前回(2022-06-26)はバッチ法を用いてイオン交換分離を行う方法について述べました。今回以降、カラム法によるイオン交換分離法について述べます。カラム法では、カラムに詰めたイオン交換樹脂の上部に金属イオンを含む試料を注入して吸着させ、さらに溶離液を流すことにより吸着帯を下降させます。このとき、個々の金属イオンのイオン交換樹脂に対する吸着能力(分配係数)の違いにより金属イオン吸着帯の下降の程度が異なり、金属イオンを互いに分離することができます。このような分離方法は、一般に「クロマトグラフィー」と呼ばれます。
<<カラム法の操作手順>>
カラム法は便宜上「カラム沪過法」と「クロマトグラフ法」に分けられます。
カラム沪過法は、ある成分(目的成分あるいは不要成分)を樹脂に吸着させ、他の成分を流出させる方法です。吸着成分が目的成分である場合は、さらに溶離液を用いて目的成分を溶出させます。クロマトグラフ法は、溶離液を用いて多成分を順次分別的に溶離していく方法です。しかし両者には本質的な違いがあるわけではなく、同じ分離理論(段理論)を用いて解析することができます。
カラム法の典型的な操作方法は次の通りです(図-1)。
(1) ガラス製またはプラスチック製のカラムにイオン交換樹脂を詰める。
(2) 適切な水、酸、塩基、塩溶液などを流して予備処理を行う(コンデショニング)。
(3) 試料溶液をカラム上部から注入する。図中(a)
(4) 溶離剤を流して、各成分を溶離する。図中(b)~(d)
(5) 溶出液を適切な方法で分析する。
また、溶離曲線の例を図-2に示します。
<<カラム法の一般原理>>
カラムによるイオン交換分離法の原理を段理論(=プレート理論)に基づいて説明します。
段理論は次の二つの前提条件を必要とします。
(1) 第1の前提: カラムに詰められた樹脂は円盤状の薄い層で区切られた何段かの「理論段」からできている。そしてこの理論段の中では、次の下段へ液体が流れる前に、固定相(樹脂)と移動相(溶液)の間に平衡状態が成立する。
(2) 第2の前提: 試料の対イオンの量は溶離中のどの段においても常に溶離液の対イオンの量よりも少ない。この前提のため、試料の量は少量にする必要がある。
<各段の樹脂相、液相の成分分率>
今回の目的は、カラム全体の間隙体積Vi(*1)および試料成分の分配係数Dを用いて、溶離曲線の最大濃度における溶出液体積(=保持容量)V*を求めることです。ここで分配係数は、平衡到達後、ある段の樹脂中の成分の物質量分率を同一段の間隙溶液中の成分の物質量分率で割ったものと定義します。どの段においてDは一定とします。
D = (樹脂中の成分の物質量分率)/(間隙溶液中の成分の物質量分率)(*2)
(*1) 樹脂粒と樹脂粒のすきまにおいて溶液が占めている体積
(*2) 前回まではDの添え字を省いた場合は、Dgを意味するものとしたが、ここではDは成分分率の比を用いているので注意してほしい。
(以降、(図-3)と対比しながら見てください! 図-3では、D=1.5,
試料中の成分の物質量を100としています。)
まず、試料溶液がv mLだけカラムに添加されます(ここでvは1段の間隙体積)。
Ln, rは、n×v mLの溶離液がカラムに加えられた後(nは注入回数)、r段目の間隙溶液中の成分分率、同様にSn, rは同一段の樹脂相中の成分分率を示します。
Dの定義(D = Sn, r/Ln, r)から、
Sn, r = DLn, r …①
試料、溶離液の添加によって、次のように分配、移動が順次行われます。
(0) n=0回目のとき
・r=0段目
最上段(0段目)でn=0つまり試料添加後分配が行われ、まだ溶離液が添加されていないとき、
S0, 0 = DL0, 0
S0, 0 + L0, 0 = 1
したがって、
L0, 0 = 1/(1+D)
S0, 0 = D/(1+D)
(1) n=1回目のとき
・r=0段目
体積vの溶離液が最初添加されると、溶液は0段目から1段目に移動するが、樹脂中の試料成分はまだ0段目にとどまっているので、0段目においては、
S1, 0 + L1, 0 = S0, 0 =
D/(1+D)
この式と①式から(*3)、
L1, 0 = D/(1+D)^2
S1, 0 = D^2/(1+D)^2
(*3)
S1, 0 + L1, 0 = D/(1+D) …ⓐ
L1, 0 = S1, 0/D …ⓑ
ⓐ, ⓑからS1, 0を収去すると、
L1, 0 = D/(1+D)^2
ⓐ, ⓑからL1, 0を収去すると、
S1, 0 = D^2/(1+D)^2
・r=1段目
同様に、1段目においては、
S1, 1 + L1, 1 = L0, 0 =
1/(1+D)
この式と①式から(*4)、
L1, 1 = 1/(1+D)^2
S1, 1 = D/(1+D)^2
(*4)
S1, 1 + L1, 1 = 1/(1+D) …ⓐ’
L1, 1 = S1, 1/D …ⓑ’
ⓐ’, ⓑ’からS1, 1を収去すると、
L1, 1 = 1/(1+D)^2
ⓐ’, ⓑ’からL1, 1を収去すると、
S1, 1 = D/(1+D)^2
(2) n=2のとき
・r=0段目
2v mLの溶離液を加えた後、0段目の状態は、
S2, 0 + L2, 0 = S1, 0 =
D^2/(1+D)^2
L2, 0 = S2, 0/D
L2, 0 = D^2/(1+D)^3
S2, 0 = D^3/(1+D)^3
・r=1段目
1段目の試料成分には二つの供給源がある。それは溶液が移動する前の樹脂相の成分(S1, 1に対応)と0段目から移動してきた溶液の成分(L1, 0に対応)なので、
S2, 1 + L2, 1 = S1, 1 +
L1, 0 = D/(1+D)^2 + D/(1+D)^2 = 2D/(1+D)^2
L2, 1 = S2, 1/D
L2, 1 = 2D/(1+D)^3
S2, 1 = 2D^2/(1+D)^3
・r=2段目
2段目の成分の供給源は、L1, 1のみなので、
S2, 2 + L2, 2 = L1, 1 =
1/(1+D)^2
L2, 2 = S2, 2/D
L2, 2 = 1/(1+D)^3
S2, 2 = D/(1+D)^3
…
(3) n回目、r段の一般式
この操作を続けいていくと、一般式は
Sn, r + Ln, r = Sn-1, r
+ Ln-1, r-1
Ln, r = Sn, r/D
Ln, r = n!/(r!(n-r)!)(Dn-r/(1+D)n+1)
Sn, r = n!/(r!(n-r)!)(Dn-r+1/(1+D)n+1)
ただし、n≧rのとき成立する。n<rならばLn, r
=Sn, r = 0
(4) 最終段
カラムの全段数をpとすると、最終段においては、
r = p
Ln, p = n!/(p!(n-p)!)(Dn-p/(1+D)n+1) …②
②式が溶出液の成分分率を与える式になります。この分布は二項分布と呼ばれます。
<最大濃度の溶出液体積を求める式>
定数D, pがどんな値を取っても、n=0のとき最終段ではLn, p = 0です。nが増加するとLn, pが最大となるまでLn, pは増加し、その後減少に転じて、nが十分大きくなるとLn, p≒0となります。Ln, pの最大値をLn,
p*とし、対応するnをn*とすると、pが十分大きな値ならば、Ln, p*はその前後におけるLn, pと同じ値であると近似することができます。
Ln*, p = Ln*-1, p
この式を②式に代入して整理すると(*5)、
n* = p(1+D)
(*5)
Ln*, p = n*!/(p!(n*-p)!)(Dn*-p/(1+D)n*+1) …②’
Ln*-1, p = (n*-1)!/(p!(n*-1-p)!)(Dn*-1-p/(1+D)n*-1+1) …②’’
②’/②’’=1
n*!/(n*-1)!=n*
p!(n*-p)!/p!(n*-p-1)!=n*-p
(Dn*-p/(1+D)n*+1)/(Dn*-1-p/(1+D)n*)=D/(1+D)
②’/②’’=(n*/n*-p)(D/(1+D))=1
∴n*=p(1+D)
用いた溶離液の体積をVとし、n*回目までの溶離液の体積をV*とすると、
V = nv
V* = n*v
カラム中樹脂の全間隙体積をViとすると、
Vi = vp
したがって、
V* = n*v = p(1+D)v = Vi(1+D)
つまり、
V* = Vi(1+D) …③
となります。
③において、Dは「樹脂中の成分の物質量分率を同一段の間隙溶液中の成分の物質量分率で割ったもの」を用いましたが、もしここで質量分配係数Dgを用いる場合は、
V* = Vi+GDg …③’
ここで、Gはカラム中の乾燥イオン交換樹脂の全質量です(*6)。
(*6)
D = fr/faq={molr/(molr+molaq)}/{molaq/(molr+molaq)}=molr/molaq
Dg = (molr/G)/(molaq/Vi)
∴ D = GDg/Vi
また、もしカラムの間隙体積ViがGDgに比べて非常に小さいときは、
V* ≒ GDg …③’’
と近似できます。



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