仕込み濃度(Cf)をCf=1, 0.3, 0.1
mol/Lと変化させて、エクセルでpHと電極電位の関係を求めます。前回、電極電位Eを求めたときは、Fe3+, Fe2+の副反応係数(αⅢ, αⅡ)はpHのみの関数だったのでpHを指定すれば副反応係数を直接求めることが可能でした。しかし今回は、副反応係数はpHの関数とともに[F-]の関数となるので、エクセルのソルバー機能(2019-04-07)を用いて計算します。
化学種濃度は、
[Fe3+] = CⅢ/αⅢ (沈殿なし)
または [Fe3+] = KspⅢ/[OH]3 (沈殿あり)
[Fe(OH)n^(3-n)] = βoⅢn[Fe3+][OH-]n (n=1~4)
[FeFm^(3-m)] = βfⅢm[Fe3+][F-]m (m=1~3)
[Fe2+] = CⅡ/αⅡ (沈殿なし)
または [Fe2+] = KspⅡ/[OH]2 (沈殿あり)
[Fe(OH)n^(2-n)] = βoⅡn[Fe2+][OH-]n (n=1~4)
[FeF+] = βfⅡ1[Fe2+][F-]
[H+] = 10^-pH
[OH-] = Kw/[H+]
[F-] = 10^-pF
[HF] = [H+][F-]/Ka
[F'] = [FeF2+]+2[FeF2+]+3[FeF3]+[FeF+]+[F-]+[HF]
ソルバーのパラメータは、与件をpHとして、
目的セル:Cf-[F'] = 0
変数セル:pF
交点のpHは、制約条件([Fe3+][OH-]^3/KspⅢ=1または[Fe2+][OH-]^2/KspⅡ=1)を追加して求めます。
計算結果の抜粋を図-1に示します。
図-1
フッ化物の仕込み濃度Cf=1, 0.3, 0.1 mol/LについてpHとEの関係を図-2に示します。フッ化物を加えない場合(Cf=0
mol/L)は前回の値を用いました。
図-2
図-2から分かるように、Fe3+を含む溶液にフッ化物イオンを加えると、フッ化物錯体が生成し電極電位が低くなり、Fe3+はFe2+に還元されにくくなります。



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