イオン交換分離法は、これまで多くの金属イオンの分離に用いられ、その有効さが認められています。今回以降、金属イオンのいくつかの代表的な分離例について説明します。今回はアルカリ金属の分離を取りあげます。
<<アルカリ金属のDg, Dv値>>
陽イオン交換樹脂AG 50W-X8
- HCl系におけるアルカリ金属イオンの質量分配係数(Dg)の文献値およびこの値から推定した容量分配係数(Dv)を下表に示します。
<<LiとNaの分離>>
この表のLiとNaのDvの値およびそれらの比(Dv,Na/Dv,Li)から考えると、イオン交換分離に適切なHCl濃度は0.2 mol/L程度と考えられます。
<必要カラム長の計算>
陽イオン交換樹脂カラム(AG 50W-X8)を用いて微量のリチウム(A)とナトリウム(B)を分離するのに必要な樹脂カラムの長さを計算で求めます(2022-07-17)。
前提条件として、カラム断面積(a=1 cm2)、間隙率(i=0.38)、樹脂の粒子直径 (φ=0.01
cm(≒150 mesh))、線流速(um=1
cm/min)、金属イオンLi, Naそれぞれに関する容量分配係数(Dva=7.6, Dvb=11.3 (at 0.2 mol/L HCl))、が与えられているものとします。微量のリチウム、ナトリウムを含む0.2 mol/L HCl溶液試料をカラムに注入後、0.2 mol/L HCl溶液で溶離するとき、溶出率がεa=0.9999, εb=0.0001となるのに必要な樹脂カラムの長さLを求めます。
関係式には(2022-07-17①~⑦’および⑧’)を用います。
カラム(樹脂柱):
・ 樹脂柱の幾何学的容積(mL): Vr
= a×L …①
・ 樹脂柱の間隙容積(mL): Vi
= i×Vr …②
Liイオン (A):
・ 最大濃度の溶出液体積(mL): V*a
= Vi+Vr×Dva …③
・ 理論段数: Na = L/ha
…④
・ 溶離曲線の標準偏差(mL): σa = V*a/√Na …⑤
・ 信頼係数: ka = NORM.INV(εa,
0, 1) …⑥
・ 溶出率εにおける溶離液体積(mL): Vεa = Va*+kaσa
…⑦
Naイオン (B):Aと同様。(③'~⑦')
理論段高さ(HETP)
h≒2φ + φ2um{583/Dv + 112.5/(1+0.583φum)} …⑧’
エクセルのソルバー機能を用いて、Lを求めます。
ソルバーのパラメータは、
目的セル: Q = Vεa-Vεb = 0
変数セル: L
とします。結果を図-1に示します。必要なカラムの長さは14.6 cmとなりました。
<溶離曲線>
上記の例について、カラムの長さを10 cm, 15 cm, 20 cmとしたときの溶離曲線の計算例を図-3に示します。カラムに添加したLiとNaの物質量は等量(Q=0.01 mmol)としました。溶出液濃度の計算には次式を用いました(2022-07-10)。
C
= C*exp{-N(V-V*)^2/(2V*^2)}
C*=(Q/V*)√(N/(2π))
理論段高さの計算は⑧’を用いました。
また、Vが与えられたときのCの値は、What-If分析のデータテーブル機能を用いて、一括して計算しました。手順は次のとおりです(2019-03-08を参照)。
(1) 溶離液量(V=0~400 mL)のインプット(G4:G84)
(2) V=0のときのCa, Cbのコピー(H4=E19, I4=E29)
(3) データテーブルの作成:作成範囲の指定(G4:I84) ⇒「データ」⇒「予測」⇒「What-If分析」⇒「データテーブル」⇒「列の代入セル:E17」⇒「OK」
(4) グラフの作成:範囲の指定(G3:I84) ⇒「挿入」⇒「グラフ」⇒「散布図」⇒「散布図(平滑線)」(後はグラフを適当にカスタマイズする)
得られた溶離曲線(L=10, 15, 20
cm)を図-4に示します。
図-4から分かるようにカラムの長さを長くすると分離の程度は向上します。しかし用いる溶離液量は増加し、また溶離時間も長くなります。もちろん流速を速くすれば溶離時間は短縮されますが、理論段高さが大きくなってピーク幅は広くなり、さらにテーリングの危険性が生じます。要は、分離の目的に合わせて適切な条件を選ぶことが肝腎です。
<<溶離液へのメタノール添加>>
HCl溶離液へメタノールを添加すると、分離性がよくなることが知られています。メタノールを含む塩酸溶液を溶離液としたとき、Li, Na, Kをイオン交換で分離した例の要旨を次に示します。
「陽イオン交換樹脂アンバーライトIR-120(<100
mesh, H形), 水中みかけの容積12 mL, 高さ8 cmのカラムを用い、メタノール30%を含む0.2 mol/L HClを溶離液として、Li, Na, Kをそれぞれ1 mmol含む試料をカラムに加え溶離した。Liは溶出液およそ100 mL付近で最大ピークが見られ、溶出液およそ150 mLでLiはほぼすべて溶出した。しかしこのときNa, Kは溶出しなかった。溶出液およそ150 mLにおいて溶離液を0.2 mol/L HClに切り替えて溶離を続けると、Naはおよそ全溶出液200 mL付近で最大ピークが見られ、全溶出液280mLでNaはほぼすべて溶出した。しかし、Kは溶出しなかった。さらに、溶出液およそ280 mLにおいて溶離液を0.5 mol/L HClに切り替えて溶離を続けると、Kはおよそ全溶出液330 mL付近で最大ピークが見られ、全溶出液400mLでKはほぼすべて溶出した。(奥野ら:分析化学, 2, 428 (1953))」
この分離例では、メタノールの添加および溶離液の種類の切り替えによる分離効率の向上を図っています。
<<アルカリ金属イオンの相互分離>>
陽イオン交換樹脂カラム(AG 50W-X8)を用いるイオン交換分離の条件を「カラム長(L=20 cm)、カラム断面積(a=1 cm2)、間隙率(i=0.38)、樹脂の粒子直径
(φ=0.01 cm(≒150
mesh))、線流速(um=1 cm/min)、溶離液(0.2 mol/L HCl)、金属イオンの分配係数(Dv,Li=7.6,
Dv,Na=11.3, Dv,K=25.6, Dv,Rb=28.8, Dv,Cs=39.6)、各イオンの添加量(各々0.01 mmol)」としたときの溶離曲線を図-5に示します。
KとRbの分離を除いて分離は良好です。KとRbの分離には別途分離方法を考える必要があります。
たとえば、無機イオン交換体であるリンモリブデン酸アンモニウムを用い、溶離剤として0.1 mol/Lの硝酸アンモニウムを用いると、Dg,Li=0.57,
Dg,Na=0.78, Dg,K=4.7, Dg,Rb=266,
Dg,Cs=4024となることが報告されています(2022-06-12文献⑤)。また、結晶性アンチモン酸を用い、溶離剤として0.1 mol/Lの硝酸を用いると、Dg,Li=0.9,
Dg,Na=8.3×10^4, Dg,K=450,
Dg,Rb=1.4×10^3, Dg,Cs=8.3×10^3となり、溶離剤の硝酸濃度を変化させることによりアルカリ金属の良好な相互分離を達成しています(Abe: Bull.
Chem. Soc. Japan, 42, 2683 (1969))。






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