溶媒抽出に用いられる器具と方法について説明します。溶媒抽出には、様々なやり方がありますが、ここではよく用いられる分析ロートを使ったバッチ法を取りあげます。また抽出回数・抽出剤量と抽出の効率との関係について考察します。
<<溶媒抽出の方法と器具>>
バッチ抽出に用いられ器具としてはガラス製の分析ロート(下図)が最も一般的です。A部は水相、有機相の投入口で蓋はすり合わせになっています。また圧力抜き用の小孔が付いています。B部は全体を振盪して水相と有機相を混合する部分、C部はすり合わせまたはテフロン製の二方コックで下層(比重の重い方の相)を排出する部分です。
分液ロートの取り扱い方は、通常次の通りです。
(1) 分液ロートをロート台に載せ、コック(C)を閉じる。
(2) 調製した試料溶液を分液ロートに入れる。
(3) 有機溶媒を入れる。
(4) 栓(A)をする。このとき圧力抜き用の小孔は閉じる。
(5) 分液ロートを取り、手のひらで栓を押さえて逆さにし、直ちにコックを開けて内部の圧力を開放する。
(6) コックを閉じ、分液ロートを振って両相を混ぜ合わせる。ときどきコックを開けて内部の圧力を開放する。
(7) 分液ロートをロート台に載せ、静置する。
(8) 栓の圧力抜き用の小孔を開けたのち、コックを開けて、下層(水相または有機相)を受け器に入れる。
(9) コックを閉める。
この後の操作は目的に応じてそれぞれ対応します。1回の抽出操作で分離が不十分な場合は同様の抽出操作を数回繰り返します。
<<抽出の回数と抽出効率>>
抽出操作の方法、特に抽出回数と有機溶媒の量によってどのくらい抽出の効率が向上するか調べます。
Vw mLの水溶液に溶けている溶質Sの量をSt molとし、これをVo mLの有機溶媒で抽出することを考えます。話を簡単にするために、水相と有機相は互いに溶け合わず、Sは水相と有機相で副反応を起こさないものとします(したがって、Kd=D)。
1回目の抽出後に水相に残る量Sw1のStに対する分率をfw1,
有機相に抽出される量So1のStに対する分率をfo1とすると、fw1+fo1 = 1なので、
Kd
= [S]o/[S]w = (fo1St/Vo)/(fw1St/Vw) = (fo1/Vo)/(fw1/Vw)
= (1-fw1)Vw/(fw1Vo)
式を整理してfw1について求めると、
fw1 = Vw/(Vw+KdVo)
fo1 = 1-fw1 = KdVo/(Vw+KdVo)
となります。
(なお、Kd=Dの場合、fo1は抽出率: E(%) = 100D/(D+Vw/Vo)に対応します。)
ここで、水相と有機相を分離して、水相に新たに1回目と同様にVomLの有機溶媒を加えて2回目の抽出を行います。1回目の抽出で水相に残った溶質Sw1 molに対して、同様の分配平衡が起きるので、2回目の抽出後に水相に残る量Sw2のSw1に対する分率fw2は、
Kd
= (fo2Sw1/Vo)/(fw2Sw1/Vw) = (1-fw2)Vw/(fw2Vo)
fw2 = Vw/(Vw+KdVo)
となります(fw1 = fw2)。
したがって、2回目の抽出後に水相に残る量Sw2のStに対する分率Fw2は、
Fw2 = fw1×fw2 = {Vw/(Vw+KdVo)}^2
これを繰り返して、同一の体積Voでp回の抽出を行うと、水相に残る量SwpのStに対する分率Fwpは
Fwp = fw1×fw2×…×fwp
= {Vw/(Vw+KdVo)}^p …①
となります(fw1 = fw2 = … = fwp)。
Sが水相と有機相で副反応を起こさない場合は、Kd=Dなので、
Fwp = {Vw/(Vw+DVo)}^p
また、有機相に抽出された全量SopのStに対する分率Fopは
Fop = 1-Fwp …②
となります。ここでは、Fwpを残留率、Fopを全抽出効率と呼ぶことにします。
たとえば、Kd=1のとき、溶質Sを含むVw=50
mLの水溶液をVo=50 mLの有機溶媒で5回抽出する場合、
残留率は、
Fw1 = fw1= Vw/(Vw+KdVo)
= 50/(50+1×50) = 0.5
Fw2 = 0.50^2 = 0.25
Fw3 = 0.50^3 = 0.125
Fw4 = 0.50^4 = 0.0625
Fw5 = 0.50^5 = 0.0313
全抽出効率は、
Fo1 = 1-Fw1 = 0.5
Fo2 = 0.75
Fo3 = 0.875
Fo4 = 0.938
Fo5 = 0.969
となります。
例題-1
ある溶質SのKdは5.0である。濃度0.050 M溶質Sの水溶液試料50
mLを15 mLの有機溶媒で1回抽出するとき、
(a) この分離における抽出率fo1は?
(b) 各相における溶質の濃度は?
(c) 溶質を99%抽出するために必要な有機溶媒の体積は?
(解)
(a)
fw1 = Vw/(Vw+KdVo)
= 50/(50+5×20) = 0.40
fo1 = 1-fw1 = 0.60
(b)
Swt = 0.050×50.0 = 2.5 mmol
[S]w = fw1Swt/Vw = 0.3×2.5/50 = 0.020 M
[S]o = fo1Swt/V0 = 0.6×2.5/15 = 0.10 M
(c)
fo1 = 0.99のとき、fw1 =1-0.99 = 0.01
fw1 = Vw/(Vw+KdVo)
= 50/(50+5×Vo) =
0.01
Vo = 50×(100-1)/5 =
990 mL
例題2
ある溶質SのKdは5.0である。溶質Sを含む水溶液試料50
mLを
(a) 60 mLの有機溶媒で1回抽出するとき
(b) 30 mLの有機溶媒で2回抽出するとき
(c) 20 mLの有機溶媒で3回抽出するとき
の全抽出効率Fonは?
(解)
(a) Fo1
= 1-Vw/(Vw+KdVo) = 1-50/(50+5×60) = 0.857
(b) Fo2 = 1-{Vw/(Vw+KdVo)}^2 = 1-{50/(50+5×30)}^2
= 0.938
(c) Fo3 = 1-{Vw/(Vw+KdVo)}^3 = 1-{50/(50+5×20)}^3
= 0.963
例題2を拡大して、全体として使用する有機溶媒量(Vot)を一定して抽出をp回繰り返した場合(1回あたりの使用量はVot/p)の全抽出効率(Fop)を図-1に示します。
同じ量の有機溶媒を使うのならば、1回で全量使用するよりも、小分けにして抽出回数を増やす方が全抽出効率は向上することが分かります。しかし、回数を重ねるごとに抽出の効率の程度はしだいに低下していきます。
<<抽出剤の量と全抽出効率>>
①, ②式から明らかなように、有機溶媒の量を増加させれば全抽出効率は向上します。図-1の条件においてKd=3のとき、Vo=100 mLをVo=200, 300
mLに変更した場合について図-2に示します。図中には、比較のためKd=5, Vo=100 mLの場合も示します。
有機溶媒の量をVo=100→200→300 mLと増加すると全抽出効率は向上することが分かります。
以上見てきたように抽出回数や有機溶媒の体積を増やせば抽出の効率は向上します。しかし、抽出操作の所要時間や労力、試薬コストなども増加します。実際の抽出においては、目的を良く考え、適切な抽出回数や有機溶媒量を決定する必要があります。



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