平衡問題の系統的解析方法については、既に述べましたが(2020-09-27)、今回もう一度概要を解説します。また次回以降は、酸塩基平衡の計算問題について具体的に説明します。   

<<平衡の系統的解析法>>
酸塩基平衡の計算問題を解くことは、次の3つの条件から関係式を作成し、この関係式を連立させて作った連立方程式を解く作業にほかなりません。
1)化学平衡条件
2)物質バランス条件
3)電荷バランス条件
以下、1価の弱酸(HA)を例として各条件とそこから導かれる関係式およびその解法について説明します。   

<化学平衡条件>
一定温度、一定圧力において溶液内の化学反応が平衡状態にあるとき、活量を用いた熱力学的平衡定数は一定です。希薄溶液において活量係数が1とみなされるときは、熱力学的平衡定数の代わりに濃度平衡定数を用いることができます(2022-09-25)。   

水溶液中のHAの酸解離反応の場合、
HA
H+ A-
Kaº = aHaA/aHA
Kaº = Ka(
γHγA/γHA)
Ka = [H+][A-]/[HA]
水溶液中では、水の自己プロトリシス反応が必ず伴います。
H2O H+ OH-
Kwº = aHaOH
Kwº = Kw(
γHγOH)
Kw = [H+][OH-]
これらが化学平衡条件から導かれる平衡定数式です。   

<物質バランス条件>
物質バランス条件は質量保存則を基に、「溶液に加えられた物質の全濃度(mol/L)は、平衡成立後溶液中に存在する未反応あるいは生成化学種の濃度(mol/L)の総和に等しい」という条件であり、この条件から物質バランス式が導かれます。「全濃度」は「式量濃度」、「分析濃度」、「仕込み濃度」などとも呼ばれます。「全濃度」と「溶液中の化学種の平衡濃度」を明確に区別して混同しないことが大切です。物質バランス式は対象とする物質ごとに成立します。   

Ca mol/LHA溶液HAに関する質量バランス式は、
Ca = [HA]
[A-]
となります。   

異なる物質が複数ある場合は、物質ごとに物質バランス式が成立します。「物質バランス式」は「物質収支式」、「物質均衡式」などとも呼ばれます。   

<電荷バランス条件>
電荷バランス条件は電気的中性の原則から導かれ、「溶液中の正の電荷の総和は負の電荷の総和に等しい」という条件で、この条件から電荷バランス式導かれます。   

水溶液中のHAの電荷バランス式は、
[H+] = [OH-][A-]
式を一般化すると、溶液中の陽イオンをMimi+, 陰イオンをNini-として、
Σmi[Mimi+] = Σni[Nini-]
となります。   

一つの平衡系に対して電荷バランス式は1個だけです。「電荷バランス式」は「電荷収支式」、「電荷均衡式」などとも呼ばれます。この式はミクロな状況(たとえば界面付近など)では成立しません。   

<条件式の個数と未知数の個数>
未知の濃度の個数(n1)と条件式の個数(n2)とは一致します(n1=n2)。条件式は互いに独立である必要があります。もし、n2n1ならば条件式が不足しているか、未知数が多すぎます。この場合は新たな条件式を追加するか、n1=n2になるまで未知数に一定値を与えて未知数から外す必要があります。   

Ca mol/LHA溶液関して言うと、
未知数の数はCaが既知の場合[H+], [OH-], [HA], [A-]の4個また、pHが既知ならば、未知数の数はCa, [OH-], [HA], [A-]の4個

条件式(次式)の個数は4個。
(1) Ka = [H+][A-]/[HA]
(2) Kw = [H+][OH-]
(3) Ca = [HA]
[A-]
(4) [H+] = [OH-]
[A-]
したがってこの連立方程式は解くことができます。   

<連立方程式の解法>
連立方程式は多くの場合高次方程式となるので、解法に工夫が必要です。おもな方法は次の通りです。
a)
 近似式による方法
たとえば、濃度既知の1価の弱酸HAの場合、解くべき式は[H+]に関して3次方程式となります。この3次方程式に対し、化学的にあり得ると考えられる前提条件を加えて近似を行い、次数をさげて2次方程式あるいは1次方程式にして解を求めます
(2020-10-04)

近似ができるのは和や差で表される項です。この項のうち、ある項が他の項に比べて非常に小さいならばその項は無視することができます。無視できるかどうかの判断は求める答えの精度によります。また近似を行ったならば、求めた解が前提条件を満たすかどうかを確認する必要があります。   

b) 表計算ソフトを利用する方法
表計算ソフト(たとえばMicrosoft社のExcel)を用いて、高次方程式をそのまま解く方法です。Excelを用いる場合にもいくつかのやり方があります。たとえば、2分法を用いる方法
(2019-03-07)、ソルバー(2019-04-07)を用いる方法などです。   

c) 図による方法
酸塩基平衡の問題に対して、濃度の対数値とpHの関係を作図(対数濃度図)
(2020-11-15)して解を求める方法です。対数濃度図を用いると、厳密な解は求めることができませんが、直感的な理解が容易に得られます。   


系統的解析法のフローチャートを-1に示します。   

-1

 2022-10-02-fig1


計算問題のパターンと具体的な例題については次回以降説明します。